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災世のディザイアスター  作者: 和尚
第1章 ディストピア2068
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第5話 鋼の卵



 事件は、その日午後からの採掘の最中に起こった。


 午前中の仕事を終えたハルキ達は、ムーアが手配した弁当を食べて腹を満たし、体力を回復させて、午後の作業に当たっていた。

 内容自体は、午前中にやっていた作業と変わらない。鉱道内部の状態などを見て、適宜場所や手法を変えて作業に当たっていることくらいである。


 午前中に問題を起こした不良作業員たちは、当然のごとく現場から追放されている。

 彼らと彼らを派遣した業者は、未遂に終わったとはいえ、信義に反する行為を行ったとして、重大なペナルティを背負うこととなった。罰則金に加え、その当事者たちが以後一切作業に加われないことから、その分が棒引き的に報酬から引かれることとなる。


 業者からしてみれば、罰金+報酬減という悲劇的なダブルパンチである。


 契約そのものを切られ、現場から追い出されなかっただけありがたいと思うべきかもしれないが……恐らく最早、不良作業員たちには、その業者に既に居場所はないだろう。こういった現場で、いや業界においてやっていく上で非常に重要な『信用』に傷をつける真似をしたのだから。


 ましてや、業界で広く名の通った親方が音頭を取った現場でしでかしたのだ。

 仕事の完了を待たずしてクビを言い渡されても文句は言えまい。


 そうして、不良作業員たちは現場から一掃されたものの……今度は、その作業員たちが籍を置いていた業者の、残りの人員たちが問題だった。


 同僚のやったことは我が身のことと、申し訳なさそうにする者もいれば……逆恨み気味に、告発したハルキ達や、その場に居合わせた者達に対して、苛立ちのこもった視線を向ける者もいた。

 あたかも『余計なことしやがって』『おかげでこっちは大変だ』とでも言いたそうに。


 もっとも、これ以上何かしでかす真似をすれば、今度こそ洒落にならない事態になってもおかしくはないし、そうなれば会社からの援護も温情も一切望めない。ゆえに、そういった様々な思いを腹の中に抱えつつも、彼らは黙々と作業をこなしていた。


 ハルキ達はというと、当然その逆恨みの視線には気づいている。

 しかし、誰も何も、わざわざ言うことはない。


 何か言ったところで、余計に反発感情を煽るだけだとわかっているからだ。

 何もしてこず、実害がないのなら気にする必要はないし、無視すればいい。そうしておけば、最低限、今よりも事態が悪化することはないのだから。


 皆、そう思っていたから、目の前の仕事だけに集中していた。


 しかし……異変が起きたのは、まさにその作業中のことだった。


「……ん?」


 その時、現場にいた誰が最初に気づいたのかはわからない。

 しかし、1人、2人と異変に気付き始め……周囲をきょろきょろと見回す。


 そして、天井からつられている紐状のパーツが、振り子のように揺れていたり、足元に並べておいてある鉄パイプなどが、ガタガタと震えて音を立てていることに気づく。

 そういった痕跡を見つけるために辺りを見回しているのが、自分だけではないということを知って、その予感はさらに色濃くなり……ついには、全員がそれを確信をもって自覚した。


 揺れている。

 地面が揺れている。


「嘘だろ、このタイミングで地震だと!?」


「やべえ……崩落防止の補強がぎしぎし言ってんぞ!」


「た、退避だ退避っ! 全員外に避難しろォ!」


 地震。

 それは、この『災害世紀』において、決して珍しいものではなくなってしまった……大地が揺れ、時に山が崩れ、時に家屋が倒れて死者を出し、時に火災などの他の厄災を併発せしめる災害。

 

 洞窟の中での作業中というこの状況下において、一番起こってほしくなかった事態だった。


 補強されているとはいえ、数十年前から手つかずの古い鉱道。

 地震の規模にもよるが、いつ崩れてもおかしくない。そんなことになれば、その中にいる作業員たちに待ち受けているのは、圧死か生き埋めという最悪の結末である。


 ゆえに、作業員たちは必死に、出口を目指して走る。

 少しでも身軽になるべく、重りになる工具や発掘品、解体したパーツなどはその場に投げ捨てて。愛用の品であろうが、皆、命には代えられないということなのだろう。


 この時、ハルキとアキラの不幸は3つあった。


 1つ目は、ちょうどハルキとアキラが離れた個所で作業をしていた、ほんのわずかな間に、その地震が起こったこと。


 2つ目は……アキラが、不良作業員達の一件で苛立っていた、その同僚の作業員達の近くにいたこと。


 我先にと逃げ出していく作業員達が、決して広いとは言えない通路にひしめくように走っていく中……視界の端に、ハルキは見た。


 苛立つあまり、他を押しのけ、突き飛ばして前に出ようとする作業員達。

 その1人の手によって……アキラが突き飛ばされ、転倒して……そのまま起き上がらなくなるのを。


「……っ!? アキぃ!?」


 ほとんど反射に近い早さで反応したハルキは、その瞬間から180度方向転換し、人の流れに逆らって鉱道を逆走し始める。逃げようと走っていく人を押しのけ、押しのけられながら。

 後ろの方から『おいバカ、戻れ!』という、恐らくは彼を心配しているのであろう声も、その耳に聞こえていたが……無視した。


 自分の身の安全よりも、何よりも大切にすべきものが、まだ取り残されている。

 その状態で自分だけ逃げるなどという選択肢は、ハルキの脳内に最初からなかった。


「アキ、アキ! しっかりしろ、おい、大丈夫か!?」


「……っ……? あ、ハル……」


 駆け寄って助け起こすと、どうやら気絶していただけだったようで、アキラはすぐに目を覚ました。腕の中で力なく、だがはっきりと応答を返すアキラの姿に、ハルキはほっと胸をなで下ろす。


 その頭を、痛くしないようにそっと触ってみると、こぶができているようだが、幸運にも出血などはしていないようだった。

 受け答えもでき、傷も大したことはないようだとわかったハルキは、安堵して……一瞬、気を抜いた。抜いてしまった。



 ――シュウウゥゥウウ…………



 その背後で、先程の地震で連結が外れて損壊した、未処理の配管から……不吉な音を立ててガスが漏れ出しているのに気づかずに。



 ハルキとアキラにとって不幸だったこと。その3つ目は……ちょうどアキラが倒れた場所でガス漏れが起こり、そしてそこに……

 

 ――バチッ


 繋いだまま作業員達が逃げ出したがために、地震で断線した電気設備から、ほんの一瞬、火花が散ってしまったことだ。


 その結果、



 ―――ドォォオン……!!



 必然的に起こったガス爆発により……一瞬とはいえ、鉱道のその一角は灼熱の炎に包まれ、その衝撃と爆風によって、鉱道の一部が崩落することとなった。



 ☆☆☆



 地震発生と、それに伴うガス爆発事故の発生から、およそ30分ほど。


 ムーアを含め、外に避難した作業員達は、余震による崩落を警戒していたが……しばらく待ってその兆候がないことを悟ると、『偵察班』の人員が数名、内部の調査のために潜った。


 直接見た者はいなかったものの……ガス爆発の爆発音は鉱道の外まで響いており、それによって作業員たちは、何が起こったかを大体は悟っていた。


 加えて、ハルキ達がいた通路ではなかったものの……この地震によって崩落が起こった個所も、少ないが存在していた。それにより、外に出てこれなかったと思しき作業員達が他にもいた。


 ゆえに、内部の状況を簡単にでも調査し、救助ができそうなら救助するため……作業の継続が可能であるかを見極めるために、『偵察班』を入れたのだった。


 人によっては、こんな時にまで商売のことを考えるのか、と非難される考え方かもしれない。

 だが、事実としてこの事業のために、少なくない額の初期投資が動いているし、この事業によって収入を得る業者達の今後のこともある。

 ましてや、ただでさえ『もの』が少ない世の中だ。拾えるものなら拾っておきたい、と考えるのは、何も不自然なことではないし、多くの者が共感する考え方、ないし懸念だった。


 誰しも守るべき生活や家族というものがある以上、それを責める気にはなれなかっただろう。

 実際に半分は、きちんと負傷者や取り残された者の救助のためでもあるのだから。


 ただ……今回に限って言えば、この判断は……間違いだったと言わざるを得なかった。


 それも、今上げ連ねた点とは関係ない、全く別な理由で。


 鉱道の状態や、崩落状況、残された機材の無事などを確認して回っていた『偵察班』達。

 そのうちの幾人かが、ふと、何かに気づいたように顔を上げた。


「お、おい、何か聞こえないか?」


「ああ、そう言われれば……カチカチ、とか、キリキリ、って……歯車か何かの音か?」


「置きっぱなしで出て来た機材が動いて……いや待て。気のせいか? 何か、音がだんだん近づいてきて……な、何かこれ、足音みたいじゃ……」


「お、おいおいバカ言うなよ。足音って、最初に調べた時は、ここには何もいなかっただろ?」


 そんな、半分カラ元気にも聞こえるような、無理に絞り出したような声を上げた作業員を含め……彼らは、気づいていなかった。知る由もなかった。


 地震によって、あるいはガス爆発の影響で……鉱道の壁は、ただ崩れただけではなかった。

 崩れた個所のいくつかが、今まで岩壁によって隔てられていた空間と繋がってしまったのだ。


 そしてそこは……ただ単に何もないだけの空間ではなかった。


 そこに何があったのか……否、何が『いた』のか。

 それを数秒後、彼らはその目で見て、知ることとなる。


「っ……!? お、おいアレ……」


「は!? 嘘だろ!? なんであんなのが出るんだよっ!?」


「あ、朝調べた時はいなかったのに……ああ、ああああああああ!」


 鉱道の奥、闇の中から現れた、調査班の前に姿を見せたのは……巨大なアリだった。

 体長が人間の大人の身長ほどもあろうかという、明らかに普通の昆虫ではないとわかるアリ。

 紛れもなくそれは、『クリーチャー』だと、その場にいた全員が理解した。


 そんな巨大なアリが……大群で、狭い鉱道にひしめき合うように押し寄せてくる。

 その光景はまるで、漆黒の濁流のようだった。捕まれば、群がられ、かじられ、肉を食いちぎられて骨を噛み砕かれ、またたく間に殺される……飢えた死の濁流だ。


「『炭鉱アリ』だと!? しかも何だよ、あの数は!?」


「い、今の地震だ。今のできっと、奴らの巣穴とこの鉱道が繋がっちまったんだ」


「に、逃げろぉぉお! 捕まったら死ぬぞぉっ!!」


 迫りくる黒い怪物達。

 手持ちの頼りない武器では、あの巨体、あの大群を相手取るのはどう考えても不可能。


 調査班の男達は、突如として目の前に湧き上がり立ちはだかった厄災から逃れるべく、先程と同様、全速力で入口へ向けて駆け出した。



 ☆☆☆



 そして同時刻。

 調査班が入ったのとは、また別な鉱道。


 その奥の奥、ガス爆発で崩れてしまった区画に……ハルキとアキラは、倒れていた。


 2人共、全身が血まみれ、傷だらけの満身創痍で。


 仕事着のツナギとオーバーオールが頑丈だったのがかろうじて救いだったと見えるが、それでも『助かった』とは口が裂けても言えない状態だ。全身に大小の傷が、無数に刻まれている。それこそ、数えるのも億劫になるかと思えるほどに。


 擦り傷や切り傷、打撲痕はもちろん、何かの金属の破片らしきものが刺さっている箇所もあちこちにある。それらの傷のうち、大きな傷からはたらたらと血が流れ続け、その分だけ徐々に彼らの体から命が流れ出していた。


 さらにハルキは、最初のガス爆発の熱と爆風、それに爆音で、体中に火傷を負っていたし、目と耳もおかしくなっていた。まともに前が見えず、片方の耳が聞こえない。


 ……それでも、


「ア、キ……死ぬな……! 今、助ける……から、っ……!」


 アキラを胸に抱き抱えるようにし、どうにかして起き上がろうと……ハルキは、瀕死の体に鞭打って動こうとしていた。

 自分よりはいくらか傷の程度もマシかと思える妹を、絶対に放すまいと、片腕で抱きしめて。


 ケガがわずかにマシな理由は……とっさに彼が、自分の体を盾にしてかばったからに他ならないのだが。


 もう片方の腕は……関節が1つから3つに増えている。

 最早、まともに動かせるとは思えない惨状だ。指一本まともに動かせないだろう。


「ハル……だめっ……!」


「しゃべるな、じっとしてろ……傷に、さ、わる、だろ……!」


 そんな状態でも、兄は妹を助けるために、動こうとしていた。

 決して諦めず、弱音も吐かず、絶望もせず……そんなことをしている暇があったら、死ぬ気であがいて、一歩でも前に進めばいい、とばかりに。

 血みどろの顔で、歯を食いしばって痛みに耐え、立ち上がろうとして……失敗した。


 ――ズシャッ!!


「っ、がっ……ぐぁ……!」


「ハル……だめよ、ハル! 死んじゃうわ……!」


 まともに立ち上がれずに倒れてしまい……それでもとっさに、自分の体を下敷きにしてアキラをかばったハルキ。

 その体から、さらに血が流れ出ていく。


 最早、寝返りを打つだけの力もその身には残されておらず……手も足も動かなくなって……どころか、感覚がなくなっていく。目がかすんで見えなくなり、耳も遠くなっていく。


 聞こえる方の耳。その、ほとんど耳元と言っていいくらいに近くで、アキラが悲鳴に近い声を上げているというのに……静寂の方が、その存在感を強くしていった。


(……死ぬ、のか? 俺も、アキも……こんな、ところで……)


 事故で死ぬ。

 災害に巻き込まれて死ぬ。

 『クリーチャー』に襲われて死ぬ。


 どれも珍しいことではない。この『災害世紀』……死などそこら中に転がっている。掃いて捨てるほどに。

 ほんの少し運が、巡り合わせが悪いというだけで、誰にでも平等にそれは訪れ得る。


 今回は、この2人が運がなかった……ただそれだけだと言えた。

 崩落によって通路がふさがったおかげで、その向こうにいる『炭鉱アリ』達が寄ってこない分、むしろ幸運だったかもしれない。


 ……だからといって、この後死ぬのであれば変わらない、ともとれるが。


「……で……るか……!」


「……!」


 それでも、


「……死んで、たまるか……!」


 どれだけ傷が酷くても、

 どれだけ流れ出た血の量が多くても、

 どれだけ状況が絶望的でも……ハルキの目からは、微塵もその『意思』は消えていなかった。


 未だ、自分の腕の中には、弱弱しくとも確かに生きている妹がいる。

 自分よりももしかしたら、助かる確率が高いかもしれないアキラがいる。


 しかし自分が諦めれば、動けないであろうアキラも、またここで死ぬしかなくなるだろう。

 ならばこそ、どうして自分が諦められようか。


 どうすれば助かる、どうすれば望みがある……そういった、具体的な希望が頭の中にあるわけではない。むしろ、頭ではもう『助からない』とわかってすらいた。


 それでも、ハルキはそれを認めなかった。

 理性を押しのけ、現実に唾を吐き、ただただ本能のままに『生』を欲した。


 他には何もない、ただただ純粋な……『生きること』への……この先の『未来』への渇望。


 しかし、その先が見えていない以上、実を結ぶことなく朽ちるしかないとしか思えない、儚く、哀れですらある、か細く弱弱しい執念が…………この時、奇跡を呼んだ。



『適合波長GWウェーブ感知。時空間座標軸特定。『エッグ』顕現――完了』



「……あ?」


「……え?」


 それは、本当に突然……ハルキとアキラの目の前に現れた。


 今まで、何もなかったはずの、目の前の空間に……いつの間にか、『何か』があった。

 何やら、不思議な電子音声のようなものが聞こえたかと思った、その次の瞬間だ。気が付いたらあった。ふと少しの間、目を反らした隙に……そこに現れた。


(……何だ、これ……? ……卵?)


 それは、一言で言えば……巨大な『卵』だった。


 恐らくは金属でできているのであろう、暗闇でもわかる硬質な質感の……大きさが、大人の身長よりも大きいのではないかと思えるほどの『卵』。


 鉱道にギリギリ入っているといった感じで、何の脈絡もなくいきなりそこに鎮座していた、その謎の『卵』を前に……一時、痛みも苦しみも忘れ、2人が困惑していると、再び電子音声が鳴り響く。


『観測……完了。バイタル低下、損傷箇所多数、出血多量。失血致死量到達まで、残り推定1分49秒。早急な措置が必要と判断』


(……!? 喋った……!?)


 電子音声が、目の前の『卵』から聞こえて来たのだと気づき、さらに驚く2人。


『死にゆく定めの者へ提案する。生きたいか』


「……? !? 何……だと……?」


『生き延びたくはないか。死の運命を覆したくはないか』


「何を、言ってる……!?」


 声を発することすら苦しい、限界が近い体で、ハルキは問い返すが……その問いに答えは返ってこない。『卵』は半ば一方的に、要領を得ない問いかけを投げかける。


 いや、言っていることはわかるのだが……意図が読めない。

 その質問に答えるとすれば、答えは決まっているが、なぜこんなことを聞かれるのか。それに答えたとして、何があるのか。

 疑問に答えは返ってこない。ただただ、問いかけだけが続く。


『提案する。生き延びたければ、私と契約せよ』


「……あ?」


『生き延びたければ、私と契約せよ。さすれば汝は、『命』と『力』を手に入れるだろう。自らの手で、あらゆる障害をなぎ倒し、絶望を打ち払い、何物にも己が命を侵させぬだけの、力を』


「…………お前、何を言って……!?」


『契約を望むならば、その意思を持って私に触れよ。さすれば、汝の望みは叶う。万難を打ち滅ぼす力が、汝のものとなる』


 一方的に告げられる、しかも耳を疑うような内容に、信じる信じない以前に、ハルキは困惑から立ち直れず、思考をまとめられずにいたが……ふいに、ぎゅっ、と、襟元が引っ張られる感触を感じて、ハルキはそこに視線を落とした。


 先程からずっと、無事な腕で抱きしめているアキラが……彼女もまた限界が近いのだろう、顔を真っ青にし、冷汗をだらだらと流して……その手で、ぎゅっとハルキの服をつかんでいた。

 

 その口が、わずかに動く。

 声は、出てこなかった。何も聞こえなかった。

 しかし、何を言いたいのかは……ハルキには、十分にわかった。


『い』

『き』

『た』

『い』


「………………」


『提案する。汝――』


「状況は、さっぱり、飲み込めない……お前が何なのかも、一体、何が目的で、こんなことやってんのかも、わからない……けど……」


 電子音声を遮る形で……ハルキは、残りの命を振り絞って、声を出した。


「いいよ、やってやるよ……その、『契約』だか何だか知らないけど……助かるなら、生きられるなら……やってやるよ、その、『契約』!」


 そこで切って……最早まともに機能しなくなっている肺を思い切り酷使し、大きく息を吸って、


「災害にも、化け物にも、飢えにも、他人にも……神にも!! 俺と、こいつの命は、くれてやる気はねえ……! そのための『力』が手に入るなら!」


 手を伸ばす。

 折れた腕を上げ、卵に伸ばす。

 もうほとんど動かない……感覚もほとんど残っていない手を伸ばす。


 同時に、無事な方の腕で抱えていたアキラもまた……折れてはいなけれど、傷だらけの手を伸ばす。弱弱しく……しかし、確かな『生きたい』という意思を乗せて。


「俺に……俺達に……! 力を、くれ!」


 文字通り、手を伸ばせば届く位置にある、謎の卵に向けて、2人の手が伸び……同時に、触れた。


 その瞬間、


『適合者より接触あり。『契約』の意思を確認……契約成立』


『適合機体を検索……該当9件』

『条件再指定、再検索を開始……適合率の最も高いの機体を選択……確定』


『エラー。適合者を複数名同時に検知。『願望』との関連性あり、要調整事項。最優先』

『――修正完了。チェック……クリア』


『適合者の肉体最適化処理へ移行、処置開始………………完了』




『全条件クリア確認。座標軸確定……『オペレーションDS』発動承認。DS05、転送・解凍します』




 鉱道内は……光に包まれた。





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