第48話 レックスVSドラゴン
『ドラゴン』の襲撃によって、航空隊が立て続けに落とされる事態になり……司令部にいた者達全員が、否応なしに理解していた。かつてないほどの危機が、ここに迫っているのだと。
司令部はすぐさま、後詰めや予備戦力まで含めた残存の戦力を投入することを決定したが、その準備がほとんど整わないうちに、ドラゴンはフォートの間近にまでやってくる。
準備ができた部隊から出撃させてはいるが、とても展開・迎撃は間に合わない。
加えて、そもそもその大部分は陸戦部隊だ。長射程の銃火器を使っての支援射撃がメインになるだろうが、『イオンバード』相手でも苦戦する彼らでは、空を自由自在に飛翔する上、耐久力も高いドラゴンを相手に、まともに戦える可能性は低かった。
しかし、どんな手を使ってでもこの状況を打破しなければ、市民にも市街地にも多くの被害が出る。それだけは何としても避けなければならない。
もともと『サラセニア』は、航空隊という戦力こそ有しているものの、規模としては中小の枠内を出ず、決して力があるフォートというわけではない。特に、厳しい環境下で相互に協力して生きていくために必要な、マンパワーという点においては、かなりギリギリのかじ取りを続けている。
皆で力を合わせ、無駄や消耗を極力抑えていくことで、今までどうにかやってきたのだ。
それを今、崩すわけにはいかない。そんなことになれば、『サラセニア』は資源の枯渇を待たず……数年と言わず、すぐにでも破たんする。
それを理解しているフォートの首脳陣は……『ヴォーダトロン』の使節団から提案された、護衛として同行してきた『第7特務部隊』の参戦による支援という案を、受け入れた。
ハルキ達はそれを受けて、すぐに行動を開始。ガレージに格納していた各自の機体に乗り込み、頭に叩き込んだ市街地の図面に沿って素早く展開。フォートの外に出て、ドラゴン達が入ってくる前に迎撃するために動き出した。
ただ、1体だけ既に手遅れで、フォート内部……ないし上空にまで来てしまっている者がいたため、それに関しては、被害が出るよりも先に叩き落とす、という方針となった。
その役目を任された者こそ、ハルキとアキラの2人……そして、それを可能にするだけのスペックを持った機体……『レックス』であり、つい先ほど、見事にそれを成し遂げてみせた。
「こちらシャドー6、市街地に飛び込んできた1匹は討伐完了! 後のことは現地の人らに任せて、前線の連中の迎撃に加勢する! これから向かう!」
「シャドーリーダー了解、迅速に行動してください。見た目通り、さすがに手ごわい相手です」
残る3体のドラゴンの迎撃に当たっている、『第7特務部隊』の面々。彼ら彼女らを率いるファウーラは、これまでとは勝手も実力も何もかも違う敵を前にして、状況を正確に分析しながら戦いを進めていた。
(重砲による砲撃が直撃しても痛痒にならない耐久力に、空中を自由自在に飛び回る機動力。それらを生かす形で振るわれる攻撃力。どれも強力極まりない……正面から相手取るのは難しいですね。ですがそれならば……策をろうすればいいだけの話です)
通信越しに素早く指示を出し、『第7』の面々はそれを受けて、即座にそれぞれの役割を理解し、迅速に動いていく。
長射程の武装を持つクリスとセリアが、向かってくるドラゴンに砲火を浴びせる。
戦闘機部隊と同様に翼を狙って放たれるそれを、最初ドラゴンは無視していたものの……結構な精度で命中してくるそれを鬱陶しく思ったのか、1匹が加速して突っ込んできた。
足の爪を立てて、先に戦闘機の一機をそうしたように、蹴り砕くつもりで突っ込んでくる。
さっきまでの飛ぶ敵とは形が違うが関係ない。蹴り砕いてしまえば邪魔もできなくなるだろう、とでも考えたのだろうか。
が、降下して突っ込んでくる最中、横から割り込んできたロイドの『ドルデオン』が、装備していた大口径の砲口から、大きな弾丸を発射する。
それは、突っ込んでくるドラゴン目掛けて飛んでいき……命中と同時に炸裂。
中からネットが飛び出して絡みつき、足だけでなく、翼にも絡みついてその動きを封じた。
『黒炭猪』との戦闘の際にも活躍した、ロイドお気に入りの弾頭の1つ、ネット弾だ。
飛行における要とも呼ぶべき翼の自由を奪われ、動けなくなって墜落するドラゴン。
地上に叩きつけられながらも、死ぬことなくもがいているそれが、網を破って自由になるよりも前に……そこに側面から、飛び込むように近づくシドの『ブラムスター』。
手に持っていた剣を、中段に構えて横一線。突撃の勢いに乗せて振り抜く。
「――オッ……ラァア!!」
寸分たがわず甲殻の隙間に吸い込まれるように放たれた刃は、途中、骨か甲殻に引っかかったのか、ガキッ、と耳障りな音を立てて止まるも……そこからさらに馬力を入れて振りぬかれ、ドラゴンの首を深々と切り裂いた。
首と胴体を泣き別れにする……とまでにはいかなかったものの、4分の3程が断ち切られている。肉と皮だけでつながっている状態。気道も骨も神経も断ち切られていた。
当然、そんな状態で生きていられるはずもなく、絶命するドラゴン。
残りが2匹となる中、仲間を殺されたことに怒りを覚えたのか、1匹が咆哮しながら降下してくる。しかし、そのまま突っ込んでくるわけではなく……射程圏内に入った瞬間、口を大きく開いて炎を吐き出して攻撃してきた。
シド達はすぐに散開してそれを回避するが、ドラゴンは特に、トドメを指したシドを敵視しているらしく、火炎放射を続けながら、シドの『ブラムスター』を追尾する。
シドはちっ、と舌打ちをして、超高熱の火炎にとらわれないよう、ジグザグな軌道で走って逃れ続ける。
「トカゲ野郎! 俺達のこと、忘れてんじゃねえぞ!」
そのドラゴンに、背後から追いついてきたサラセニアの航空隊が攻撃を加える。シドの機体に当たらないように位置と狙いを調整し、戦闘機が、ヘリが、側面から翼を狙って乱れ討つ。
振り切ったはずの相手が追いついてきて、しつこく妨害してくることに腹を立てたドラゴンは、またしても標的を切り替えた。
一旦口を閉じて旋回し、鬱陶しい礫を放ってくる鉄の鳥を視界に収めると、再び口を開く。
灼熱の炎で、中にいる人間もろともそれを焼き滅ぼそうとして……しかし突然、その眼前に、上から何かが落ちてきた。
ロイドがグレネードランチャーから放ったその弾は、放物線を描いて飛んできて……寸分たがわぬタイミングでドラゴンの眼前に到達。その瞬間、ドラゴンが火炎を吹き付けて……誘爆。
流石のドラゴンも、顔面に、至近距離で爆風が叩きつけられたとなっては、何事もなく飛び続けることは難しいようだ。顔面を覆う鱗や甲殻にはひびが入り、血がにじんでいるし、牙も何本か欠けたらしい。何より、爆風や破片で目をやられたのか、前が見えていない様子である。
ギャアギャアと喚きながら、しかし空中にいるままにもがいているドラゴン。そこに、上空から超高速で飛来する影があった。
「これで、落ちろォォオオォッ!」
高高度から、落下の勢いによる加速も利用して放たれるマリカの急降下爆撃。
その掃射は、狙いすました一点……右の翼の付け根付近に全弾を叩き込んでいた。
翼膜ほどに脆いわけではないが、飛行する際に縦横無尽に激しく動くからだろう、胴体などに比べて、翼の付け根部分を覆っている甲殻は薄い。そこに集中して放たれた弾丸は、立て続けに10発、20発と叩き込まれたことで……ついに貫通して逆側に抜けた。
それに続けてマリカは、微妙に射角を調整し、そのまま着弾点を、付け根付近を縦断するように動かして撃ち続けた。
その結果、ミシン目のように一直線に穿たれたドラゴンの翼は、羽ばたきの動きによる負荷にすら耐えられなくなり……裂けた。
自らの力で自らの羽をもぎ取る形となり……当然、滞空を維持できるはずもなく、墜落、地上に叩き落されるドラゴン。
落ちていく巨体を見届けながら、マリカ自身は機体を急上昇させ、再び高高度に飛びあがる。
だがそれを、最後に残った1匹のドラゴンが追いかけて来た。
(っ……後ろを取られた! 火炎が来る……早く射線から外れなきゃ!)
マリカが操縦桿を切って急カーブした直後、一瞬前までその機体があった場所を、火炎が通過した。間一髪それを逃れることに成功したマリカだったが……危機は依然として続いている。
縦横無尽、ジグザグに飛んで狙いを絞らせない。
しかし、攻撃こそ当たらないが、ドラゴンはマリカの『三式』の後ろにほぼぴったりとついて離れず、追ってくる。振り切れない。
高速かつ無茶苦茶な軌道で飛び続けているせいで、機体にも、中にいるマリカの体にも、相当なGによる負荷がかかっており、このままいつまでも飛び続けるのは難しいのは明らかだった。
だが、減速したり動きが単調になれば、追いつかれて叩き落されるか、炎を浴びて燃やし尽くされるかだ。この後どうするか、最早考える余裕すらない中で、マリカは必死に飛んでいた。
そんな彼女を地上から、あるいは空からどうにかして支援できないかと、『サラセニア』の軍も、『ヴォーダトロン』の第7特務部隊も思案するが、飛ぶのが速すぎる上に軌道が複雑で、狙いが定まらない。かといって面攻撃を行えば、マリカも巻き込んでしまう。
徐々に限界が近づく中、通信からマリカの耳に声が飛び込んできた。
「マリカ、聞こえるか!? 聞こえたらこっち来い、そいつ、俺が引き受けるから!」
「っ……ハルキ……?」
通信の向こうから聞こえたハルキの声。
同時に、風防の向こうを見下ろして、そのハルキが乗っているであろう『レックス』の存在を確認する。
マリカが見ている前で……レックスは、『オーガングリズリー』の時以来となる、実戦の場での変形を始めた。
背部に取り付けられているユニットが足に変わり、恐竜の足と入れ替わる形で降りてきて、大地を踏みしめる。恐竜の足はせり上がり、恐竜の腕と一体化し、太く力強い、人間型の腕に変わる。
背筋は伸び、龍の頭は折りたたまれて胸の位置に下がった。その下から、新しい顔が現れる。
そして、外部からは確認できないが……ハルキとアキラの身にまとう服が、一瞬にして軍服から『パイロットスーツ』に変わった。
「……すご……」
(アレが、話に聞いた……『戦闘モード』……!)
他のAW……『ドルデオン』や『ブラムスター』よりもかなり大きな体躯を持つ、人間型。
紅の鋼の巨人となった『レックス』は、空を飛ぶマリカの『三式』と、それを追うドラゴンをその目でとらえていた。
マリカは覚悟を決めて操縦桿を切る。大きく弧を描いて急旋回し……そのまま、『レックス』目掛けてまっすぐ飛んでいく。
それを追って、ドラゴンも同じ軌道でマリカを追いかける。当然、その先にいる『レックス』も目に入っているはずだが、躊躇したり、怯む様子はない。
「よし! マリカ、いいか、そのままこっちに来て、俺と……」
「……わかった。よろしく、ハルキ!」
「マリカ……アキ……タイミング会わせろよ。でないと……」
「その先は言わなくていいっすよ! 絶対成功させるから!」
ハルキからマリカへ、短く作戦を説明する言葉を届けた後、それきり3人は黙る。そしてそのまま……マリカの乗る『三式』は、減速せずに『レックス』目掛けて飛んで……否、突っ込んでいく。
「え、ちょ……お、おい、あのままだとぶつかっちまうぞ!?」
「ハルキ!? アキラちゃん!? マリカちゃん!?」
通信の向こうから聞こえる声を意識してシャットアウトし、3人は集中力を極限まで高めていた。
高速で飛行する『三式』。
このままいけば正面衝突は免れない。そうなれば『三式』はもちろん、高速で突っ込んでくる鉄の塊を受け止めることになる『レックス』もただでは済まないはずだ。
「まだ……まだ……もう少し……まだ……!」
何やらタイミングを計っているかのように、アキラは心を可能な限り落ち着けて、『レックス』の操縦桿を握っていた。思考操縦であるため、言ってしまえばほとんど飾りにも等しいものなのだが……ぎゅっ、と力を込めてそれを握りしめ、集中力を高めている。
その背後から迫るドラゴンは……『三式』と『レックス』の接触が目前に迫ったタイミングになって、わずかに減速する。自分もこのままいけば、衝突することになるのを警戒しているようで……しかし、とっさに回避できる程度の速度を保ったままで、追うことはやめない。
もう止まれない。5秒後には激突する。
2機と、それに乗る者達の意図が理解できない中、ある者は目を覆い、ある者は逆に目を離せずにその光景を見続けていて……次の瞬間、事態が動いた。
「まだ……まだ…………今! 発射ァア!!!!」
脚部に変形した背部ユニット……その一部が再展開し、熱エネルギーを凝縮した非実体の弾丸が無数に放たれる。それらのほとんどは、直線ではなく、山なりの……ちょうどロイドが先程放ったグレネードランチャーのような、放物線を思わせる軌道を描いて飛び、降り注ぐ。
しかし全てがそうではなく、何発かはそのまま直線の動きで放たれ、マリカの『三式』と、その後ろのドラゴンをもろともに貫く軌道で飛んでいく。
その瞬間、マリカは『三式』を限界まで低い高度で飛ばし、殺到するエネルギー弾の下を、ギリギリで潜り抜けた。
そのまま『レックス』の横を通り、すれ違うようにして後ろへ抜けていく。
一方、ドラゴンは……その体の大きさゆえに、『三式』がギリギリ通れる程度の隙間しかない下を抜けていくことはできなかった。
ゆえに、急上昇して上を抜け、『レックス』との衝突を回避しようとして……しかし、そこに降り注ぐ無数のエネルギー弾。
こうなることを予見して、あらかじめ『上に逃げられないように』アキラが放っていたそれらに、ドラゴンは自分から突っ込むことになった。
非実体弾を『口径』で言い表していいのかは疑問であるが、先程までマリカや他の航空隊員達が放っていた機銃よりもはるかに大きなそれらが何十発と命中。全身を焼かれ、叩き落され、墜落するドラゴン。
「火ィ噴くからって、熱系の攻撃に大成があるわけじゃないみたいっすね」
「そんなもんは流石にファンタジーの中だけってこったろ」
飛ぼうと思った瞬間にそれを阻止され、動きの止まったドラゴン目掛けて……ブースターをふかして急加速して跳躍した『レックス』が、腕を大きく後ろに引いて振りかぶり……同時に、ジャキイン、と鋭く金属質な音を立てて鉤爪を展開する。
そして、懐に飛び込んで……一息に振り下ろし、袈裟懸けに切り裂いた。
「やったか!?」
「バッカ、ロイドお前それ言っちゃダメな奴……実際やってねえし」
「寸前でかわされたっすね……浅かった」
通信の向こうから聞こえて来た同僚の声にツッコミを入れつつ、すれ違うような形で離れる『レックス』とドラゴン。
『レックス』は着地と同時に振り返り、ドラゴンに向き直る。高熱の鉤爪は深々と胸を切り裂いたが、命にまでは届かなかったようだ。
ドラゴンに表情などないし、仮にあってもわからないだろうが……不思議とその目からは、燃えるような怒りの感情が見て取れた。
文字通り身を焼く怒りのままに、ドラゴンは大きく息を吸いこむ。口腔内に、炎の輝きが見え始めた。
確実にとどめを刺すべく、爪を展開したまま突貫する『レックス』。しかし、即座にチャージを終えたドラゴンが、激流のような勢いで火炎を吹き付ける。
真正面から突っ込んだがために、『レックス』はその火炎に半ば飛び込むような形で直撃することとなり……しかし、勢いが弱まることは微塵もなかった。
「ぜ、全然効いてない……何でできてんのよ、ホント、アレ……!?」
上空からその光景を見て、唖然とするマリカ。
吹き付けられた超高温の炎。しかし、それを受けてなお、全くダメージになった様子はなく……そのまま『レックス』は突っ込んで腕を、鉤爪を振るう。
まるで炎を切り裂いたかのような動きで、振りぬかれた爪が、ドラゴンの顔半分をざっくりと切り裂いた。炎は全く効いてはいないが、視界が悪くなったためにまた1歩、命には届かなかった。
胸に続いて頭を切り裂かれ、激痛に悶えて叫ぶドラゴン。
だが、そこで止まらず、『レックス』は爪を振り抜いた勢いのまま回転し、そのまま飛び回し蹴りを叩き込んでドラゴンをしたたかに蹴りつけ、地面に蹴落としてたたきつけた。
そして、そのまま空中で体をひねって体勢を立て直すとともに、もう片方の足を、大上段に、と言っていいほどにまで大きく振り上げて……勢いよく振り落とし、ドラゴンの頭を踏みつける。
ズガァン、ゴキィッ、という、踏み砕くような音が響いて……銃弾や爆弾もほとんど聞かなかった龍の鱗と甲殻が無残に割れて砕け、恐ろしかった龍の頭部がひしゃげた。
そんな状態でも、『ガ、ァアア……!』と、驚異の生命力で唸り声を上げているドラゴンに……トドメの一撃が放たれる。
もともと、『レックス』の戦闘モードは背部の武装ユニットが変形して脚部になっている。
その、変形に伴って格納されている砲撃系の武装の一部が、ドラゴンの頭を踏みつけた状態のままで再展開され……真下に向けて一斉掃射されたのである。
―――ズドドドガガゴゴゴゴ……ドゴォォオオォン……!!
ゼロ距離で無数の熱エネルギーの砲弾を叩きつけられたドラゴンは……数秒後、首、ないし肩のあたりより上が、消し飛んでなくなっており……間に挟んでいたものがなくなった『レックス』の足は、無数の爆発で凸凹になった上、焼け焦げて真っ黒になった地面を直接踏みつけていた。




