第47話 空飛ぶ龍の猛威
「ちょっと……何よアレ……? だ、誰か知ってる奴いる!?」
「わからないです! でもっ……各機警戒を! 未確認の飛行クリーチャー、南西方向より接近! 見た目はその……ドラゴンみたいな感じの……」
マリカとペアで飛んでいる隊員の通信を聞き、その方向を確認した航空隊の面々。
その視界に、通信通りの『ドラゴン』としか言いようがないような見た目のクリーチャーを確認して、誰もが困惑を隠せない。
しかしそれも一瞬。アレが敵であり、向かってくるのなら迎え撃つまで。
『サラセニア』の空の守護者としての矜持と、それ以上に、積み重ねた訓練から、体が『やるべきこと』を覚えていたことが大きいが……一切フォーメーションを乱すことなく飛び続け、未知の襲撃者の迎撃へと頭を切り替える。
時を同じくして、同じように『やるべきこと』を認識した者達が、盛大に砲声を鳴らし始めていた。
「地上部隊による火砲支援開始! 各機、攻撃目標……仮称『ドラゴン』の迎撃へシフト!」
「了解! 今までとよりはちと大型だが、その分面積が広いし当てやすい、怯むなお前ら!」
「仕切ってんじゃねえよ、当たり前だ!」
高射砲や重砲により、迫ってくるドラゴンを迎え打つ陸戦部隊。
その攻撃は、ほとんどが『イオンバード』の時と同様に当たることはないが、中には運よく命中したものもあり……しかし、『ドラゴン』はそれに一瞬ふらついたくらいで、一瞬後には何事もなかったかのように飛んでくる。
(高射砲が直撃してもびくともしない!? 『イオンバード』と違って耐久性に難ありってわけじゃないのか……厄介どころじゃないのが出て来たわね)
飛びながら観察を続け、正確に相手のスペックを分析するマリカ。
それと同時に、1つ気になっていることがあった。
南方から近づいてくる敵は……『ドラゴン』だけではなく、『イオンバード』も混じっているのだ。
数の内訳を言えば、『ドラゴン』が4匹、『イオンバード』はそれより少ない3匹である。
しかもその合計7匹は、どうみても群れとして一緒に飛んでいるという感じではなく……
「『イオンバード』は……『ドラゴン』に追われている?」
「そう見えますね……あっ」
と、隊員の1人がつぶやいた瞬間、1匹の『イオンバード』が、運悪く高射砲の弾丸に当たり、翼を負傷してしまった。大きく体勢を崩し……必死に羽ばたくことで墜落はしなかったものの、その数秒後、背後から追いかけて飛んできていた『ドラゴン』の1匹が追いついた。
そして、その喉元に噛みついて……そのまま地上に引きずり落とし、離れている場所から出も聞こえるほどの轟音と共に、地面にたたきつける。
小さなクレーターができるほどの衝撃で体全体がひしゃげた上に、首に噛みつかれていたことでバラバラに引きちぎれた『イオンバード』を、ドラゴンはそのまま貪り食い始めた。
「食ってる……あいつら、捕食者・被捕食者の関係なのか」
「じゃあさ、ドラゴンじゃなくてイオンバードを狙って仕留めるようにすれば、ドラゴンはそれ食って満足して帰ってくれる……かな?」
通信の向こうから、隊員のそんな言葉が聞こえた。
仮に『ドラゴン』が、イオンバードにしか目が言っていないのならばそれも可能かもしれないが……しかし、現実は非常だった。
次の瞬間、ドラゴンがこちらに……『フォート』と、その上空を飛ぶ航空隊を目にして……そのまま、イオンバードよりもこちらを攻撃目標に据え、軌道を変えて飛び始めた。
クリーチャーはなぜかほとんどの場合、他のどんな脅威や捕食目標よりも、人間を食い殺すことを最優先に考えて行動する。それは、この『ドラゴン』も例外ではなかったのだ。
「鳥の方がでかくて食いでがあるだろうに……」
「まあ、もともと数足りてなかったし、楽そうな獲物にシフトしたのかもね」
どの道、先程放った攻撃の1発がドラゴンに命中している。このまま何事もなく退散してくれる方が虫のいい話だと、皆思ってはいたし……もともと戦うつもりで覚悟もできていた。
幸い、『イオンバード』を貪り食っているドラゴンはこっちに来る気配はなく、敵の数は計5匹に減っている。自分達であれば、相手取れない数ではない。
戦闘機6機と武装ヘリ2機はすぐさま飛び……フォート上空に来るより前に相手取り、その全てを撃ち落とさんとする。
ヘリが機銃でけん制しながら、戦闘機4機が左右に展開。残る2機……マリカのペアは、正面から『イオンバード』2匹に掃射を浴びせる。
水平に横方向に移動しながらの連射で、1羽が致命傷を負って落ちて行った。もう1羽はどうにか空中に残ったが、次の瞬間、遅れて飛んできたヘリの機銃でとどめを刺された。
終わってみれば一瞬で『イオンバード』は落ちた……が、この闘いはここからが本番だと、全員が理解していた。
4匹いるドラゴンのうち、3匹が迫りくる。4機の戦闘機は、弧を描く軌道で飛び、正面を避けて側面から切り込み、機銃による掃射を浴びせていく。
狙いは翼……翼膜。胴体への攻撃はさして効かないのは、先程の砲兵隊の一撃でわかっている。
ならば、強靭と言えども、他に比べれば明らかに薄く脆いそこを狙い、飛行能力を奪う。それが航空隊の狙いだった。
高速で飛行するドラゴンを相手に、素早く狙いをつけて撃つのは至難の業だが、彼らは見事それを成し遂げた。
攻めに出る4機のうちの1機……航空隊隊長の乗る戦闘機から、ドラゴンのうちの1匹に弾丸が降り注ぎ、小さいながらもその翼膜を穴だらけにする。
先程、機銃の直撃を食らった時と同様、飛行能力が低下してドラゴンはその場でふらついた。
……が、それだけだった。
『イオンバード』のように、バサバサと羽ばたいて必死に滞空状態を保つこともせず、ましてや墜落することもない。2、3度羽ばたいただけで、また何事もなかったかのように飛び始める。
心なしか、動きが鈍っているように見えなくもないが……誤差の範囲だろう。それを見て、隊長は『ちっ』と舌打ちをした。
だが、全く効かないわけではないとわかれば十分だった。同じことの繰り返しで徐々に飛行能力を奪い、地面に落としてしまえば、そこを地上部隊の掃射でとどめを刺せばいい。
全員がそう考え……『イオンバード』を瞬殺したマリカ達2機と、武装ヘリの支援も加わって本格的に対抗しようとしはじめた……その直後だった。
隊長に続けとばかりに、逆側から回り込んで機銃を放とうとした2機。
その軸線上にドラゴンが来た瞬間、ドラゴンはさっと高度を下げて、その射線から外れた。
(っ……警戒してやがる。今のでこっちの手札を覚えたのか? ケダモノのくせして賢い……)
決して低くはない学習能力に、こちらも警戒のレベルを上げる。
しかし問題ない。空は自分達の領域だ、1度かわされようとも、何度もトライして追いすがり、畳みかければ……そう考えて操縦桿を握り直す。
だがその直後、ドラゴンはさらに動いた。大きく弧を描くように飛び……自分達の後ろ側に回り込もうとする。
その動きは、先程同じようなことをイオンバードが見せたばかりだ。対応策は、既にある。
「はっ、ドッグファイトのつもりかよ!? 遅すぎてあくびが出るぜ!」
その隊員は、フェイントを交えた動きで容易く祖の追尾をかわしてふりきり、逆に自分が相手の後ろを取ることに成功していた。
これならまだ、すばしっこい分さっきの鳥の方が相手になったなどと考えて……しかし次の瞬間、目を見張る。
突然目の前で、ドラゴンが巨大化した。
いや、違う、そう見えただけだ。急激に近づきすぎて、目に映る姿が大きくなっただけ。
背後から追う形で、ほぼ同じ速度で飛んでいたのに対して……突然ドラゴンが急減速したため、そう見えたのだ。
ドラゴンは戦闘機とは違う。ドッグファイトのような状態になっていても、急に減速できない自分達と違って、羽ばたき1つで動きに緩急をつけられる。
刹那の間にそこまで思い至って理解した隊員だったが……全てが遅すぎた。
慌てて操縦桿を切って急カーブするも、時すでに遅く。
かわしきれずに、その翼がドラゴンの巨体をかすめてしまう。
いや、『かすめた』とはいっても、そこは、高速で飛行する重量のある物体同士の激突だ。巻き起こる衝撃が生半可なものであるはずもない。
ガゴン、と破滅的な音を立てて、翼が破損する。
折れるまではいかないが、決して小さくない変形が起こり、飛行能力は失われた。
そして、そのまま墜落……するのすら、ドラゴンは待ってはくれなかった。
その場で反転し、フラフラと力なく飛ぶ飛行機を追いかけ……その上を取る。
そのまま、踏みつけるように放った上空からの蹴りで、真ん中から真っ二つにした。
戦闘機『だったもの』は、無数の部品にばらけて、地上に落ちていき……爆発、炎上。
「アードぉ!?」
「ちくしょうっ、よくも!」
無敵だと思われていた航空隊。その1機が落とされた様子を見て……陸戦部隊は驚きを、動揺を隠せない。
航空隊の残る面々もそれは同様だったが、怒りと悲しみをこらえて押し込め、すぐさま持ち直す。
「敵の動きはこちらよりは遅いが、その分三次元的な動きや緩急をつけたそれができる。加えて、接触した場合は強度差からこっちが一方的にやられる、各自十分注意しろ!」
怯えず、ひるまず飛ぶ。相手の攻撃に当たらないように注意しつつ、こちらが攻撃を当てて地面に落とす。それだけを考えて飛ぶ。いつも通りのことをやるだけだ。
相手が少しばかり大きくて頑丈だが、やることは同じだ。1度で落ちなければ、2度、3度繰り返し、傷を広げて叩き落せ。そうすれば、いつかは倒せる。
5機の戦闘機が何度も何度も、無数の円弧を描いて飛びまわり、ドラゴンの巨体に鉛玉を浴びせていく。
ドラゴンも動くため、その全てが翼に当たることはないが、航空隊は徐々にその動きに慣れていく。動きを見切り、先を制して、ヒットする数を増やしていく。
しかし、撃てども撃てども、ドラゴンが地上に落ちる気配はない。
そして……航空隊の方は、攻撃手段は無限ではない。
先に、1機の機体の弾薬が尽きた。
「っ……すまない、弾切れだ。だが燃料はまだもつ……かく乱飛行による支援に徹する、攻撃は……」
「だめだ、危ない! 逃げろ!」
その瞬間、弾切れになった戦闘機の方に……反転したドラゴンが猛烈な勢いで襲い掛かってきた。突然自分が明確にターゲットにされたことに、そのパイロットは驚きを隠せない。
射線上にとらえても撃たなかったことから、こちらの弾切れを悟ったのか、それとも単なる偶然か……その答えを出すよりも先に、終わりは訪れた。
驚愕からできてしまった一瞬の隙。そこをついたドラゴンの顎が、パイロットを戦闘機から、コクピットごと食いちぎって奪い去った。
しかもその隙間をついて、別な1匹のドラゴンが……こちらは航空隊を無視して飛んでいく。
向かう先にあるのは……『サラセニア』のフォートだ。
「くそ、行かせない!」
4機になってしまった戦闘機が置き去りにされる中、その抜けたドラゴンに最も近い位置にいた武装ヘリが、機銃を乱射して攻撃を加える。
ヘリは速度はともかく、姿勢制御や滞空性能で言えば、戦闘機よりも優れている。狙いをつけてドラゴンに雨あられと鉛玉をあびせ……しかし次の瞬間、それを鬱陶しいと思ったのか、キッ、とドラゴンがその目を向けて睨みつける。
そして体を反転させて、飛びかかってくる……のではなく、
その場で滞空したまま、ヘリに顔を向けて……ぐあっ、と大きく口を開けた。その暗い口腔内……その奥に、せり上がってくる明るい何かが見える。
ヘリのパイロットはそれを理解して、乾いた笑いを浮かべた。回避は、間に合わない。
「ははは……そんなんアリかよ。いくら見た目が見た目だからって……」
次の瞬間、勢いよく吐き出された炎がヘリに直撃し……装甲やガラスを一瞬で溶かし、崩す。
それだけでもパイロットの生存は絶望的だったが、それに加えて、残る弾薬や燃料に引火したのか……空中で爆発を起こし、文字通り散った。
それを見届けたドラゴンは、今度こそフォートへ向かう。無抵抗な人間という餌をむさぼるために、その巣へ向けて飛ぼうとして……その背後から、さらに迫ってくる者がいるのを感じ取った。
「行・か・せ・る・かぁァアア!!」
怒号とと共にエンジンをふかして突っ込んでくるマリカ。
ドラゴンは再び、振り返って口を開け、吐き出す炎でマリカの乗る機体を迎撃する。
だがその炎は命中することはなく、直前で急上昇したマリカに回避される。
マリカはそのままぐんぐんと高度を上げていき……しかしまた反転、今度は急降下し始めた。
その状態で、位置を調整しながら弾丸を乱射する。片方の翼のみに絞って放たれ、前段命中したそれは、ドラゴンの飛行能力を大きくそぎ落とすことに成功していた。
これにはさすがにドラゴンも怒ったのか、先程までに比べればやはり拙く見える動きで飛びながら、執拗にマリカの戦闘機を追い始める。しかし、突撃しても炎を吐いても、まるで後ろに目がついているかのような動きで、ひらりひらりと回避する。
余裕そのものといった風に見える動きに、ドラゴンは苛立っているのか、唸り声をあげて炎をまき散らす。しかし、やはり当たらない。
一方で、マリカの方も……動きはともかく、決して余裕があるわけではない。
当たらずに飛ぶことはできているが、こちらも決定打がないことに変わりはない。いくら撃っても落とすことはできない上、ここはフォートに近すぎて、陸戦部隊による砲撃支援が難しい。
(何とかしなきゃ……でも、『三式』の火力じゃ、脳天にぶち当てたってコイツは多分倒せない……せめて爆撃用の爆装でもしてればまだやりようはあったかもしれないのに……! それに、動きにも気を使わないと、コイツの攻撃でフォートを……っ!?)
動きはともかく、表情にも焦燥を隠せないマリカの視線の先で……また1機、戦闘機が落とされたのが見えた。
鞭のようにしなったドラゴンの尾がエンジンをかすめ、中破。そのままふらふらと落ちていく。
対して速度も出ていないし、落ちていく先は荒野。あのまま行けば、不時着で済みそうではある。幸運にも、と言っていいのか……それをドラゴンが追っていく様子はない。
だが今ので、防衛線に完全に穴が開いてしまった。残る2機……マリカを合わせても3機の戦闘機と、武装ヘリ1機だけでは、この怪物達を……4匹のドラゴンを抑えきれない。
(っ……最初に離脱して鳥を食ってた奴……復帰してきたの!? そうか、それで不意を突かれて、やられて……)
突破される。フォートになだれ込まれて、住民たちが犠牲になる。
到底受け入れられない、しかし最早止めることもできないであろう事態に、何か自分にできることはないのか、とマリカは必死で頭を巡らせる。
(機体ごと体当たりしてぶつかれば少しは……いや、砲弾が直撃してもびくともしてない奴だし、特攻なんかじゃ多分倒すこともできない、無駄死にになるし、後に続かない! 一旦基地に戻って爆装してから再出撃? それなら攻撃力は上がるけど、それでも倒せる保証はない……何よりそれまでにどれだけの市民が犠牲になるか……)
考えている間にも、刻一刻とタイムリミットは近づいてくる。
こうしてかく乱しているドラゴン1匹に加え、仲間達を振り切って3匹のドラゴンが新たに飛んでくる。そうなればもう、自分もまたたく間に落とされるか、無視されて市街地に殺到されるか……どちらにしても、地獄でしかない。
(2機目が落とされた段階で出した、後詰めの連中への応援要請……タイミングが遅かった。間に合わない……今から出撃しても、市街地上空での戦いになる。確実に流れ弾で被害が出る……だめだ、手が思い浮かばない。打つ手が……)
ふと目を向ければ、軍の部隊が展開して、市民の避難誘導を行っている。
万が一、フォートの軍による防衛線が抜かれて、クリーチャーが侵入してきた場合に備えて、避難用のシェルターのような施設が、町のあちこちに整備されているのだ。
そこを目指して人の移動が起こっているが……上空から見下ろすドラゴン達からすれば、それらはただ単に、餌の大群にしか見えないだろう。嬉々としてそこに顔を突っ込んで食らいにいくか、つかみ取りして持ち帰るはずだ。
案の定、今までマリカが相手をしていたドラゴンも、それを見た途端にマリカを無視して飛んでいく。
慌ててマリカが後ろから機銃を浴びせても止まることはなく、しかもすぐにそれすらできなくなった。
弾が切れたわけではない。ただ、位置がもう本当にフォートに近すぎて、ここで撃つと弾がフォートに飛んでしまうのだ。
そして……背後からもう、すぐそこまで、残り3匹のドラゴンが来ている。
どうすればいい、どうすればいい……答えの出ない問いがぐるぐると頭の中で回り続ける中……マリカの目は、飛ぶドラゴンの向こう側に、信じられない、信じたくないものを見た。
(ま、マリア……なんでそこに……そっか、避難して……ッ!?)
大きな通りを通って避難していく人の流れの中に……つい数十分前まで一緒にいた、姉の姿を、マリカは見つけてしまった。その周囲を、不安そうに、あるいはもう既に涙を流しながら懸命に走る、孤児院の弟妹達の姿も。
おそらくは孤児院からシェルターへ避難する、その途中なのだろう。
そして信じがたいことに……目の前のドラゴンは、一体何の偶然か、ちょうどその姉たちがいる場所目掛けて飛んで、突っ込んでいく。
「何で、そんな……何で、よりによって!? 何でッ!?」
今の状況を……そして、この後何が起こるかを予見して、一気に青ざめるマリカ。
「行くな……そっちに行くなっ!」
しかし、無情にも、出来ることがない。
撃ち落としたい、でも撃てない。打てば流れ弾が市街地に飛ぶ。それ以前にどう考えても、弾が小さすぎて焼け石に水だろう。
どうしたらいいのかわからない、何もできない。叫ぶことしかできない。
視線の先にいるマリア達が、突っ込んでくるドラゴンに気づいた。
今の自分と同じか、それ以上に青ざめて……とっさの反応だろうか、子供達を抱き寄せて、その身を盾にしてかばうようにする。
「止まれ、止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ! 止まっ……お願い……嫌だ……」
肉壁程度で、あの龍の爪や牙、そして炎を防ぐことなどできるはずもない。5秒後に、愛する家族達がどうなっているか、想像するのは容易かったが、死んでも想像したくない。
しかし、どうすることもできない。
海鳥が水面の魚を狙うように、ドラゴンはその大口を開けて突っ込んでいく。
徐々に減速しているが、あれは攻撃を止めるわけではない。
ただ単に、加速したままだと地面に突っ込んで激突してしまうから、舞い降りる形にしただけだ。その後……悠然と餌に食らいつき、貪り始めるのだろう。
「嫌だ、やめろ……やめろォォオオォ――――ッ!!」
喉が裂けるかと思うほどの絶叫も、ドラゴンの耳に届くはずもなく。
威嚇するように、あるいは歓喜を現すように、大きく翼を広げて滞空したドラゴンは……そのまま重力に任せて、人間達がひしめく餌場に舞い降り……その牙で勢いよく、数人まとめて食い殺そうとして……
その直前、横から割り込んできた巨大な顎に食らいつかれた。
「…………え……!?」
食らいつこうとしていたドラゴンが、逆に『食らいつかれて』いた。
そしてそのまま、その巨体を上に持ち上げられたかと思うと……離れた場所の、誰もいない、何もない開けた地面にたたきつけられる。
ズゴォン、という轟音と共に、地面が揺れて、人々が転びそうになる。
しかし、そんなことは些細なことだと言わんばかりに、人々は目の前の光景から目が離せなかった。
それは、マリアや孤児院の子供達はもちろん……飛ぶ戦闘機から見下ろしているマリカも同様だ。
5秒後には、自分達に死をもたらすのが明らかだったであろう、空飛ぶ飢えた龍。
それが今……地上に引きずりおろされて、赤い鋼の龍の爪と牙にかかり、引き裂かれて物言わぬ骸になり果てていた。
『危っっぶねえぇえ……間に合ったぁ! つか襲われそうになってたの、マリカのお姉さん達じゃねーかよ! こんのトカゲヤロー、心臓に悪いことしてくれちゃってんじゃねーっつーの!』
『ハルー? 私らが今乗ってる『トカゲ』も、今まさにちょっとばかりグロ……もとい、心臓によろしくない光景を作り出してるんすけど……ツッコミ待ちだったりするっすか?』
『いや別に上手いこと言ったつもりはねえよ……ほら、あと3匹いんだからさっさと行くぞアキ! マリカやその同僚が命がけで守ろうとした町で、人死になんぞ出させてたまるかってんだ……!』
「ハル、キ……!」
家族が助かったと、どうにか理解したマリカの視線の先で……『レックス』は、空に向けて咆哮する。
形だけなら似たような異形の見た目ではあるが……その雄叫びは、絶望しかけていたマリカや、フォートの市民たちにとって……この上なく頼もしく、力強く感じられたという。




