表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
災世のディザイアスター  作者: 和尚
第2章 空を舞う、鋼の翼
39/79

第39話 返答、そして出立



 マリカが『ヴォーダトロン』を訪れてから数日が経った。


 数日の間にメリルは、『担当者』であるハルキとアキラ、それにメリルはもちろん、食堂で一緒になった時に話をしたりして、ロイドやセリア、クリスとも知り合いになっていた。


 もっとも、ハルキ達と同じように友達として接するようになったのはロイドくらいで、やはりと言えばいいのか、セリアやクリスは、少なくとも現時点では、事務的に接する程度の間柄にとどまっている。


 もちろんシドやファウーラとも、最初に話したこともあって知っている仲ではあるのだが、シドはやはりセリア達と同様に仕事の上での付き合いにとどまっていて、対応も素っ気ない(彼の性格に由来する部分も大きいのだが)。

 ファウーラは、態度は丁寧で優しいし、仲良くする意図もあるものの、仕事上の関係者である、という線引きもきちんとしていて、必要以上に歩み寄ろうとまではしないようだった。


 もっとも、この2人は、『第7』でも隊長・副隊長という立場を持っているがゆえに、多少なりマリカの方が緊張している、ないし、距離を測りかねている部分もあったかもしれないが。


 時に遠慮なく、時に距離を測りつつ過ごしていたマリカだが……この日彼女は、総司令執務室に呼び出されていた。

 ここ数日の間、特に交流のあった、第7特務部隊の面々と共に。




 隊長であるファウーラ以外には、呼び出される理由は特に告げられなかったが、マリカがここに尋ねて来た理由は皆知っていたため、それに関して予想はついていた。


 執務室には、呼び出した本人である総司令・アルフレッドに加え、一足先に来ていたファウーラとシド、そして、マリカにとっては見覚えのない者が2人、横に控えて待っていた。


 正確にはマリカだけでなく、ハルキとアキラも見覚えはない。

 しかし、他のメンバーは特に戸惑った様子もないことから、知っているようだった。


 1人は、ややくすんだ金髪と、目じりの下がった細い目、フレームレスのメガネが特徴の女性。軍服を着ていて、背がそこそこ高いが、のんびりした雰囲気。部屋に入ってきた面々が視線を向けると、にっこり、というよりは、にへら、とでも効果音のつきそうな笑みを浮かべる。


 もう1人は、長い黒髪に色黒の肌。こちらは軍服ではなく、ビジネススーツのような服装で、黒ぶちのメガネをけけているのが特徴的だ。笑みを浮かべてはいるが、目つきはやや釣り目気味で、強気そうな雰囲気を感じさせる女性で……誰かに似ているような気もした。


「さて、随分と待たせてしまって悪かったねマリカ君。何分、『サラセニア』ほどのフォートと取引を行うとなると、どうしても慎重になってしまう」


「いえ、こちらこそ、急に持ち込んだ案件を迅速に審議していただきまして、恐縮です」


「そうか。では……結論から言おう。今回の『救援要請』についてだが……『ひとまず』了承、とさせていただくことにした」


 その、どうにも歯切れの悪いような言葉に、その場にいた者のほとんどが、内心で首をひねった。

 単に了承するでも、断るでもなく『ひとまず』というのはどういう意図を内包しているのか。


 一同がその真意測りかねているのを察して……いや、もともとそういう反応になると予想していたのだろう。続けて告げる。


「『救援要請』にかかる条件等については、書類に書いていたものを読ませてもらった。『ヴォーダトロン』からは、当面の間必要になる食料や生活必需品などの物資を提供。及びそれらをやり取りするための交易ルートの構築。見返りに『サラセニア』からは、周辺地域に保有している石炭田、および沈殿型油田での採掘権契約及び、その他の工業製品の関税なしでの商取引……だったね?」


「はい、そのように伺っています」


「なるほど……輸送のための距離が少々ネックではあるが、こちらとしても天然資源のソースが新たにできるのは魅力的だ。その意味では、今回のこの話、前向きに考えてもいいと思った」


「では、『ひとまず』というのは?」


「簡単な話だよ。我々はその石炭田や沈殿型油田というものがどの程度の規模で存在しているのか、そのあたりを詳細には知らない。一応それに関する書類は同封されていたが……疑うような言い方になってすまないが、こちらもきちんと自分の目で確認しないわけにはいかないからね」


「それは……はい、ごもっともです」


「加えて、その他さまざまな条件等についても、情報をつき合わせて詰めなければならない。ゆえに『ひとまず』とした。そして、具体的な対応だが……」


 アルフレッド曰く、今後も関係を続けていくかはともかくとして、今回は『ひとまず』交易のための商隊と、同時に、さっき言った事項の調査及び交渉のための使節を派遣するらしい。


 砕けた言い方で言えば『初回お試し』だろうか。


 悪路走破対応の武装トレーラーを何台か用意し、『サラセニア』ご所望の物資……日持ちする食料や生活必需品などを運び、まず1度、交易を行う。物資を現地に卸し、現地で用意する製品や資源を購入して、判断材料という意味も込めて持ち帰る。


 それと一緒に訪問する調査隊と使節団が、今後の対応をどうするかについて現地で協議する。そのための最低限の権限をそれらに持たせ、持ち帰った情報をもとに再度協議し、正式に今後の方針を決定し、契約する、というものだ。


 なお、その際にマリカの身柄と、乗ってきた『三式』なる飛行機も輸送して返すらしい。


「来た時と同じように、飛ばして返してあげられればよかったのだが、残念ながらうちのフォートには、航空機を整備可能な技術者も設備もないのでね。幸いと言っていいのか、技術部による調査の結果、あの機体は翼を折りたためる構造になっているようだったから、そうすればコンパクトになるから輸送もできる。修繕等に関しては、『サラセニア』に帰還後に自前でお願いしよう」


「運んでいただけるだけでもありがたいです。お手間をおかけしてしまい、申し訳ありません」


「そして……もう薄々察しはついているだろうが、今回の商隊等の派遣に際して、第7特務部隊を護衛に着けることにした。よろしく頼むよ、ファウーラ」


「はい、全力を尽くします」


「うむ。そしてもう1つ……さっき言った、調査と交渉、及び取引についてだが、今回はどちらも総司令部主導で行うため、それに関してもこちらで人員を出すことになった。2人共、挨拶を」


 そう言うと、横に控えていた、ハルキ達にとっては初めて会う2人の女性が一歩前に出た。

 先に口を開いたのは、ビジネススーツに身を包んだ、褐色肌の女性。


「ヴォーダトロン総司令部、総務部長補佐、兼ねて、議会事務局副局長を務めている、ファティマ・ハッシュダートだ。今回の使節団において、交渉等、事務方の代表を務めさせていただく」


「私は同じく総司令部、需品部所属管理室長補佐のヴィルジニア・ミハイロフです。階級は少佐。今回の商取引とかを担当させてもらいます。よろしくね~」


 次いで、くすんだ金髪の方の女性も話す。


 話の流れから予想できて吐いたが、彼女達2人……ファティマとヴィルジニアが、今回の商隊についていき、『ひとまず』が取れるだけの魅力ある契約を結べるかどうか、それを判断する役目を担っているようだ。


 そしてもう1つ、ファティマの名前を聞いて、ハルキとアキラが当然のように『あれ?』と疑問に思ったことがあった。

 しかし、表情に出たか、あるいはもともとその反応を予想していたのか、続けてそのファティマ本人が言った。


「付け加えて……名前から察しはつくと思うが、私はアルフレッド総司令の娘で、そこにいるファウーラ隊長の姉だ。これについては知っている者もいるだろうが、よろしく頼む」


(((ああ、やっぱり)))


 ハルキとアキラ、それにマリカも、彼女の予想通りだったことに、心の中で納得した。

 同時に、先程ファティマを目にした時、僅かながら既視感を覚えた理由もわかった。背丈や体つき、髪の長さは割と違うが……ファウーラに似ていたのだ。


「念のため言っておくけれど、決して身内びいきで今回の役目に選んだわけではないから安心してくれ。彼女達の役職と能力がこの仕事にふさわしいと思ってのことだ。議会の承認も得ている」


「は、はい。よろしくお願いします」


 そう言って軽く頭を下げるマリカ。

 その彼女に微笑みを返した後、ファティマとヴィルジニアは、『第7特務部隊』の……初対面になる、ハルキ達の方にも笑みを向けた。


 とっさにハルキ達も会釈程度に返すと、それを待っていたように、続けてアルフレッドが言う。


「いささか急ではあるが、出発は3日後の朝を予定している。それまでに各部署、必要な準備等を終えておいてくれ。ファティマ、今日中に『サラセニア』との交渉事項の草案を作って提出を頼む」


「心得ました、総司令」


「じゃあ私は……マリカちゃん、いいかしら? 今回『サラセニア』に持っていく品物、何がいいか選定とか打ち合わせしたいんだけど、この後時間ある~?」


「はい、大丈夫です。よろしくお願いします、少佐殿!」


「はい、よろしくね~」


 その場はそのまま解散となり、ファティマは交渉草案の作成、マリカはヴィルジニアと打ち合わせのために別室へ。

 ハルキ達『第7特務部隊』は、こちらも今回の任務の詳細な打ち合わせのため、事務室に戻った。



 ☆☆☆



 そして、またたく間に時間は流れ……3日後。


 この日の午前中、『ヴォーダトロン』を出発した商隊兼使節団は、何台もの大型武装トレーラーで車列を作り、一路『サラセニア』へ向かっていた。


「『商隊』の護衛かぁ……『カプージェン』に行った時以来だね」


「あの時は大変だったよなあ。『黒炭猪』や『オーガングリズリー』……ヤバいクリーチャーが次々出てきて、対応はできたけど肝を冷やしたよ……」


「でもその時の経験が元で、俺らもまあ……一歩前進できたんだけどな」


「そっすね。『レックス』も戦闘モードになれたし……そういやあの時以来、変形してなくないっすか? まあ、全部恐竜モードで片付いちゃうからっすけど……」


「えっ、ちょっと待って何それ? 初耳。その恐竜AW、変形するの?」


「ああ、うん、一応な。あーでもほらアキ、マリカの『三式』木から降ろす時に変形したろ一応」


「あー、そういえばそうだったっすね。戦闘にはホント使ってないなー最近」


「シミュレーターでしか動かせてねえもんな……いやまあ、アレの出番が来るようなレベルの相手とか、それも勘弁だけどよ」


 そんな調子で、きちんと護衛として周囲を警戒はしつつも、過度に緊張感を持ったりして精神的に余計に披露するようなこともなく、旅路を進んでいる。

 各自、自分のAWを足にして、商隊を守りながら。会話は通信越しのそれだ。


 先に話題に出た『カプージェン』の時の護衛とほぼ同じやり方なわけだが、今回は移動しなければならない距離が長いためや、総司令部単体の取引であるため、そしてあくまで『ひとまず』『お試し』であるためだろう、前回の『交易』よりもかなり商隊としての規模は小さい。

 その分守るのは楽ではあるが、かといって油断することなどもちろん許されないため、きちんと打ち合わせ等を密に行い、万全の状態で各員任務についている。


 思い返せば、ハルキとアキラの頭から『慢心』や『油断』といったものを、それも無意識に育ち始めていたそれを消し去った事件こそ、その『カプージェン』への道中の襲撃だった。


 機体性能でははるかに『レックス』に劣る『ドルデオン』や『ブラムスター』を見事に操り、1匹たりとも防衛ラインからこちら側に通さず全ての標的を仕留めた、『第7特務部隊』の手管は、今もなお2人の脳裏に焼き付いている。

 そこに至るまで、彼ら彼女らが積み重ねてきたのであろう努力の大きさも、自分達が本格的に、『地力』というものをつけるために努力する立場になったことで、断片だけだが理解できていた。


 そうして、多少なりとも力をつけてからの初めての『護衛任務』になるのが今回のこれなわけだが、気合を入れている一方で、言った通りに『できればそんな事態にはなってほしくない』というのも、間違いなくハルキ達の本音だった。


「でも資源にはなるし、ちょっと来るくらいならよくない? ……あと正直、その戦闘モードっての見てみたいんだけど」


「ホントに正直……っていうか、だんだん遠慮とかなくなってきてるよなお前」


「いや、マリカって割と最初からこんな調子じゃなかったっけか?」


 と、護送用のトレーラーに乗っているマリカが、邪ではないとはいえ、割と欲望に忠実なことを言ってくるので、ハルキはため息をついていた。

 まあ、ロイドの言う通り、割と最初の方から、気を許した相手には壁を作らない少女ではあっただろうが……最近、より遠慮がなくなってきているように感じるのだ。


 もちろん、軍人としてわきまえるべき一線は理解しているし、そこを超えて問題行動になるようなことをやられたことも一度もない。

 ただ、まるで旧知の幼馴染のように、気が付けば距離が近い間柄になっており……そして不思議なことに、それを不快に思わない自分がいる。


(人と仲良くなるのが上手い奴ってのはいるもんだな……メリルやロイドもそうだったけど、マリカのはそれ以上だわ。……俺達の場合は、仕事や親の付き合いを通してそうなったものを除けば……ああ、単純に友達とか作ってる暇なかったから、その辺の感覚に鈍感なのもあるかな)


 ほとんどその日暮らしに近かったジャンク屋時代よりも、そういった部分に目を向ける余裕ができている現状を、なんだか因果なものだ、とハルキは思った。

 仕事自体の危険度・物騒さで言えば、今の方が明らかに上だというのに。


「……って、んなこと言ってたらマジで来たっすよ、ハル」


「うげ、ホントだ。あー……こちらハルキ。1時方向にクリーチャーを探知。反応からして中型、数2。警戒を」


「こちらシド、了解した。セリア、必要に応じて援護を」


「了解しました、副隊長」


 通信の向こうで、車列の前面を守る位置についている2人の応答を聞き、この場は任せてよさそうだ、と判断するハルキとアキラ。

 ファウーラとクリス(こちらは後方を守っている)が何も言ってこないことを見ると、その判断で正解なのだろう。


「なーんだ、『レックス』戦わないの?」


「自分で言うのもアレだけど、過剰戦力だからな。あと、一旦『レックス』出動させると、トレーラーに再搭載するの地味に細かくてめんどい作業になるから、なるべく他に任せたい」


「それでいいよ。むしろ『レックス』は今回の旅、極力エネルギー使わない方針だから、襲撃とかへの対応は俺達に任せて、充電の方頼む」


「予備のエンジンはあるけど、今回の旅、メインの燃料は『レックス』頼みだもんね」


「あはは……完全に電池扱いっすね。まあ、楽できていいっすけど」


「実際、充電器とかそれ系だもんな、今回、俺らの……ってか、『レックス(こいつ)』の仕事」


 今回の旅路、前回と違っている部分がもう1つある。


 それは、『第7特務部隊』のAWの……というか、今回この使節団として走っている車両全てのメインエンジンが、電気と燃料のハイブリッド型のものに交換されているのである。


 今回の旅程において、最大のネックになっていたのが、燃料の問題である。

 

 そもそもこの『災害世紀』において、普通のAWは、かつての時代と同じく揮発油を燃料とするエンジンで動いているのだが、その性能自体は、かつて自動車や重機などに搭載されていた一般的なエンジンなどとは比べ物にならないほどに進歩している。

 限られた燃料で、大きな馬力を必要とするAWを、機体・武装共に十全に動かせるまでに。


 その燃料についても精製技術が進歩し、より高品質なものを作れるようになっていた。

 資源が限られているこの時代、使えるものは何でも使わなければ戦ってはいけない。

 ゆえに、原油から生成されるガソリンなどに加え、植物由来のバイオ燃料や、液化天然ガス由来の燃料、そしてクリーチャーの素材由来の燃料など、流通している燃料の種類は多岐にわたる。


 そして、AWのエンジンは、それら全てを使用することができる。

 全く種類の違う燃料を、同一のエンジンで使えるようになっているのだ。それどころか中には、相性さえよければ、様々な種類の燃料を混合して使っても問題ないものまで開発されている。


 言ってみれば、この時代に、求められる用途に適応した、強靭かつ雑食なエンジンなのだ。


 これらもまた、『空白の1年』の間に発明された技術の1つである。

 ゆえに、どのような過程を経て、この優れた動力機関や燃料の精製法が編み出されたのかは、今もなおわかっていないが……『必要だし、使えるから使っている』という扱いだ。


 しかし、そんな優秀な燃料や動力機関をもってしても、往復数千kmになろうこの旅路を行くための燃料の確保は難しい。いや、確保と言うか携行するのが難しい。


 各機の燃料タンクを満タンにしても、片道の半分にも満たないだろうことは明らかだ。

 であれば、燃料輸送用の車両を用意すれば? それならいけるだろうが、万が一のことを考えると――襲撃を受けて誘爆とか――やはり危ない。できれば避けたい選択肢だった。


 そこで白羽の矢が立ったのが『レックス』である。


 正確には、ほぼ無補給で『レックス』が駆動する……どころか、戦闘を行うのにすら十分なエネルギーを作り出してしまう、異常という言葉すら生ぬるいエネルギー精製能力だ。


 極端な話、太陽光さえあれば、あるいは適当な物質を口から『捕食』して分解・反応させれば、無尽蔵……とまでは言えないが、凄まじい量のエネルギーを作ることができる。そして今現在も、そのエネルギーを電力に変換してトレーラーに供給するというやり方で、車両を動かしている。


 それを今度は、他の機体でもやればいい、というのが、今回の問題に対する解決策だった。


 走っている間にも、『レックス』は太陽光から大量のエネルギーを作り出す。

 それを、休憩などで停車している間に、各機の動力部に充電する。それを使って、また走る。これを繰り返して、実質的に途中無補給で移動していく。


 そうするのに十分な生産能力を『レックス』は持っていたため、出発までの間に、突貫で全車両、全AWのエンジンを付け替え、電力ハイブリッドによる駆動を可能にした。


 これにより、『レックス』を移動式かつ自動で燃料が補給される電気スタンドとして使うことで、使節団は長い旅路を乗り越えられるだけのエネルギーを確保することに成功したのだった。

 現に先程、休憩の間に充電してみたが、問題なく動いて、走り続けている。


「これってつまり、『レックス』さえいれば、発電と充電の繰り返しでどこまででも行けるってことだよね? すごくないやっぱ?」


「いや、どこまでもは無理だろ……電力は補充できても、部品の摩耗とかあるだろうし、武器弾薬だって限りがあるんだからさ。ああ、あと食料とか、パイロットの分の物資もだな」


 と、メリルの発言を指摘して言うロイド。それを聞いて、『ああ、そっかー』と納得するメリルの声が聞こえて来たかと思うと、続いて聞こえて来たのは意外な人の声だった。


「……非実体系の兵装ならある程度そういう運用にも対応できるかもな」


「えっ、クリス?」


 後方で警戒に当たっているはずの仲間の1人、クリスの声が、ふいに通信から聞こえて来た。

 今まで会話に入ってこなかったため、少し驚かされた形になった面々。


 正直なことを言えば、こういう、世間話的なことに……もっと言えば、『仕事』でも『儲け話』でもない事柄に対して興味を示すタイプの男ではない、というのが、第7部隊におけるクリスという男の共通認識である。

 ゆえに、彼の口からそんな意見がとんできたことを以外に思った面々だったのだが、


「実際俺も思ったことはあったんでな。『レックス』の力を使えば、非実体弾による攻撃なら、極端な話、機体の整備だけきちんとしておけば、あとはエネルギーの補充だけで戦える。そうすりゃ、補給の回数や頻度を減らしてその分任務に出たり、クリーチャーを狩って評価点を稼げるからな」


「ああ、そういう……」


 納得したようなロイドの声。

 きちんと利益、というかコストカットにつながるような話になっていた。


「もっとも、そうすると初期投資がアホみたいな金額がかかるってのが確実だから、少なくとも今は、試しだとしても無理だろうけどな。非実体系兵器は、『大連合』の方でもまだ研究段階らしいから、バカみたいに高くて、『ヴォーダトロン(うち)』でもおいそれと買えるようなもんじゃない。その上、実用に耐えうるかどうかは未確定と来たもんだ。……取り入れるにはリスクが大きい」


「そっかー……『レックス』の武装を調べて、『ヴォーダトロン(うち)』で作れるようになればいいのにね。そしたら、私達のAWもビームとか打てるようになってパワーアップしたり!」


「『大連合』の研究機関で無理なら、うちでも難しいだろ……というか仮に作れたとしても、それをまともに扱うには、膨大なエネルギーの安定供給が要るんだろ? それこそ、『レックス』に搭載されてるレベルの発電機みたいなのが」


「じゃそれも一緒に作れば!」


「……まあ、夢語るだけならタダだ。実現できりゃ、デカい儲け話になるのは認めるんだがな……」


「少なくとも、そういったものを研究できるだけの設備や、他の事よりも優先してそれに取り組めるだけの環境や権限が必要になりますね。それこそ、大規模以上のフォートが全力を投じて研究を進めるとかしなければ……いえ、それでもできるかどうか微妙だと思いますが」


 しまいにはセリアも加わってそんな話になり(襲撃への対応は無事終わったようだ)、全体として『やっぱり難しいか』といった空気になっていった。


 それを傍らで、というか通信の向こうで聞いていて、


(今の話し方だと……『レックス』ってやっぱり、『ヴォーダトロン』が作ったわけじゃないみたいね。性能がぶっ飛んでることからも疑わしかったけど、どこかから発掘された、いわゆる『オーパーツ』か何かってこと? ……『サラセニア(うち)』にある、あの変な『箱』みたいな……)


 あくまで、音声のみのやり取りゆえに。

 ましてや、声に出さずにそんなことを思っていたマリカの心の内は、誰にも悟られることはなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ