第40話 『ご飯』に混じっていたモノ
『サラセニア』への道中、見通しのいい場所を選んで野営を繰り返しながら、『ヴォーダトロン』の使節団は進んでいた。
クリーチャーによる襲撃は何度かあったが、全てレックスのレーダーが察知し、『第7特務部隊』が対処したため、車両や物資に被害は出ていない。
もちろん、マリカの乗ってきた『三式』を運んでいる輸送車もだ。
進む道のほとんどは荒野で、時には砂利道に近い状態の場所もあったため、走っている間もやや不快感があるのは否めない。
それでも、少しでも走る距離を短くするため、川や沼地などの、どう考えても通るのが無理だというような場所以外は、なるべくまっすぐ『サラセニア』に向かえるように走っていた。
休憩のたびに、簡単に各車両のタイヤやサスペンションなどの状態をチェックし、車両の方にもコンディションに問題がないように気を配りつつ、食事を含む休憩以外はひたすら走る。
そうして数日が過ぎ、『ヴォーダトロン』を出立してから5日目。
この日の朝から、一同は荒野ではなく『山道』を走っていた。
それも、単に『山の中にある道』を通るのではなく……明らかに上に向かって、山を登る形で。
道幅も決して広いとは言えず、大型トレーラーを何台も連れてきている使節団には、色々と厳しい道のりである。しかし、もともとこういった道のりになることは、マリカから話を聞いて想定されていたため、悪路のみならず山道にも強いタイヤなどを選んで整備されている。
ペースダウンは仕方ないとして、慎重に確実に、山道を進んでいく。
また、険しい山道では、AWは車両形態よりも人型形態の方が進みやすいことも多い。
それに加えて、足の遅くなった車列を獲物とみなしてクリーチャーが襲ってくることもあったが、平地同様、全て撃退して進んでいく。
その道中、山道でのこと。
「はーい、お待たせハルキー、ご飯だよー」
「いや、俺が食うみたいな感じで持ってくんなや、メリル」
と、通信越しにツッコミを入れつつも、乗っている『レックス』を動かして、メリル……と、ロイドが持ってきた『ご飯』に食らいつかせていた。
人型にしたAWでも運ぶのがそこそこ大変そうな大きさの、クリーチャーの死骸。それも、何匹分もがそこに積まれている。
今現在、襲撃してきたクリーチャーを『レックス』の捕食変換で素材に変えている作業中だ。
相も変わらず、見た目的にはとても『作業』には見えない光景だが、『第7部隊』の面々はさすがにもう慣れており、1匹目がキレイに『レックス』の腹の中に消えるくらいのタイミングで『よし、次』と、積んである山から次の『ご飯』を運んで用意する。
この光景に触れる機会のない、他の部隊の面々やマリカはと言うと、やはりまだ慣れない様子で、食事中の『レックス』を見て、それぞれ違った反応を見せていた。
一番多いのは、マリカを含めた、『うわぁ……』的な顔になっている者達。
何せ、見た目は完全に、鋼鉄の巨大トカゲが、クリーチャーの死骸を捕食しているという、ある種の食物連鎖のような光景なので、何とも言えないような表情になっている。
次いで、驚きや困惑は覚えつつも、『捕食変換』によって生産されていく様々な『インゴット』を見て、その素材としての価値の高さや、使い道の多さを理解し、これをどう利用していくべきか、と現実的に考えている者。ファティマや、その部下として連れてきている者達に多い。
気になるか気にならないかは別として、特にリアクションを見せない者もいる。
見ると微妙な気分になるから視界に入れようとしていない者や、別に見ても特に何も思わないからそうしているだけの者など、理由は違いそうだが、一応、一様に静かではある。
そして一部、面白がって見ていて、笑っていたりする者も。
こちらは感覚としてはどうなっているのかよくわからない。何かしらツボに入ったからなのか、ただ単に何となく面白がっているだけなのか。ヴィルジニアなどごく一部ではあるが、いた。
「いやあ……何て言うか、見た目はアレだけど、すごい機能ね。専用の設備も何も要らないで、すぐ素材にできちゃうなんて……さすがは『オーパーツ』ってとこかしら?」
「あ、やっぱわかっちゃうっすか?」
と、マリカの隣で捕食シーンを見ているアキラが言う。
『レックス』は動かすだけならハルキ1人だけで十分なので、休憩時間ということもあって、アキラは外に出て休んでいる。
もっともハルキの方も、さっさと終わらせて休むつもりではあるのだが。
「いや、隠す気ないでしょあんた達……まあ、自分達から積極的に言うつもりもないようだけど」
「まあ、コイツの扱いをどうするかってのは、割と前から色々議論されてたんだけど……どう考えても現行の技術で作れるような代物じゃないしな。ましてや、『ヴォーダトロン』の研究設備で」
「そもそも、『ヴォーダトロン』の軍で使ってるAWって、大半は『大連合』から買った奴だしね。あとは、勝った後に独自にちょっとカスタムしたくらい?」
実際、随分前から『ヴォーダトロン』では、『レックス』がいわゆる『オーパーツ』であるということを、あまり隠そうとしていない。
一応『機密情報』の枠内には収めているし、こちらから吹聴するようなこともしてはいないが。
そもそも、あれだけデタラメな性能を持っているものを『自分達が作った』と言ったところで、明らかにそれが嘘だと言うのは、少し考えればわかることである。
ハルキが今言った通り、『レックス』に用いられている兵装やシステムは、どれもこれも、今現在実用化されているそれらと比べて、異常と言うしかないようなものばかりなのだ。
高性能などという問題では最早なく、別次元と言ってすらいい。
大型クリーチャーの攻撃を受けても無傷でいられる防御力に、強力極まりない非実体系兵器の数々、『捕食変換機能』や『陽電子反応炉』、思考操縦に知識を直接脳に送る学習機能。
性能としてバカげたレベルであるだけでなく、聞いたこともないような、まるでフィクションの中に出てくるようなもの性質のものまで搭載されている。
当然ながら『ヴォーダトロン』では、それらの仕組みを理解し、技術として保有しているわけではない。そんなわけがない。
もし『ヴォーダトロン』に、それらを扱えるだけの技術力があるのなら、当然『レックス』以外のAWにも、それらの一部でも組み込んで戦力を強化したり、作業効率をUPさせているはずだ。そんなことは、少し考えれば誰でも思い至る。
そうなっていないということは、完全に『レックス』はワンオフの機体。それも、『ヴォーダトロン』が自力で一部でも再現することもできない……すなわち、どこかから『手に入れた』機体であるという結論に、用意にたどり着くことができる。
ならば、必要以上にそのことを隠すことはしなくていいだろう……というか無理だろうし、というのが、議会の出した結論だったのだ。
ヴォーダトロンが『作った』だろうと『手に入れた』だろうと、欲深な者達が『レックス』を狙ったり、その恩恵にあずかろうとすり寄ってくるのはどのみち変わらないだろうし、という、ある種の開き直りもなくもないが。
「まー、『オーパーツ』でも何でも別にいいけど……もうちょっと見た目に気を使えなかったのかなー……ってのは思うけどね。完全にクリーチャーの捕食シーンだから、ちょっと怖いわよコレ……見た目が生物的な分、妙に生々しいっていうかさあ……」
今も目の前で、みちみち、ぶちぶち、と嫌な音を立てて、タヌキのようなクリーチャーの筋繊維を噛みちぎっている『レックス』を見ながら、『うわぁ』な表情になるマリカ。
アキラもそれには同意らしく、『あぁ…』とでも言いたげな表情になっていた。
人によるかもしれないが……こういうシーンは確かに生々しくて、見ていて気分のいいものではない人がほとんどだろう。
実際、操縦しているハルキにしてもあまり気分がいいものでもない。
『腹に入れば』=『素材に変えてしまえば』みんな一緒、だとは思っているものの、マリカの言う通り、なまじ生物的なフォルムをしているだけに、どうしても『生々しい』と感じてしまうのだ。
さっさと終わらせよう、と考えてペースアップし、2匹目のクリーチャーも全て平らげた。
「ほいよ、次」
そしてすぐに、3匹目がロイドのAWによって目の前に運ばれてくる。
今度の『ご飯』は……
「虫かよ今度は……つか、でかいし見たことないんだけど、何コイツ?」
ぼとっ、とロイドが投げ捨てるように『レックス』の目の前に落としたのは、のっぺりとした体の、うねうねと動く気持ち悪い物体だった。
巨大な芋虫、いや、足があるようには見えないので、ヒルかナメクジだろうか。
「俺も知らない。『ヴォーダトロン』の周辺では見かけないタイプのクリーチャーだな……セリア、こいつ何か知ってる?」
「私も初めて見ますが、恐らく『マッドワーム』かと。水辺や湿地などに主に生息する種で、戦闘能力はほとんどないですが、それでも人間くらいなら簡単に丸呑みにしてしまうそうです。地中や水中を音もなく移動するので、不意を打たれて襲われるケースが多いそうです」
「へー……」
「なお、体液や体組織を精製すると、燃料や工業用オイルなどを作れるので、見た目は醜悪ですが素材としての需要はそこそこあります」
「つまり『オイルトカゲ』の親戚みてーなもんか。……どうりで体液がねばついて気持ち悪い感じに見えるわけだな……つか、コイツ食わなきゃいけねーの?」
コクピット内で『うわぁ』な表情になっているハルキ。露骨に嫌そうな態度で、しかし仕事だから、作業だからと割り切って、『マッドワーム』に恐竜の顎で食らいつく。
思考操縦だからだろうか、顎の部分を動かすたびに『ぐちょ』『ぬちゃ』『ぶじゅ』と、さっき以上に生々しくて気持ち悪い音や、気のせいか感触までもある程度伝わってくるのだ。
「あ゛ー……『オイルトカゲ』もそうだったけど、ネバネバしてる系のクリーチャーって食うのヤなんだよな……牙全部、口の中までべとべとになるから、歯磨きとか大変だし」
「歯磨きて。いや、整備って言えよせめて……おい。技師」
「ああ、なんかついな……ほら、形がコレだから。っと、終わった。よし、ロイド、次」
「あいよ。ホラ次」
「よーし……っておい待て、またコイツかよ」
目の前に放られた、先程と同じ『マッドワーム』を前に、げんなりした様子でため息をつく。
そんな光景を横目で見て、やれやれと思いつつも、ファウーラとクリスは、何やら考えているような様子で、既に動かなくなっている『マッドワーム』の死骸を見ていた。
少し離れたところにある、クリーチャーの死骸の山のところには、まだ数匹『マッドワーム』の死骸が混ざって積まれている。やたらと数が多いのは……群れでこの辺りに生息していた、ということなのだろうか。
2人もそこまではすぐに思い至っていたのだが、問題はその先。
『マッドワーム』が群れを成して生息しているという、その意味である。
「クリス、『マッドワーム』は確か……」
「ああ。農業や林業に適さない、汚染された土壌に好んで住み着く種類のクリーチャーだったはずだ。コレがいるってことは……」
「……少し、注意して色々と見てみる必要がありそうですね。後でファティマ達と話しておきましょう」
くいっ、とメガネを上げる動作と共に、ファウーラは呟くように言った。




