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災世のディザイアスター  作者: 和尚
第3章 栄える町、消えゆく町
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第60話 今と、昔



 『ガビナボル』というフォートがある。


 そこは、いわゆる『中小フォート』と呼ばれる規模のフォートであり、『ヴォーダトロン』のような規模や影響力もなければ、『サラセニア』のように際立って特殊なところがあるわけでもない。

 他のフォートと交易などを行い、助け合ってどうにか運営している、という程度のフォートだ。


 そこを今、ハルキ達は訪れていた。


 今このフォートには、ファティマを代表とする『使節団』が視察のために訪れており、ハルキ達『第7特務部隊』――もちろん、新たに加わったマリカを含む――は、その護衛である。


 言ってみれば『サラセニア』の時と同じような状況なわけだが……当然、場所も違えば目的も違うため、以前の遠征時とは異なっている点がいくつもあった。


 まず、何と言っても規模。

 『サラセニア』に行った時は、交易や物資の援助も目的の1つだったため、多数の武装した輸送車両に、様々な物資を満載して向かっていた。

 それを提供するとともに、『サラセニア』で魅力的な交易品はないか見て、それらを購入して積み込み、戻ってくる。そんな一幕が、ハルキ達護衛陣が関わっていないところで、ヴィルジニア主導のもと、繰り広げられていたりもした。それらに必要な人員も同行していた。


 だが今回は、あくまで『視察』のため、車両の数はもちろん、使節団自体にそこまでの規模はない。せいぜい、ファティマを含めた使節団の主要な人員を運ぶための車両と、その他色々な雑務を担当する人員のための車両。そして、それらを守る護衛の『第7特務部隊』といった程度だ。

 規模的にコンパクトであるため、移動も早いし、護衛も楽だった。


 次に、当たり前だが、目的。

 今回は、フォートの『視察』が目的である。具体的には、そのフォートがどのように運営され、そこにどのような工夫がなされているか。それらを『ヴォーダトロン』に持ち帰って取り入れたり、応用して活かしたりすることが可能かどうか……など、そういった部分を観察し、学ぶ。


 規模的に劣るとは言っても、そこにおける全てが『ヴォーダトロン』のような大規模フォートに劣っているというわけではない。

 むしろ、小規模だからこそ見習うべき点がある、などということはよくある。


 資源が限られているフォートでは、いかにして無駄を少なくし、効率的にフォートを運営すればよいかという至上命題について、常に研究が進められているからだ。

 中には、大規模なフォートが驚かされてしまうような、非常に効果的で革新的な政策を、中小のフォートが考え出して実践していた、などといこともよくある。


 より少ない資金や資源で、最大の効果を出す、というというのは、この『災害世紀』において、フォートの大小を問わず、全てのフォートにおける至上命題である。

 ゆえにどのフォートも、自分達で考えるのはもちろんとして、他のフォートにそういった役立つノウハウがあれば、視察や見学を申し入れてそれを学んだり、買い取り交渉などをしてノウハウを教えてもらったりすることはよくある。

 そしてそれを自分達のフォートでも実践し、より効率的に都市運営を進めるのだ。


 今回のこれもその一環である。どうやら、総司令部……ないし、意思決定機関である『議会』で協議された結果として、このフォート()への派遣が決定されたらしい。

 つまり、このフォートには何かしら、都市運営に関して学ぶべき点がある、と判断された、ということだ。


「もっとも、直接的な見学を行うのも、得られた情報や知識の取捨選択を行うのも、正規に『視察団』として訪れているファティマ局長他の方々ですから、結局私達がやることには変わりはありません。周囲を警戒し、『使節団』の方々の安全確保を行うのが仕事です」


「それもここに入って以降は、半分は『ガビナボル』の人達がやってくれてるけどね。もう半分も隊長達に任せとけば大丈夫でしょ。私達は、ここで待機してるのが仕事だね」


 会話の通り、今現在、『第7特務部隊』は隊を2つに分けている。


 ファウーラ、クリス、セリア、ハルキの4人が、ファティマ達使節団の護衛のために同行している。

 その使節団は、今まさに『ガビナボル』のフォートを視察……各所を見て回っているところだ。


 そして残り4人……シド、ロイド、メリル、アキラ、そしてマリカの5人が待機班である。

 AWほか車両、及びその中の荷物の番をしているのに加え、車載されている長距離通信機で総司令部や他の隊から何かしらの報告が入らないかに備えて、という役目もある。その場合は、この中で最も階級が高く、『副隊長』という役職にもついているシドが応対し、意思決定することになる。


 なお、そのシドはさっきから


「でも、護衛なのにシド……あー、副隊長がついていかなくて大丈夫だったんすか? うちの部隊で白兵戦最強って、副隊長っすよね?」


 仕事の合間を縫っての、シドによるハルキとアキラへの指導はまだ続いている。

 最近は色々と忙しくなってきているので、頻度は落ちていたが。


 その中には徒手格闘による戦闘訓練も当然あった。妥協を許さないシドの方針であるので、ハルキもアキラもみっちり動き方、戦い方を叩き込まれている。


 特にハルキは、『レックス』の操縦時、メインで機体の動作を担当する。

 体にかかるGなどの関係から、AWに激しい動きをさせる戦闘では、パイロットの身体能力がそれに見合ったものであることが必要になる。

 

 加えて、『レックス』は思考操縦であるため、イメージの早さと正確さ、的確さが、そのまま戦闘能力に直結すると言っていい。より正確かつ堅実に『戦う動作』をイメージできること、効率のいい動き方を、考えずとも体が覚えているレベルで理解していることが重要なのだ。


 それもあってハルキに対しては、シドの教練は特に力が入っている。

 ハルキも、苦労しながらもどうにかそれについていっており、徐々にだが確実に力をつけてきていた。今回、護衛班に選ばれたのは、その成長を鑑みて、という面も実はある。


 そんな格闘訓練で、ハルキとアキラは……いや『第7特務部隊』は、全員がシドの強さを知っている。アキラの疑問はそこからくるものだった。


 が、ロイドは『そりゃそうだろ』と言う。


「班を分けるなら、原則どっちにも意思決定権を持つ立場のまとめ役が必要だろ? 隊長があっちに行くならシド……副隊長はこっちに来るさ。それに、護衛っつっても、もうフォートの中だ」


「確かにシドは生身でもめっちゃ強いけど、どっちかって言えば私達がメインで担ってるのは道中の護衛だしね。クリーチャーとか相手の。フォートの中にクリーチャーは基本でないし、行く先の施設とかにはそこ自体にも警備とかいるだろうから、そこまで危険じゃないよ」


「スラムとか無法地帯に行くわけでもないしな……それに仮に襲撃されたとしても大丈夫だと思うぞ? 知らないかもだけど、隊長もクリスも、セリアも結構強いし」


「え、そうなの?」


 少し意外そうに、マリカが聞き返す。その横では、同じようにアキラもきょとんとしていた。


 もちろん、軍人である以上、ファウーラ達も訓練は受けて、ある程度の白兵戦技能も身に着けているだろうとは理解していた。使う機会はほとんどないが、マリカも身に着けているし、ハルキと同様にシドに訓練をつけられているアキラも多少は戦えるようになっていた。


「まあそりゃ、シドに比べればアレだけどさ……AWの操縦と同じで、セリアは狙撃、っていうか銃の扱い全般めっちゃ上手いし、隊長も文武両道で、特に早撃ちが得意なんだぜ? クリスは銃もナイフも扱い上手い上に、あいつよく『副業』でスラムとか行くだろ? 自衛のために、服の下に暗器とか隠し武器めっちゃ仕込んでるんだって。使ったのは見たことないけど」


「そうなんすか……知らんかった」


「まあ、部隊みんなで訓練する機会なんてないしねー……あ、ちなみにハルキってどうなの? シドに教えてもらってるんでしょ、強くなった?」


「結構強い方だと思うよ? 私、稽古してるとこ見たことあるんだけど……ハルキもアキラも元々基礎体力あるから、技能方面の教練メインで……うん、それなりの錬度にはなってると思う」


 と、マリカ。言った通り彼女は以前、ハルキ達の訓練を見学してみたことがあった。


 シドの訓練は、本人が以前に言っていた通り、『お行儀よく教える』というような、丁寧さからは程遠く、かなり実戦的な動きを最初から取り入れたものだった。


 また、ハルキは『レックス』を戦闘モードで操縦する際、肉弾戦で、特に背部の武装ユニットが変形した脚部を使った蹴り技をよく使っていることから、それに役立つ動きを覚えさせるため、各党は蹴り技を主体に訓練していた。

 まだ荒々しさはあるのだろうが、短期間で鍛えたにしては、それなりのものに仕上がっていたのではないか。マリカの目には、お世辞抜きにそんな風に映った。


「それならなおさらだな、あっちは任せといて何も問題ないってことだ。俺達はこっちの仕事にきちんと集中しようぜ」


「特にやることもないんだけどねー」

 

 また軽いで、世間話など思い思いに語らい出す4人。


 なお、自身のことが話題に上がりもしたシドだったが、興味がない、と言わんばかりに黙ったままで、最後まで話に加わってくることはなかった。




 アキラ達『待機班』がそんな軽口を交わしている頃、もう一方……ハルキ達『護衛班』は、ファティマ達についてあちこちを回っている所だった。


 もちろん、新兵の着任時の案内ではないのだから、司令部の部屋を1つ1つ回って案内してもらう……とかいうような形ではない。フォート内にある主要な施設、言ってみればフォートが誇る、自慢できる『見どころ』『名所』などを案内してもらっている形だ。


 ヴォーダトロンから来たファティマ達は、そこで行われている事業や政策がどのようなものか、どの程度優れていて、ヴォーダトロンでも真似できそうか、などを考えながら見て回っている。


 一方『ガビナボル』側、代表者や案内の担当者達は、いかに自分達の取り入れているシステムが優れているか、いかに優秀で、大規模フォートの取引相手として優秀かを懸命にアピールしている形になっている。


 彼らにとっては、これはいわばプレゼンの機会だ。ここで能力を認められ、ヴォーダトロンのような大規模なフォートに気に入られて、より密接な関係になりたい。

 そうして交易の機会を増やしたり、提携する事業を持つなどすることができれば、利益を出し、フォートが力をつけて豊かになる助けになる。


 言ってしまえば単純な話なのだが、中小フォートにとって、他のフォートとの協力関係は冗談抜きに死活問題である。ましてその相手が大規模フォートならなおさらだ。

 交易はもちろん、いざという時――強力なクリーチャーの出現時や、経済的に危機に陥った際など――助けてもらうためにも、そういった面での努力を惜しむのはあり得ない。


 ゆえにこそ、今回この申し出があった時から『ガビナボル』の主導部は入念に準備を進め、案内・紹介する施設や事業、制度を厳選し、最大限のアピールをするため練習も抜かりなく行って来た。


 ……というのを、こちらもプロであるファティマ達や、それなりに場数を踏んでいるファウーラやクリスは感じ取ることができていた。セリアも、そういうものだと理解していた。

 なお、ハルキは純粋に『張り切ってんな』くらいの感想だった。もっとも、大規模フォートと中小フォートの力関係は理解しているので、少し考えればわかることではあるだろうが。


「つまり防衛体制としては、各所に支部や屯所を置いて連絡を密にし、そこから随時報告を上げる形で情報を集め、解析しているのですね?」


「ええ、さらにその支部から各所に協力者を作り、内外の情報を集めるということもやっています」


「その協力者というのは、民間の?」


「蛇の道は蛇、と申します。司令部など公的な機関がどうやって調査しても、どうしても拾えない情報というのはやはりあるもので……そういった分野に詳しい者を協力者に選んでいます。無論、信頼できる相手に限ってで、また上がってきた情報もその都度精査した上で報告しています。情報はもちろん、資源や人手の調達などに関しても役立つ、ないし助けられる場面は多いですね」


「なるほど、販路はどこにどう広がっているかというのも、事業者によって千差万別ですからね……事業者としても、利益が出るのであれば願ったりかなったり、というわけですか」


「ええ、こちらとしても益があるのに加え、そういった善良で信頼できる業者が成長して力を持ってくれるのは、フォート自体の力の増強にもつながります」


(……ふむ、単純だがよく考えられている。もちろん、協力者の選定や情報の取り扱いには細心の注意が必要なのだろうが……ヴォーダトロンでも取り入れられるか? 展開させる規模にもよりそうだな……『ガビナボル』とうちでは規模が違う、管理しきれるかどうかも重要な点だ……)


 やり取りと同時進行で思考しつつ、さらに必要なことをメモを取って記録していくファティマ。


 そこから少し離れたところで、同じように施設などをハルキ達も、護衛しつつ見学している。せっかくの機会ということで、任務に支障が出ない範囲で、自分達も見て聞いて勉強していた。


「外部の人手やネットワークも上手く使った事業か……クリスがスラムの人らを使ってやってるやり方に近いんじゃね?」


「かもな。というより、規模や範囲を違えれば、ある意味どこででもやってることだ。ただ、公的な部分で市井から吸い上げた情報を扱うのは舵取りが難しいから敬遠されてるがな」


「その問題点を解決するノウハウがここにはあるということですから、有益な情報になりそうですね……今回の視察はこれが主目的だったのでしょうか?」


「いや、これっていう目玉情報があったわけじゃないらしい。引きがよかったんだろ」


 ハルキに続いて、クリスやセリアも発言。ただし、ファティマ達の話の邪魔にならないように、小声で。

 説明を聞いていると、各所に『なるほどそんな手が』と思わせられるような点も多くあった。しかも、護衛としての同行で、こう言っては何だが、ファティマやファウーラよりも学ないし知識という面で劣っていると言わざるを得ない、ハルキでもきちんと理解できるような形での説明だ。


 恐らく、説明のわかりやすさとしてもそうだが……少しでも多く、このフォートに好印象を抱く者を作っておきたいという、アピール面での思惑もあるのだろう。クリスやファウーラなど、察しのいい面々はそうあたりをつけた。


「でもホントに大したもんだな。それ専用の設備とかもなしに、限られた資源や資金力で結果を出す……か。そんなノウハウも、あるところにはあるもんなんだな」


「必要に迫られて、な面も強そうだけどな。もっともこのご時世だ、似たような話なら、割とどこにでも転がってるだろう。それまであったものがいきなり失われて、生き残るために必死で新しい手法やら何やらを構築して……そうしてどうにか生き残れた者達だけが、今を生きてる」


「クリス少尉に同意します。先程も話に上がりましたが、今聞いた手法の中には、舵取りが非常に難しい、リスキーなやり方も多くありました。それを承知で、ものにする必要があったのでしょう」


 クリスに続けて、セリアも付け加えるようにそう言った。


「旧時代から『災害世紀』への移り変わりは、かなり短期間で急激に起こりました。そして、その急激な変化に対応できなかったフォートは、次々に滅んでいきました。具体的な原因ですが、自然災害やクリーチャーの出現による被害以上に、環境の変化によるものが一番多かったそうです」


「環境の変化……その言い方だと、災害の頻発で気候とか生態系が狂った、とかいう意味じゃないんだよな?」


「はい。士官学校時代の教本からの抜粋になりますが……『今まで当たり前だった常識が通用しなくなったこと』こそが、最も当時の世界を苦しめた、とのことです」


 セリアが続けて言う。知識や事実を説明する時の彼女は、常の寡黙さを感じさせない饒舌さだ。


「以前お話したことがあるかと思いますが、『旧時代』の世界は、国や地域による差が大きかったとはいえ、世界全体で見たテクノロジーの進歩度は、一部のオーバーテクノロジーを除けば、今の時代よりも数段進んでいました。光速で情報をやり取りできるネットワークで世界中がつながっていて、一般の市民が当たり前のようにそれらにアクセスできる端末を持っていたそうです」


「今もその残骸、あるいは残照みたいなもんは、公的なものであればごく一部で運用されているが……それだって大規模なフォート間で連絡を取ったりするのが主な使用用途だ。一般市民に至るまでそれが可能だった世界か……ちっと想像しづらいな」


「そういった技術の進歩や普及に付随する形で、物質的にもかなり豊かな世界だったようです。国によって差は大きかったようですが……一部の『先進国』と呼ばれていた国は特に顕著だったようで……今の時代からは考えられないような、贅沢ないし無駄なこともまかり通っていたそうです」


 曰く、国中で、しかも一般市民であっても、普通に電気・ガス・水道を使うことができた。


 曰く、自動販売機が街中に普通に置かれていた。


 曰く、商店で買い物をすれば無料で袋をつけて渡してもらえた。しかも、布や紙ではなく、貴重な石油資源を使って作られた『ビニール袋』をだ。


 曰く、食べきれないほどの食事を構わず買ったり注文したりして、そのまま忘れて腐らせたり、実際食べきれずに残ったものを、惜しむこともせずに捨てていた。そして同じことを繰り返す。


 どれもこれも、今の時代を生きる者達からすれば、およそ考えられないようなことだった。


 特に最後の1つなど、聞いただけで憤りを覚える者も少なくないだろう。

 その日食べるものを手に入れるだけでもどれだけ大変か、それも手に入らずに死んでいく者がどれだけ多いか。

 幸いにして、ハルキ達はそういう意味では恵まれた立場にいるが、世界のどこかでは……などと言わずとも、同じフォートの路地裏や、すぐ近くの中小フォートなどにでも行けば、当たり前にそんな境遇の者はいる。


 しかし、それらがまかり通っていた時代が確かにあったのだ。それを、悪いことだ、よくないことと言いながら、わかっていながら、なあなあで見過ごしていた時代が。


「……すごい話だな。そんな夢みたいな時代があったのか、過去には」


「どこにでも、というわけではないようですが。それと個人的には、夢は夢でも悪夢だと思います……豊かさに溺れて、甘えて、堕落した時代だと、教本にもありました」


「珍しく毒舌だな、セリア。まあ、それも人によるのかもしれねえが……刹那的に、今の自分さえよければそれでいい、未来なんか知らねえ、とか思うような奴らからすれば、その時代のその生き方は性に合ったもんだったんだろうさ」


「そんな時代を、そんな考え方で生きていたんだとしたら……それらをいきなり全て奪われた日にゃ、生きていけるわけねえわな」


 店に行けば、いつでも好きな時に、好きなだけ食べ物を買える時代。

 蛇口をひねれば好きな時に、好きなだけ水が飲める時代。

 知りたいことを知りたいときに知ることができて、遊びたいように遊べた時代。


 そんな生き方が当たり前で、誰も何も言わなかった時代。言われても無視して、それで何も問題なく世界が回っていた時代。


 そんな時代が終わった瞬間、彼らは絶望しただろう。


 どうやって食べ物を手に入れればいいんだ。

 どうやって飲み水を手に入れればいいんだ。

 どうやって情報を得ればいいんだ。


 どうしてこんなにつらいんだ。

 どうしてこんなに厳しいんだ。

 今までは違ったのに。楽で、楽しくて、好きなように生きていれたのに。


 こんな世界、理不尽だ。絶対に間違ってる!


 そんな風に、嘆くことしかできずに死んでいった人が、きっと数えきれないほどいたのだろう。


 あがくことすら知らず、今まであった『当たり前』を奪われただけで、それがイコールで命を奪われる結果になった人が、その結果滅んだ国や組織が、世界中にあって……そうして、どうにか生き残った者達が寄り集まって、今の世界が形作られたのだろう。


 もちろん、その時代はそれが正しかったのだろうし、その時代の生き方が『信じられない贅沢』だと指摘するのは、今の時代……『災害世紀』を生きる者達の常識に沿った価値観ゆえだろうが。


 それでも、その時代にもう少し生き方を、やり方を変えていたなら、今の時代はもう少しマシな世界になっていたんじゃないかと、聞いていた者達は思わざるを得なかった。


「……気持ちは大いに察しますが、3人とも。少しずつ音量が上がってきていますから、少しだけ声を抑えてくださいね」


 と、少し前を歩いていた隊長・ファウーラの声が割り込むように聞こえたことで、はっとして3人共口をつぐんだ。どうやら、少し話に熱が入り過ぎていたらしい。


 恐らくは、アウトラインを超える前に注意してくれたのだろう。視察しているファティマ達や、案内している『ガビナボル』の面々が気づいた様子は、ない。


 静かになった3人をちらりと見て、ファウーラはよし、とでも言うようにうなずいた。


「……まあ、気持ちはわかりますよ。私も、教本でその部分を読んだ時は、同じようなことを思いましたし」


「あ、隊長もだったんですか。まあ……今からしたら別世界ですもんね、色々と」


 やっていることも、それができてしまう環境も、それを見過ごしてしまう価値観も。

 口には出さなかったが、ハルキに加え、クリスもセリアも、そしてファウーラも同じようなことを頭に思い浮かべた。まさしく『別世界』。よく言ったものだと。


「……そんな時代が続いたからこそ、危機感が抜け落ちて……一気に崩れ去ってしまったのかもしれませんね」


 どこか遠くを見るような目になって、ファウーラは言った。ふぅ、とため息を1つ。


「私達は、そうならないようにしないといけませんね」


 そう、呟くようにぽつりと言って、歩き出す。

 同時に、使節団の面々も歩き出す。どうやら次の見学場所に行くようだ。


 はぐれないように、ハルキ達ももちろんそれについていく。適度に距離は保って。


 丁度区切りがいいところまで話したところだったので、口は、閉じていた。





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