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災世のディザイアスター  作者: 和尚
第3章 栄える町、消えゆく町
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第59話 休日その頃、妹



「ハルがマリカとデートしてた?」


 食堂で少し遅めのランチをぱくついていたアキラが、口いっぱいに魚のフライをほおばりながら、今しがたメリルが持ってきた情報に聞き返した。

 そのメリルはと言うと、やはり年頃の女の子、こういう話題は好きなのか、目をキラキラと輝かせて『そうそう!』と頷いている。テーブルの対面の位置から前のめりだ。近い。


「や、私も見かけたのは偶然だったんだけどね? ちょっと昼休みに買い出しに町に出たら、2人で一緒に食事してたの! びっくりしちゃった!」


「へー……たまたま一緒になっただけとかじゃねーの?」


 隣に座っているロイドはそう尋ねるが、メリルは『絶対違う』と断言。


「たまたまで会うような店じゃないよ。そのへんのファストフード的な店ならともかく、お洒落なカフェでだったもん。堅苦しいわけじゃないけど、一般庶民向けではないかなー、って感じの。それにその後、2人そろって買い物に出て、アクセサリーとか見てたんだよ!」


「マジか。それは確かに……えーでも、あの2人が……?」


 意外と言うか、予想もしなかったという感じで頭をひねるロイド。


 確かにあの2人……ハルキとマリカは仲がいい。『サラセニア』でも、一緒に行動していることも多かった。

 しかし、ロイド達からすれば、あくまで友達付き合いの範疇ではないか、という程度の印象だったし、そもそもハルキは基本、ある程度親しい知り合いであれば、男女関係なくほとんど同じ態度で接する。マリカだけでなく、メリルやセリアも。


 妹であるアキラや、上司であるファウーラに関しては流石に違うが、それは仕方ないだろう。立場がそもそも違ってしまうわけだし。


 だがメリルの話を聞くと、確かに親しい友人……の中でも1歩先に進んだようなことをやってる気がしなくもない。休日に一緒に買い物やランチとなると。


「これってやっぱり、あの2人お付き合いし始めたのかな? ねえ、どう思う?」


「あー、それはないっすよ、メリル」


 が、目の前に座っている当人の妹にばっさりと切り捨てられた。


 そう聞いて、きょとんとするメリル……と、ロイド。

 そんな2人に、ほおばっていたものを飲み込んで口の中を空にして、さらにお茶で残らず全て胃に流し込んでから、ふぅ、と息をついて……で、ようやくアキラが続きを口にする。


「こないだマリカ、『副業』の関係でちょっと市場とか街中を見て回りたい、って言ってたんすよ。その時、ちょうど今日ハルが休みだってこと伝えたら、偶然その日マリカも休みで……で、ちょうどいいから案内頼もうかな、って言ってたっすから。それじゃないんすかね」


「え、『副業』? マリカ何か副業やってんの? ここ来たばっかなのに?」


「いや、これから始める『副業』が何かいいのないかって考えてるみたいっす。こないだクリスの『副業』見て、市場のニーズを把握したいとか何とか言ってたから」


 マリカが『サラセニア』の孤児院の出であり、将来の移住に備えて、弟妹や施設の職員である兄姉達の居場所をこの『ヴォーダトロン』に作るのだという意気込みでいることについては、部隊の面々は皆知っている。

 そのために、『副業』を探しているというのは、メリルとロイドは今初めて知ったが。


 その関係で市場を見て回りたくて、案内役としてちょうど同じ日に休みになっているハルキを頼ろうか、というところまで話したのを、アキラは当時横で聞いていた。


 ゆえに、『ああ、実行したんだ』という程度の認識であり、デートではないな、と即座に思い当たった、というわけだった。


「そのアクセサリーの店も、今どういうのが流行ってて需要があるのかとか見てただけじゃないっすかね? あたしが知る限り、ハルキもマリカも飾り物に興味とかないっすよ」


「あー……確かにそうだな。ってことは、やっぱメリルの勘違いか」


「えー、そうなの? なんだ、つまんない」


 面白そうな話題を見つけたと思ったら当てが外れたメリルは、口をとがらせて不満げにしていた。そのまま、自分のぶんの食事をさっさと口にかき込んで片づけ始める。


「職業柄というか何と言うか、軍人って身近にこういう話題ないんだよねえ……せっかく面白そうな話題が見つかったと思ったのに……ちなみに、もしホントにマリカちゃんとハルキがつき合ってたとしたら、アキラちゃん的にはアリ?」

 

 せめて想像ないし仮定の話で我慢することにしたのだろうか、そんなことを聞いてくる。

 他のおかずも含めて、目の前の皿を全て奇麗に空にしたアキラは、その問いに『うーん』と腕を組んでしばし考え始めた。


「……ちょっと想像しづらいっすね。まあ、仲悪いわけじゃないから嫌じゃないと思うけど……マリカが義姉かあ……? まあ、家が明るくなっていいんじゃないっすか?」


 『家って言っても今は借家っすけど』としれっと言うアキラ。

 真剣に考えたのだろうかと2人が思ってしまうほどに、あっさりとした答えだった。


「適当だな、おい。身内が結婚するんだぞ、もうちょっとこう……いや、たとえ話だけどな」


「なんか他人事っぽいね……普段はあんな、一蓮托生、一心同体、ってくらいに一緒にいるのに。もっとこう、自分のことのように喜ぶとか……あるいは逆に、自分以外の女が近づくのを敵視するとか……『お兄ちゃんを取らないでよ、この泥棒猫!』みたいなアレはないの?」


「そっちもやだよ、やめろよお前メリル、折角仲良さげにまとまりそうだってんだから、過度にドロドロさせようとしないでくれよ。やだよ職場の同僚間でそんな……いやたとえ話だけどな?」


「いやでも実際、想像つかないんすよね……あたしにとって『家族』って、大分前に死んじゃったお父さんとお母さんを除けば、ここ十数年ずっとハル1人っすから、増えるって言われても……友達以上の関係ってもんを思い浮かべるのが難しいんす。あたし自身、恋愛経験もないし」


 だから、他人を『ライク』ではなく『ラブ』で好きになると言う感覚が、自分にはわからないし想像もできない。自分が、あるいはハルキがそうなって、その結果今がどう変わるかというのも。

 もしかしたらできるかもしれないが、少なくとも今までしたことはなかったし、今すぐには思い浮かばない。


「ハルキのことだけでなく、アキラちゃん自身についてもか……あ、じゃあさ、例えば、よく聞く話なんだけど……女の子ってお父さんとかお兄ちゃんが初恋の相手だったりするじゃない?」


 この時点で隣のロイドは『あ、何が言いたいかわかった』という感じの顔になったが、構わずメリルは続ける。


「いっつもあれだけべったりなんだし、正直私、アキラちゃんってハルキのこと好きなんじゃないかな~、って思ったりしたことあったんだよね。そういうのはなかったの? いやほら、今禁断のアレコレとかじゃなくてもさ、初恋相手はお兄ちゃんです、みたいな」


「ないっすね」


「おう、即答」


 アキラ、またもバッサリ。


「さっきも言った通り、多分っすけど……私、そういう感じで人を好きになったこと、ないんすよ。そんな余裕なかったし……あと、ハルに関しては、逆にもうなんていうか……長く一緒にいすぎて距離が近すぎて、他人って感じがしないレベルなんすよ、むしろ」


 公私に渡るパートナーとして、10代も前半の頃から常に一緒にいて、戦って来た。

 こと、技術者としての仕事の場面であれば、簡単な声かけや、ノーサインですら意思疎通・連携して作業に当たるなど朝飯前である。


 さらに言えば、ケガなどで必要であれば、一緒の入浴や同衾も特に気にならない。

 というか、今でも時々、心細くなると無意識に布団に潜り込んでしまう。それが全く恥ずかしくないわけではないが、そこまで異質なことだとも思わない。ハルキも別に嫌がったりはしない。


 初恋という感情も、所詮は『他人同士』であることが前提のものである以上、そんな段階はすっ飛ばしている自覚、ないし自信があった。


「だから、ないっすね」


「マジか……そういうレベル?」


「多分だけど、ハルも同じようなこと言うと思うっすよ?」


 ちょうど、同国……とは言わないまでも、同日、町で買い物をしていたハルキ達も、その予想通りのことを話していたのだが、もちろんそれをアキラが知るはずもない。

 ただ単に、彼女のハルキへの理解に基づく予想が当たっていたというだけの話である。


「あーでも、そう考えると……逆に、ハルキと離されるようなのは嫌かも……うん」


「そっかあ。じゃあ例えば、ハルキが『結婚するからこれからは別々に暮らそう』とか言い出したらどうする?」


「……ハルキはそんなこと言わない、と思うっすけど……うーん、是が非でもついてくかな……」


 さっきまでと違い、明確に『面白くない』とでも言いたげな表情になっているアキラ。

 それを見てマリカは、『案外『泥棒猫』あるかも』などと密かに思っていた。



 ☆☆☆



 午後の仕事開始直前、アキラたちが事務室に戻ると、既にデスクについていたファウーラが、3人を見るなりすっくと立ちあがった。


「戻りましたか、アキラ。今、少しよろしいですか?」


「? いいっすけど……何か仕事っすか、隊長?」


「ええ。もっとも、今日これからではないのですが……来週、いえそれ以降ですね、かなり大きなスケジュール変更を伴う仕事が入りそうなので、それに関する事前の連絡をと思いまして。ハルキとマリカにも話したいのですが、今日は休みですからね」


「そうなんすか。なら、今日帰ったら私がハルキにも伝えておくっすよ。どんな仕事っすか?」


「大きなスケジュール変更っていうと……遠征か何かかな?」


「また商隊の護衛ですか?」


 メリルとロイドも続けて尋ねる。ファウーラは、あらかじめ用意していたらしい、その仕事に関する資料を3人に配りながら、口を開く。

 なお、既に部屋にいたシド、クリス、セリアにはもう資料は配布済みのようだった。


 配られたそれに目を通すと、メリルとロイドの予想は、どちらも外れてはいないものの、微妙に違っていることが見てわかった。


 確かに、内容としては遠征で、なおかつ護衛任務だが、守るのは商隊ではない。

 この間、『サラセニア』に言った時と同じ、『使節団』だった。


「使節団、って……また新しいフォートと交易関係を広げるとか?」


「いいえ、今回は……まあ、交易関係の話もなくはないですが、メインは『視察』なのです」


「視察?」


「ええ、様々なフォートを見て、どういった体制で運営しているか、どのような資源の活用の仕方をしているかなどを……まあ、簡単に言えば見学して、この『ヴォーダトロン』の運営などに役立てるためのものです。もちろん、『視察』そのものをするのは、ファティマ達使節団の方で、我々はあくまでその護衛、ないし付き添いなのですが」


「へぇ……そういうのもあるんすね。ちょうどマリカが『副業』とか探してるらしいし、こういう仕事って言うか機会、喜ぶんじゃないっすか?」


「かもな。けど、れっきとした仕事で行くんだ、そこは忘れないで、ちゃんとやれよ? ていうか、また代表ファティマさんなのか……」


「わかってるってロイド。でも隊長、コレ……結構色んなとこ行くんだね?」


 資料に目を落とすと、確かにメリルの言う通り、そこに記されている『訪問予定先』とされているフォートは、中々に多い。

 一応、いずれも『ヴォーダトロン』とは協力関係にあるフォート、あるいはそこから紹介してもらった、多少なり縁のあるフォートのようだが、資料にある限りでは、かなり特徴や立地条件などが違うフォートが揃えられているように見える。


 言った通り、『様々な』フォートを見て参考にするのが目的、ということなのだろうか。


 色々と質問してくるメリルたちに対し、対象的にじっくりと、静かに資料を見ていた3人……シド、セリア、クリス。

 そのうち、クリスが、資料を一通り見終えた後で、メリルたちの話が途切れたタイミングを見計らってファウーラに声をかけた。


「隊長、この時期に視察ってのは珍しいな? しかも、スケジュール的に随分過密に詰め込んだ印象を受けるんだが……何か理由でもあるのか?」


「この日程ですと、予備日を含めても……来週以降数週間、第7特務部隊はほぼ遠征に出動しっぱなしになるかと思いますが……通常業務の方は問題ないのですか?」

 

 セリアもさらに追加するように尋ねる。

 その疑問については予測していたのか、ファウーラはよどみなく答えを返した。


「……ええ、少々、他の事業等との絡みでして……詳しいことは、まだ企画途中の段階なので話せないのですが。業務については、必要に応じて他部署に引継ぎや割り振りを行ってもらう予定になっていますので、大丈夫です」


「そうか……」


(つまり、遠征の護衛を『第7』以外にやらせるって選択肢はない、と? いや、俺達だけがこの状況になってるとは限らない。他の部隊も動員されていて、複数の使節団を同時展開させていくつものフォートを視察しているとしたら……そっちの方が大ごとじゃねーか? 今回またファティマ局長が動員されてるってことは、コレは総司令、あるいは議会の意向だろうし……どんな『事業』に手を出そうとしてるんだ……?)

 

 クリスは、ファウーラの回答から読み取れる意味を、できるところまで考えて理解して、しかし口には出さずに心の中だけでそう確認するようにした。


(いずれにせよ、色々と忙しくなりそうだな。儲け話になるようなことなら歓迎だが、さて……)





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