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災世のディザイアスター  作者: 和尚
第1章 ディストピア2068
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第4話 炭鉱での採掘作業



 『ヴォーダトロン』からしばらく車を走らせたところにある、古い炭鉱。

 数十年前……それこそ、資源枯渇が始まる前から、すでにとれる石炭を取りつくしてしまい、半ば開発を放棄されていた状態にあったそこは、地震によって入り口やその周辺が崩れてしまい、立ち入れない状態となっていた。


 しかし、数週間前に起こった別な地震により、崩れて塞がった入り口が、『崩れた部分が崩れた』ことで、入り口として復活していることが確認された。


 それを知ったムーアは、その報告が間違いではないと裏を取るや、なじみの職人筋に声をかけてサルベージのための人手を集めた。


 目的は、石炭ではない。先程も述べたように、既にその炭鉱の石炭は採りつくされているのだ。これについては、過去の資料などから、当然ムーアも把握していた。


 目的としているのは、石炭の採掘のために炭鉱内部に運び込まれていた、様々な機械類である。

 掘り進めるための削岩機はもちろん、内部の環境を完全するための空調設備、採掘した石炭や、邪魔になる瓦礫や岩を運び出すための運搬設備など、そこには豊富な機械資源が眠っていると見込まれていた。それらを回収し、再利用できるものを探すのだ。


 最悪、使えなければ溶かしてから単なる鉄鋼資材として使ってもいいだろうが、炭鉱のような現場で使われる機械類は、使う場所が場所、状況が状況だけに、ちょっとやそっとでは壊れないくらいには頑丈にできている。

 さすがに整備は必要かもしれないが、まだ生きている可能性は高いとムーアは踏んでいた。




 そして、今日につながるわけである。


「よしお前達、では、今言った班に分かれて作業に当たれ!」


 ハルキ達はその炭鉱に到着すると、自ら現場監督を務めるムーアの指示に従い、複数の班に分かれて作業に取り掛かった。


 ムーアが今日のために集めた職人たち。

 その業種、及び現場で担う仕事は、大きく分けて5つある。


 炭鉱内部に潜り、内部の構造や機械類の配置、鉱洞そのものの状態や適性生物の有無などを先んじて調べる『探索班』。

 主に、身軽で危機察知能力や観察力に優れた、ハンターなどを起用している。


 『探索班』からの情報を元に、崩落などが起きないよう、簡単にだが枠組みを作るなどして補強を行い、内部での作業をより安全なものとするための『補強班』。

 こちらは主に、大工仕事などでこういった作業になれている、建築関係の技術持ちなどだ。


 そのままでは外に運び出せない機械類を解体し、機能を損なわないようにパーツごとに分ける『解体班』。同時に彼らは、使えるか使えないか、ある程度の選別もそこで行う。

 言うまでもなく、ジャンク屋であるハルキ達など、機械の扱いに慣れた者が務める。


 解体したパーツや、障害物になっている岩などを外に運び出すための『運搬班』。

 簡易トロッコなどの設備は用意するものの、極論ただの力仕事であるこの役目は、各業者で他の班に所属できない余剰人員が務める。


 そして最後は、作業中の安全を確保する『警備班』。

 『探索班』と同様に、ハンターなどの比較的荒事に慣れた人員が務める。周囲を警戒し、万が一の時……『クリーチャー』の出現や、盗賊の襲撃などの際に、作業員達を守るのが役目だ。


 その中で、今述べた通り、ハルキとアキラは『解体班』の配属となったため、防塵マスクとゴーグルをつけて炭鉱の中に入り、中に残されていた機械類を1つ1つ調べて解体する、という役目を黙々とこなしていく。


「しっかし……見れば見るほど立派な設備っすねえ……状態も予想以上にいいし、こりゃ使える部分だけ選んで売っても相当な額になるんじゃないっすか?」


「かもな。ほぼ密閉されてるに等しい空間で、湿気も少なかったのが幸いしたんだろう。内部は煤だらけで錆もあったから、手入れは必須だがな。いや……用途が用途だから、それはむしろあって当然なのかもだが」


「ボーナスとか出るっすかね?」


「知らん。けどまあ、親方は気前いいから、仕事終わりの飲み会奢ってくれるくらいは期待してもいいんじゃね?」


 壁に沿うように取り付けられた、送風・換気用の中継装置と思しき機械。

 それを端からパイプの連結ごとにボルトを外して解体、小分けの状態にして『運搬班』に渡す。


 部品を1つ1つ、傷はつけないように、あくまでパーツごとに分ける『解体』を進める。

 内部のコード1つ、パイプ一本、ボルト1つに至るまで無駄にしないように。


 通気パイプと思しきものを解体する時は、内部に可燃ガスや有毒ガスが残留していることを考慮し、ガスを溶かして無害化する溶液をスプレーで吹き入れながら、慎重に作業を進める。

 そうでなくともここは元・炭鉱である。ガス爆発や粉塵爆発の危険がある以上、そもそも火気厳禁だ。


 力が必要な作業はハルキが、力の要らない細かい作業はアキラがそれぞれ進め、時には2人協力して、阿吽の呼吸で解体を進めていく。


 かちゃん、かちゃん、と次々に部品がトロッコに積み込まれ、いっぱいになっては外に運び出すという作業を続けているため、ハルキ達の担当になっている運搬班は大忙しだ。


 しかしながら、その作業スピードに感心はしても、作業の忙しさに文句1つ言わないのは、彼らも一端の職人ということなのだろう。仕事をする時は、仕事だけを全力で行う気質が見て取れる。


 こういった優良な業者を選んで連れてくることができる、ムーアの顔の広さと目利きの確かさは、職人達の間でも有名である。

 当然ハルキとアキラも知っており、黙々と作業をこなす周囲の職人たちに対して、声には出さないが感心していたし、頼もしいとも思っていた。


 ただ残念ながら、業者として信頼できる相手であっても、そこに属する技師全員が、そのように優良なそれであるとは限らない。


(……ん?)


 視界の端にちらりとあるものが見えたハルキは、気のせいかどうか判断するために、目でアキラに合図を出し……作業を行うふりをして、それを確認させる。

 アキラはハルキよりも目がよく、暗いところにも強いため、こういう場合に『偵察役』を頼むことも多々あった。


 そのアキラから、『懸念通り』との合図を受け取ると、ハルキははぁ、とため息をついて、


「こんなとこか……よしお前ら、一旦入り口まで運んで持ってくぞ! そっち押せ!」


「あ、ちょっと待ってくれ旦那! それ運ぶの」


 と、ハルキは、今まさに解体したパーツを積んだトロッコを出口まで押していこうとしていた『運搬班』の男達に声をかけて止める。

 当然、何事かのその男達……に加え、周囲の他の班の幾人かの視線も集まる。 


「うん? どうした解体の。まだ何かあったか?」


「あーはい、電接に使うコンバーターももう1つあるから持ってってほしいんだ。多分……そこにいる兄ちゃん達がどっかに置いたと思うから」


 言いながらハルキが指さす先には……いきなり話を振られる形になってぎょっとしている、何人かの若い作業員の姿があった。


 ハルキと同じ『解体班』だが、残念ながら、4~5人で協力して進めているその作業スピードはハルキとアキラの2人には及んでおらず、また、見た目からしてガラが悪く、実際に素行不良の気があることが、今日ここまでの数時間の作業で露見していた者達だ。


 彼らに対して、ハルキ達に向けられていた視線が、そのまま疑念の乗ったそれとなって突き刺さる。当たり前だ。もしハルキの言う通りなら、その男達は、パーツをちょろまかそうとしている、ということになるのだから。

 きちんとした契約の元に働いている以上、それは雇い主の親方に対する、明確な裏切りである。


 突然のことに、一瞬は驚いたように体を硬直させ、何人かはその額に冷汗が見えていたりもしたが……すぐに落ち着きを取り戻し、食って掛かるように反論してくる。


「んだとてめぇ! 言いがかりつけてんじゃねえぞ!」


「そんなことしてねーよ旦那、こいつが嘘言ってるんだよ! 俺達の手際が見事すぎて、自分達が下手なのが目立っちまうから妬んでよ!」


「何か証拠でもあんのかよ、ああん!?」


 まくしたてるように次から次へと。

 中には『何でそんなことになるんだ』と呆れる他ないような、的外れな言いがかりや稚拙な文言が紛れていたりもしたが……とりあえずそのあたりをいちいち気にしては仕方長いので、ハルキは淡々と、用意しておいた反論だけを返す。


 もちろん、彼はその現場をちらっととはいえ『見た』のだが、それだけ主張しても水掛け論になることは想定済みだった。


「証拠っていうか、根拠ならあるけどな。さっき俺がこの機械の状態を調べるために、範囲絞って通電してみたの……見てたよな、皆?」


 周囲にいる職人たちにそう聞くと、口々に『おう、見てた』『見てたぞ』『ああ、ついでに電気も生きてたな』と肯定の文言が帰ってくる。

 と同時に、そのうちの何人かは、ハルキが言いたいことが分かったようで、なるほどとうなずいたり、不良作業員達の方を白い目で見始めたりしている。


「そ、そんなことをやってたからって何なんだよ? 俺は、俺達が部品をちょろまかしたっていう証拠があるのか聞いてんだぞ!?」


「……その部品はな、4つ連結しないと通電しないの。で、トロッコに乗ってる数は3つ……この意味、もう言わなくてもわかるよな?」


 それがわかっていた者、説明されてわかった者、周囲の作業員たちには様々いたようだが、そう聞いて『なるほど』と納得すると同時に……その視線はやはり、不良作業員たちに向く。


 その不良たちはというと、そんなことは知らなかったのだろう。目に見えて顔を青くし……そのうちの1人が、時折、焦ったようにちらちらと視線を泳がせていて……その視線が泳ぐ先には、彼らが持ち込んでいる鞄がある。

 工具入れにしてはやけに大きいそれは、いびつな形に膨らんでいるように見えた。


 その瞬間、近くにいた作業員がそれをひったくるようにして奪い取る。

 『おい返せ!』と喚いて取り返そうとする不良たちを、また別な作業員が抑えて邪魔させないようにし……鞄の中身を、ハルキや『運搬班』のリーダーなどを含めた数人で確認する。


 鞄の中には、今話題に上げた電気部品を含め……パイプや銅線、機械類など、いくつもの部品が入っていた。


 言うまでもなく、それらは全て雇い主である親方・ムーアに提出すべきものである。


 それがこうして、支給されたわけでもない私物の鞄に、隠すように放り込まれていたということは……それが示すことは1つだ。


「……どうすればいいんすかね、この場合」


「おーい警備班! 出番だちょっと来てくれ!」


 返事代わりに、運搬班の男が声を張ると、すぐさま向こうで巡回していた警備班の男達が何人か、こちらに駆け寄ってきた。


「おい、何だ? 何か出たのか?」


「ああ、出たぜ……でかいネズミがな」


「ネズミ? …………ああ、そういうことか」


 警備班の男達は、『クリーチャー』が出たわけでもなさそうなのに呼ばれたことを不思議に思っていたが、鞄の中に雑多に詰め込まれた部品類を見て、状況を察する。


 そして部下たちに素早く指示を出し、色々と諦めてうなだれている不良作業員たちを、そのまま外に連行していった。


「一件落着、でいいんすかね?」


「……ま、暴れられて機械とか壊れたりすることもなかったし、よかったんじゃね? 人手は減っちまったけどな」


「いいさ、あんな信用できねえ連中にいられても困るだけだ。今頃親方にぶん殴られてクビを宣告されてる頃だろうよ」


「その分取り分増えたりとかしないんすかねー? あるいは、バカ発見のボーナスとか」


「お前そればっかだな」





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