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災世のディザイアスター  作者: 和尚
第2章 空を舞う、鋼の翼
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第41話 サラセニア、到着



 『そこで止まれ! こちらはフォート『サラセニア』の防衛隊だ!』


 険しい山道をどうにか走破し、幾度ものクリーチャーによる襲撃をも退けて進んでいた、ヴォーダトロンの使節団一行。

 もうすぐ目的地に到着する、という所まできたところで、上空から、バラバラバラバラ……という音が聞こえてきた。


 鳥型クリーチャーの羽ばたきにしては、音がおかしい。途切れも休みもせず聞こえ続けている。

 一同が見上げると、そこに飛んでいたのは、1機のヘリコプターだった。


 航空機と同様、この『災害世紀』において、全くと言っていいほど見られなくなってしまった、空飛ぶ機械。市民の中には、それを見ても何なのかわからない者や、『ヘリコプター』という名前を知らない者すら、決して少なくない数いるだろう。


 戦闘機と違って、上空の同じ位置での『滞空』が可能であるそれは、こちらを見下ろすように、遥か高い位置で止まっている。高度的には、地上からの銃火器による攻撃の有効射程外、といった位置だろう。


 ハルキが機体のカメラのズーム機能を使って拡大して見てみると、そのヘリコプターの胴体部分に、見覚えのあるエンブレムが確認できた。

 具体的には、今運んでいる、マリカの乗機『三式』にもついていたのと同じマークだ。


 つまりあのヘリコプターは……と、思い至ったと同時に、今度は前方から3機のAWが走ってくるのが見えて……そのうちの1機から、上記の警告が拡声器で発せられたのである。


 3機のAWは、使節団の車列の進行方向、その道をちょうど塞ぐように横並びに停車した。

 やはりそのいずれにも、胴体部分のよく見える位置に、同じエンブレムが刻印されている。


 今言っていた通り、彼らは、上空のヘリコプターを含めて、フォート『サラセニア』の防衛部隊であり、所属不明のAWを含む車団を見つけてここに来た、ということなのだろう。機械越しでもわかるくらいに、その声には警戒の感情が込められていた。


 しかし、こうなった場合の段取りもあらかじめ決められている。


『こちらは『サラセニア』航空隊所属、隊員番号9604、マリカ・キヴァリー少尉です! フォート『ヴォーダトロン』への特使任務より只今帰還いたしました』


『なっ……き、キヴァリー少尉ですかっ!? し、少々お待ちを……』


 護送車両の中にいるマリカが、あらかじめ渡しておいた無線端末からそう呼びかけると、わかりやすく動揺した声が今度は聞こえて来た。


 その少し後、3機のAWのうちの1機から、パイロットと思しき初老の男性が下りてきた。

 軍服を着ているが、そのデザインは、マリカが来ているものとは微妙に違っているようだ。男女で違うのか、はたまた所属か何かの差によるものかはわからないが。


 それに応じるように、マリカも護送車から降りて歩いていく。


 お互いに歩いていき、使節団の車列と3機のAW、そのちょうど中間の位置で、2人は接触した。

 マリカが懐から何か――恐らくは軍発行のIDカードか何か――を出して見せて、軍人はそれを確認しているようだ。


 確認にはさほど時間はかからなかったようで、すぐにそれをマリカに返す。

 そして少し2人で話した後、初老の軍人は、見事な動作でびしっとマリカに敬礼。マリカも同じように返して、そのまま分かれた。


 マリカが戻ってくるとおおよそ同時くらいに、初老の軍人もAWに再度乗り込み、


『事情は伺いました。『ヴォーダトロン』使節団の皆様、歓迎いたします。併せて、警戒のために止めてしまったことをお詫び申し上げます』


『いえ、貴方の職責を鑑みれば当然のことです。こちらこそ、先触れもなしに驚かせてしまい、申し訳ございません』


 サラセニア側が言って来たのに返す形で、こっちのスピーカーからも、隊長であるファウーラが応答する。


『申し遅れました。私は『サラセニア』防衛隊所属、デュラック・フォン上尉です。『サラセニア』までは我々が先導させていただきます。ご足労願えますでしょうか』


『もちろんです、デュラック上尉。こちらは『ヴォーダトロン』軍事部門、特務部隊所属、ファウーラ・ハッシュダートと申します。どうぞよろしくお願いします』


 少し遅めの自己紹介を交わした後、デュラック上尉率いるAW3機と、その間もずっと上空にいたヘリコプターは、機体を反転させた。


 AW3機はこちらのペースに合わせて走り、今言った通り先導してくれるようだ。

 一方、ヘリコプターの方は、それらに先んじて去って行く。恐らくは先行して『サラセニア』に戻り、使節団の来訪を告げるのだろう。


 ちなみに、結果として突然の邂逅になってしまったが、もともとファウーラ達も、ある程度近づいたら先触れを出すつもりではいた。何台ものAWや大型の武装車両が近づいて来れば、今の対応の通り、警戒されても仕方ないだろう。


 しかし、今進んでいるのは土地勘が全くない土地であり、山道ということで足場も悪い。未知の種族を含むクリーチャーも出るため、1機か2機を別行動させるのは危険が大きい。


 そのため、もう少し『サラセニア』に近づいてから、と思っていたところだったのだが、どうやら向こうの警戒網がこちらの接近を察知する方が早かったらしく、あのような形になったのだ。


 とはいえ、ファーストコンタクトは無事に済んだと言えるし、きちんと話が通った以上は、この後の『サラセニア』入場もスムーズにいくだろう。

 一行は気を取り直して、この後いよいよ始まる『サラセニア』での交易や、それに付随する調査などの任務を前に、各々心の準備をしていくのだった。



 ☆☆☆



 山道をしばらく走って到着したフォート『サラセニア』。

 そこは、ある意味当然ではあるかもしれないが、『ヴォーダトロン』とは大きく違っていた。


 周囲全体が大きな壁、ないし塀に囲われているのは同じだが、その壁そのものは、デザイン的な問題かもしれないが、『ヴォーダトロン』のそれよりもやや薄く見える。

 しかし、強度そのものは高く保てるように組み方を工夫されているようだった。


 だが、それよりも大きく違っていたのは、その壁の中。

 事前に話を通しておいてくれたのだろう。簡単な検査だけですぐに、スムーズに『サラセニア』の中には入れた。


 が、そこに入ったハルキ達は、予想していたのとは大きく違う光景を目にすることとなった。


(何か……寂しい雰囲気の町、だな)


 フォートの構造自体は、ヴォーダトロンと大きくは違わないようだ。

 町の中心を大通りが貫くように整備されていて、そこに家々や商店などが軒を連ねている。その大通り自体は、有事の際に軍所属のAWが迅速に展開するためのルートであるわけなので、かなり大きく道幅も広い。食料を積んだ武装トレーラーも楽に通れるくらいのそれだ。


 しかし、その周囲には……『活気』がないように見える。


 ここは大通りで、今はまだ昼間である。

 これが『ヴォーダトロン』ならば、人が活発に行き交って商売をしたり、そうでなくとも仕事をしたり、ただ単に買い物や散歩、雑談を楽しむ人の姿が見られるだろう。


 ここでは、そういったものがほとんど見られないのだ。


 全くないわけではない。ちらほらと人はいるし、仕事をしている様子も見ることができる。車両……AWも、そうでない普通の車も走っている。

 井戸端会議をする主婦らしき女性達や、遊んでいる子供の姿もある。


 しかしそれらが、どこか小さく、大人しくまとまってしまっているような印象を受ける。


「なんか、上手く言えないんすけど……何だろ、これ? 静かな町っすね」


「うん……私、航空機なんてすごいものもってるフォートだから、もっとすごく生き生きしてるイメージあったかも……あ、ごめんマリカちゃん、なんか変な風に言っちゃって、その……


「ううん、いいの。実際その通りだし……『ヴォーダトロン』を見た後じゃ、私もなんか……そういう感じだな、って思うもん」


 通信機越しにそんなやり取りをする女性陣。

 やや失礼なことを行ってしまったアキラとメリルだったが、マリカは別に気にした様子もなく、ははは、と笑っていた。


 そこに今度はクリスとハルキ、それにロイドが、周囲の街並みを見渡しながら、


「……人がいない、ってわけじゃないらしいな。家の中にはきちんといるみてえだし、仕事で出入りとか移動もしている……ただ、通りに出てる人数が少ねえだけだ」


「確かに。それにしたって、まるで外にあまり出ないようにしてるみてーだな。かと思えば、子供や奥様方が出てたりするし……それにここ、何でかわからないけど、露店がほとんどねえぞ。店舗を構えてるタイプの店はあちこちにあるけど……」


「そういやそうだな……品質はともかく、どこのフォートでもそういうのは大なり小なりあるもんだと思ってたけど……なあマリカ、これってやっぱり、交易相手のフォートが減ったせいなのか?」


 交易で入ってくる品物の不足が原因か、とロイドが尋ねたのに対して、マリカは『ううん、違うよ』と、通信の向こうで首を振った。


「ここはもともとこんな感じなの。アレな言い方になっちゃうかもだけど……『ヴォーダトロン』と違って、元からあまりものが多くないフォートだから。あくまで生活に必要な物資のやり取り、っていう感覚で……娯楽要素としての買い物って、あんまりないのよね」


「そっか……」


「それに、山の天気は変わりやすいし、風もけっこう強いのが吹くから。品物を外に出して並べておくと、急な雨や突風の時に大変だから、露店とかも元から少ないってわけ。わかった?」


「なるほど……フォートの立地とか気候条件でも、そういうの変わってくるんすね。たしかに、扉とシャッター閉めれば終わりの店舗型と違って、露店は商品しまって畳むのにもそこそこ時間かかるし、その間にびしょぬれになっちゃうっす」


「そういう……何だろ。『ヴォーダトロン』でやってた露店みたいな奴は、屋内でそういうのやる専門のスペースがあって、そこで皆やってるよ。『バザー』って呼ばれてるの。皆、ここにはしばらく滞在するんでしょ? よかったら今度は私がこの町、案内するから、その時に行かない?」


「ホント! やった、行く行く! よろしくねマリカちゃん!」


「まっかせなさい! まあ、見た目はちょっと寂しい街並みかもしれないけど、ちゃんとこの町にもいいところや見どころは一杯あるんだから! さっきメリルやアキラが言ってた通り、航空機を有するフォートは伊達じゃないってところ、見せてあげるわ。楽しみにしておいて」


 一時は少し暗い話になるかと思われたが、見事にマリカがそれをひっくり返して、この先の『サラセニア』での日々を楽しみに感じるものに変えてしまった。


 具体的にいつにするかは今後のスケジュールを見ての決定になるだろうが、メリル、アキラ、それにロイドやハルキ、そして以外にもクリスも一緒になって、マリカの案内で『サラセニア』を見て回るのを楽しみにしていた。


 こういう遊びにはあまり普段関心を示さないため、クリスが参加を表明したのには、第7の面々のほとんどは正直意外そうにしていたが、その理由を聞くと、皆納得した。


「今まで交流のなかったフォートだ。金になりそうなネタや品物がないか見ておきたいんでな」


 彼らしい理由だ、と誰もが思った。


「けどよ、今回に限って言えば……そういうのって、むしろ使節団の人達が調べるんじゃないか? ほら、一緒についてきた……ヴィルジニア少佐の仕事って、そのへんも含まれてるんだろ?」


 と、ロイドが気付いたように言うと、セリアもそれに続く。

 なお、セリアは、クリスの参加を意外そうに思っていなかった1人である。おそらくはそういう理由だろうと予想できていたらしい。


「はい、ミハイロフ少佐の仕事は、交易関係にかかる品目の調整です。それは、『ヴォーダトロン』から提供する物資の品目や需要はもちろん、『サラセニア』で購入できる物資で、『ヴォーダトロン』にとって魅力的なものは何があるか、という品目の調査も兼ねています」


「それは理解してる。だが、交易に使えそうな掘り出し物なんかが、そういう目立たない店や露店なんかに並んでる場合もあるからな。儲け話は、人に聞くのもいいが、自分の足で探すのも大事だ」


 セリアの言葉を聞きつつも、クリスは自分は自分で見てみたいようだった。


「まあ、ご期待に沿えるかどうかはわかんないけど、それならそれで喜んでもらえそうな店とか選んでおくわよ」


「よろしくねーマリカちゃん、期待してるー!」


「セリアは行かないんすか?」


「時間があれば行ってもいいかもしれませんが、色々とやることもありますので」


「んじゃ、保留ってことでいいんじゃね? あーそうだ、ハルキやアキラはさ、折角だからここで、航空機関係の技術とか勉強できそうならしていったらどうだ? 今後の仕事の役に立つかもだし」


「いや、そんな簡単に勉強できるはずねえだろ……そんなに長い期間いるわけじゃないし、そもそもそういうのって機密とかあるだろうし。つか、使う機会ねえだろ……」


「いやいや、わかんないぜ? これから本格的に『ヴォーダトロン』と『サラセニア』の交流が始まれば、技術協力とかで互いにそういうの教え合ったりとかするかもしれないじゃん? それこそ、将来は『ヴォーダトロン』に航空隊ができるかもしれないだろ。その時のためにさ」


「仮にそうなるとしてもそりゃ十何年後の話だろ。ノウハウ0から導入するまでどんだけかかるかなんてわかったもんじゃないし、そもそもそういうの利権とか絡んでくるんじゃね? 『サラセニア』だって、自分とこの強みをそうそうよそに流出させたりしないだろうし」


「でもさあ、もし私達も『航空機』とか使えるようになれば、もっと速く楽にヴォーダトロン』と『サラセニア』を行き来できるよね? そしたら交易も楽になるんじゃない?」


「ですが、マリカさんが乗ってきたような『三式』のような速度重視の航空機は、貨物輸送には適しているとは言えませんし、ある程度の量と体積を運搬できる輸送機のようなものが必要になると思われます。逆に言えば、そういったものを用意できれば、空輸による交易も現実味を帯びますね」


「なるほどなるほど……どう、ハルキ、アキラ、作れそう?」


「無茶言うなや」


「AWちょっと改造するだけじゃ無理っすよね、明らかにそれ……それこそ、『サラセニア』から技術協力とかしてもらえなきゃ、輪郭も見えてこないっすよ」


「だってさー。マリカちゃん、どうにかならない?」


「私にそんな権限ないよ……というか、皆当たり前のよーにハルキとアキラを技官とか技師扱いしてるけど、一応2人、軍人だよね? なんか、そっちが本職みたいに言われてるけど、いいの」


「いいんじゃね? 元々技術屋出身だから、実際そっちの方が得意だし」


「ぶっちゃけもうなんか半分あっちもホームみたいなもんっすし、呼ばれてしょっちゅう手伝いに行ってるから、設備の使い方とかももう完璧に覚えてるっすもん」


「あ、そう……」


 まあ、本人達がいいならいいか、と、マリカは深く考えるのをやめた。

 同時に、町を回る時には、ジャンク屋とか連れて行ったら喜ぶかな、とか思った。多分喜ぶ。





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