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災世のディザイアスター  作者: 和尚
第2章 空を舞う、鋼の翼
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第49話 課題は山積み



「敬礼ッ!!」


 号令と共に、その式典……隊葬に参列していた者全員が、言葉通りに『敬礼』の姿勢を取る。

 彼ら・彼女らが見送る中で、3つの棺が、『サラセニア』の軍の同胞たちの手によって持ちあげられ、別れを惜しむように、ゆっくりと式典場から運び出されていく。


 道の両脇に整列して並ぶ軍人達は、役目を終えて眠りについた仲間達を、黙って見送る。

 中には、下唇をかんでうつむく者や、こらえきれず嗚咽を漏らす者もいたが、それを責める者は誰もいなかった。


 今回の防衛線において、フォートを、そして市民を守るために勇敢に戦って散った『航空隊』の兵士達3人を弔い、その功績をたたえるための式典。その場には、同じ戦場で戦った『第7特務部隊』の面々も参列者として招かれており……軍服姿で、同じように道の脇に並んで敬礼していた。


(……できればこーゆーのは、あんまり経験したくないイベントだな……)


 声に出さずにそんなことを思うハルキ。

 その視線の先には、運ばれていく棺の後を追う形で、戦友の軍帽を両手で丁寧に、大切そうに持って歩いてついていく、マリカの姿があった。


 殉職した3人は、いずれも『航空隊』の所属であるため、同じ部隊の者達が、棺や遺品、遺影の運び手を担っているのだ。

 マリカもその役目の1人だ。彼女が手に持っている帽子には、今回の殉職に伴う『二階級特進』によって授与された階級章がつけられている。


 その表情には、隠しきれない悔しさと悲しみの色が浮かんでいたが、それでも彼女は涙を見せることはなく、口をぐっと真一文字に結んで、背筋を伸ばしてまっすぐ歩いていく。


 式典場の外に去って行く、その決して大きくはない背中を、ハルキ達は黙って見送った。



 ☆☆☆


 

 粛々と終えられた隊葬の後、軍人達はそれぞれの持ち場に戻っていく。

 仲間の死を悼むのは大事だが、そうしてばかりもいられない。フォートの平和と安全を保ち続けるため、日々途切れさせることのできない仕事はいくらでもあるのだから。


 だからこそ、彼ら・彼女らはその思いを胸に抱え……それでも前を向いて歩き出す。

 仲間達が戦って守った、このフォートの未来のためにも……そうしなければならないのだ。


 未知のクリーチャー『ドラゴン』を相手取った防衛戦の後……隊葬と同時進行で、今後のフォートの運営をどうするか、防衛計画をいかに調整するかが最優先で話し合われた。


 『航空隊』がほとんど手も足も出ずに蹴散らされてしまうような、強力なクリーチャーの出現。しかも、あの4体だけで全てである保証などどこにもない。もしまた奴らが襲来した時に備えて、対応策を詰めておかなければならない。


 加えて、元々あった問題である、土壌その他の汚染による『サラセニア』周辺の土地のアネクメーネ化。近い将来、この土地は人間が暮らせなくなる……それを見据えた、大規模な移住計画。

 その移住先として最有力候補に名前が上がっている、『ヴォーダトロン』との交渉。


 特に、移住関係のプロジェクトについては……ある理由から、一部のスケジュールを大幅に前倒しして話を進める必要性が持ち上がってきていた。


 それが、『サラセニア』の首脳陣に加え、『ヴォーダトロン』の使節団の代表者達の前で明らかにされたのは……防衛戦から数日後の、緊急会議の場でのことだった。


「以上が、周辺地域各所に派遣していた調査隊からの報告内容になります」


 会議の進行役が、事前に配布した資料に沿って説明した内容に……出席者たちは、一様に眉間にしわを寄せていた。説明された内容は、今一番知りたい内容であることは確かだったが……同時に、どう考えても凶報としか言いようがないものだったのだ。


「つまり……あのクリーチャー、『ドラゴン』が出現したのは……偶然などではなく、『必然』によるものだったということか。そして恐らくは……」


「これからも、それは続く。頻度は多くはないかもしれんが……『イオンバード』、そして『マッドワーム』がこの地にいる限り」


 『サラセニア』の周辺地域に、最近『マッドワーム』が多く発生するようになり、それに伴って土壌などの汚染が加速しているというのは、彼らにとっては既に知っていたことだ。

 同時に、なぜか最近、以前までに比べて『イオンバード』の目撃情報……もとい、出現・襲撃の頻度が増しているという点もまた、既知のことだった。


 しかし、この2つの事柄に関係性があったということを……彼らは今、初めて知った。


 説明されてみれば、至極単純な話だ。『マッドワーム』と『イオンバード』、そして『ドラゴン』……この三者は、『食物連鎖』によってつながる関係にあったのである。


 もともと多少なり汚染されていた土壌に、『マッドワーム』が住み着き、増え始めた。

 その『マッドワーム』を『イオンバード』が食べる。

 その『イオンバード』を、今度は『ドラゴン』が食べる。

 虫を鳥が食べ、鳥をより大きな猛禽が食べるかのような……そういう繋がりだ。


 食物連鎖の上位者達は、自分にとって好都合な『餌場』であるからこそ、この付近に出現するようになったのである。


「なんということだ……これでは、そもそもの問題である『マッドワーム』を、いやその全段階である土壌の汚染を何とかしない限り、いくら『イオンバード』や『ドラゴン』を狩ったところで、問題は全く解決しないということではないか……」


「仮に上位の捕食者たちを狩りつくしたとしても、今後また同様の現象が起こり、第二第三の『イオンバード』や『ドラゴン』が現れる可能性は十分にあるし、そもそもそんな大規模な討伐作戦を実行するだけの戦力的余裕はありません」


「かといって放置することも……このままこの状況が悪化し、『イオンバード』や『ドラゴン』の数が増えて出現が常態化するようなことになれば、想定よりもはるかに早く、この『サラセニア』の周辺は、実質的なアネクメーネになるぞ……」


 首脳陣は頭を抱える。自分達が住むフォートの未来が、どう考えても暗いどころではないものであることを、目の前の資料は突きつけてきていた。

 会議に同席している、ファティマやヴィルジニアら……『ヴォーダトロン』の使節団も同様だ。これから協力関係を結ぶつもりで調整を進めていた相手が抱える特大の問題は、こちらとしても頭が痛くなるようなものだった。


 特にファティマは、他のものには秘密裏に、アルフレッドから『あること』を聞かされ、それに関する様々な検討込みでこの地を訪れていたため、この深刻な問題に対する憂慮はより大きかった。


 すでにこの場にいる者達の間では、数年以内に『サラセニア』が人が住めない土地になるであろうことは説明され、周知のこととなっている。

 だがこの事実は、そう遠くない未来、首脳陣やフォートの幹部格だけでなく、一般市民でも普通に知っている事実になることだろう。


 これまでにないクリーチャー『ドラゴン』の出現。一体それがどうして起きたのか……気付く者もおそらくいるはずだ。

 そうでなくとも、今までにない強敵がどんどん増えて出現しているとなれば、このままここで暮らしていけるのだろうか、という疑問は当然出てくるだろう。


 そしてそうなった時、司令部は市民達に納得のいく説明をしなければならないだろうし、真実が明らかになった場合に備え、対応策を一刻も早く整備していく必要がある。


 それは、問題を解決する方法か……問題の解決を諦め、この地を後にするための手回しか。


 前者は、あまりにも難しい。そして、後者を選択した場合、何としても協力してもらわなければならない相手こそ、今目の前にいる使節団の属するフォート『ヴォーダトロン』である。


 ゆえに、『ヴォーダトロン』との間での、『サラセニア』の住民の移住にかかる話を、可能な限り早く前に進めていかなければならないのだが……当然ながら、『ヴォーダトロン』としても、はいそうですかと簡単に首を縦に振るわけにはいかない。


 いくら『ヴォーダトロン』が大規模なフォートで、『サラセニア』が中小規模のそれだとしても、一度にそこまで多くの移住者を受け入れる余裕など、どう考えてもあるはずがない。『ヴォーダトロン』の方が運営に支障をきたしてしまうだろう。


 問題は他にもいくつもある。


 『サラセニア』から『ヴォーダトロン』までは、とてつもなく遠い。その距離たるや、1日のほとんどを移動に費やしたとしても1週間ほどかかる。

 ハルキ達『使節団』がここまでくるのに要した時間が、大体その程度だった。安全を確保し、車両や積み荷への負担も最小限にしようとすると、どうしてもそのくらいはかかる。


 そして、移動に要する時間と言うのは、その量……すなわち人数が多くなるほど増えていく傾向にある。それを管理するのにかかる労力もまた、然り。


 要するに、フォート1つ分の人数を輸送するというのは……膨大な時間と労力がかかるのだ。


 当然であるが、1回や2回の輸送で済むはずもない。超大型の武装護送車両を複数用意し、一度に数十人、数百人を運ぶとして……移動回数を最小限にしても、必要な時間と労力、そしてコストは、気が遠くなるほどのものになるだろう。


 そしてそんなものを、『サラセニア』が用意できるはずもない。

 全くとは言わないが、必要量には遠く及ばないだろう……となれば、残りはここでも『ヴォーダトロン』に頼るしかない。頼れなければ、住民の避難は進まない。


 狩りに移動をクリアしたとしても、今度待ち受けているのは『定住』ないし『定着』に至るまでに立ちはだかる壁だ。

 住む場所や仕事など、新生活にあたって解決すべき課題はいくつもあるが……中でも大きな問題になるのは、フォートの方針そのものの違いだろう。


 何度か話題に上がったように、『サラセニア』のフォートとしての方針は、所属する市民達が互いに助け合い、仕事、ないし役割をこなすことで、フォート全体が協力してフォートを運営するという形だ。人手が少なく、マンパワーを無駄にする余裕がないから、それがさらに失われることがないよう助け合い、つなぎ止め、支え合って生きていく。

 言わば、強い者も弱い者も助け合って一緒に生きていくフォート。動機はどうあれ、弱い者を見捨てずに支え合いながら生きていくフォートなのだ。


 それに対して、『ヴォーダトロン』はそのほぼ真逆と言ってもいいほどに、方針が大きく違う。


 『ヴォーダトロン』の運営方針は資本主義。わかりやすく、そして極端に言えば、弱肉強食だ。

 働けば働いだ分稼げるし、稼げば多くのものが手に入る。

 物資の量がそもそも限られている『サラセニア』と違い、物流の規模が相当なものである『ヴォーダトロン』では、金さえあればあらかたのものは買って手に入れることができる。


 しかし反面、そうでない者……金が、仕事がない者に対しては、厳しいどころではない。あの町は、弱者に対して手が差し伸べられるということがほとんどない。


 『サラセニア』では、職を失って生活に困窮した者達に対し、司令部が主導で職の斡旋を行い、すぐにでも仕事を見つけることができた。

 フォート単位でいつでもマンパワーを欲しているのだから、ある意味当然ではある。現実的な物言いをすれば、職を失ったフリーの働き手を遊ばせておく理由も余裕もないのだ。


 『ヴォーダトロン』は違う。職が、金が……力がない者はそのまま置いていかれる。

 あの町は、ついてこれなくなった者に対して酷くドライだ。


 どれだけ人の役に立ち、どれだけ望まれる仕事をしているか。どれだけフォートそのものに対して貢献できたか。自分にとってどれだけの収入になったか……etc。

 それら全てを武器に、『ヴォーダトロン』というフォートでは、独立独歩で生きていかなければならない。力がないからとか、まだ子供だからとか、言い訳をしている間に置いていかれる。


 その、扱いのあまりの差に困惑し……そして、ついていけなくてドロップアウトすることになる者は必ず出てくるだろう。それも、相当な数が。

 そもそも、先ほど懸念した通り、数千人分の移民者の職を斡旋してやるような余裕はない。自分で何とか出来るだけの力がなければ、途端に『助かった』とは言えない状況に落とされてしまうのが、かの町の現状だ。それでは、見捨てられたのと変わらない。


 例外や助け合いが全くないわけではない。しかし、そういったものは、それ以前からのつながりや付き合いがある者でもなければ起こらない。善意やボランティアで手を差し伸べるような者はいないし、そんな余裕も、多くの場合、ない。


 結局のところ、この移民、ないし避難計画を現実のものとするには、準備段階から引っ越し後のアフターケアにいたるまで、『ヴォーダトロン』による全面的なそれに近い協力が必要だ。しかもその中には、『ヴォーダトロン』の方針そのものに合わないような問題すらある。

 そんなことに対して、いくら何でも手など貸してもらえるはずもない。そういう問題が起これば、そこでふるいにかけられるということもまた、『ヴォーダトロン』の方針なのだから。


 それこそ、『サラセニア』を受け入れることによって、こちらの負担、ないし迷惑を帳消しにするようなメリットが発生するようなことでもなければ、この話は前に進まないどころか、途中で破談になる可能性すら、ある。

 そうなれば、『サラセニア』に、そしてそこに生きる者達に……未来は、ない。


 もちろん、ここで会議に参加している面々は、その程度のことは百も承知だ。

 その上で、ここ『サラセニア』から引き出せる、あるいは提示できる『価値』があるとすれば何か……それを探っている。


 真剣な目つきでパラパラと資料をめくっているファティマも、その1人だ。


(状況は厳しいが、『サラセニア』を見捨てるような対応もまた、こちらの望むところではない。父上……もとい、総司令から聞かされた『あの計画』のこともあるし、やはり『サラセニア』の航空戦力は魅力的だ。戦闘能力はもちろん、これからの都市計画には有用……しかし、それだけではまだ理由として弱い。せめて後1つか2つ、何か……)


 頭の中でそろばんをはじきながら、冷静に考えるファティマ。

 欲しいとは思う。しかし、決してなあなあで妥協していい問題ではない。何か、確固たるメリットを見つけて、あくまでビジネスの観点から最良の判断として手を取らなければならない。


 資料の端から端まで読み進めていくが、なかなかそれに当てはまりそうな記述はなく、思わずため息が口からこぼれた時……ふと、こんな会話が耳に入ってきた。


 それは、いくつもある問題の中の1つについて、どうしたものかと『サラセニア』の首脳陣の幾人かが話していた内容。


「せめて、時間がないという問題だけでもなんとかならないものか……『マッドワーム』と『イオンバード』、そして『ドラゴン』の出現がつながっているというのであれば、その起点である『マッドワーム』を徹底的に狩ることで問題を解決できないか?」


「それは難しいだろう……奴らは基本、地中に潜っていてあまり外には出てこない。探すにしても労力はバカにならんぞ」


「なら、中間捕食者である『イオンバード』を狩るのは? 連中相手なら、航空隊なら戦えます。奴らがいなくなれば、餌がなくなって『ドラゴン』は少なくともいなくなるのでは?」


「かもな。だが、航空隊を飛ばすにしても、燃料その他の消費がバカにならん。まして、こちらに来たものを迎撃するのではなく、索敵からこちらで全てやって最終的な討伐要員の派遣にまで至るとなればな……それではすぐに、フォートごとガス欠になってしまう」


「ぬぅ、それも無理か……しかし、クリーチャーの跋扈に土壌・水質の汚染……2つともがこのフォートを追い詰める……。このままでは、本当にすぐに限界が来るぞ……」


「クリーチャーがダメなら、汚染の方を何とかしたいものだが……というよりも、そもそもどうして急速に汚染が進み始めたのだ? 起点と言うなら、『食物連鎖』以前にそこだろう」


「? それはもちろん、『マッドワーム』が増え始めたからでは? あのクリーチャーは、汚染された土地に住み着いて、さらにその汚染を加速させる存在なのでしょう?」


「それはそうなのだが、アレはもともとある程度汚染された土地でなければそもそも住み着かないだろう? つまり、アレが出没し始めた時点で、この周辺の土地の汚染は、『マッドワーム』とは別に始まっていたということだ」


「今まで数十年、きちんと山の、自然の自浄作用は働いていた。廃棄物の処理も適切に行っていた。汚染など起こっていなかったはずなのに……なぜ……?」


 そして、誰かが言った。


「……もしかして……あの『箱』が原因ではないか?」


(…………? 『箱』……?)





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