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災世のディザイアスター  作者: 和尚
第1章 ディストピア2068
25/79

第25話 暗躍と急襲



 ハルキ達が休憩をとった場所からすぐの位置……山道に入って少しのところ。

 まだ見通しがよく、閉塞感や不安感なども特に覚えないくらいの位置ではあるが……そこを通るものを見張る目が、離れた崖の上に存在していた。


 角度がついているために、下側から見てその者を見つけることが難しく、上手く人や獣の目からも隠れられるそこで、数人の男が双眼鏡を覗き込んでいた。


 その目に見えているのは、ハルキ達が護衛し、『ヴォーダトロン』から『カプージェン』への物資を運んでいる商隊の車列である。


 それを見た男達は、見張りを続けるための人員を半分そこに残し、残りの半分がどこかにかけていった。


 彼らは伝えに行ったのだ。こことは別な場所にいる、仲間達の元へ。


 また新たな獲物が来たぞ、略奪という名の仕事の時間だぞ、と。



 ☆☆☆



「……ん?」


「あれっ?」


『? どーかしたか、ハルキ? アキラ?』


 徐々に視界が悪い場所も増えてきた山道で、通信越しにではあるが、彼らが何かに気づいたような気配を悟ったロイドが尋ねた。


 ハルキとアキラは『ちょっと待って』と断ってから、全天モニターになっているコクピット内でそのシステムのいくつかを操作し、今目に飛び込んできた内容について情報を引っ張り出す。

 つい今しがた、聞き捨てならない情報がディスプレイに映し出された気がしていた。


「……何か今、『レックス』が微弱な振動?を感知したようで……ログ確認したんですが、どうも見間違いとかじゃない、か?」


『振動? 地震か何かか?』


「いや、そういう感じじゃないっぽい。規模は小さいし、遠いし……でも多分これだと……どっかで小規模ながけ崩れか何か起こったか? って感じの……っ!」


 その時、ディスプレイに別なものを確認して息をのむハルキ。


 その気配を今度は、ファウーラやシドら、他の第7部隊のメンバーも感じ取った。


『どうかしましたか、ハルキさん? 何か発見したのなら報告をお願いします』


『……はい。たった今ですが、レーダーにクリーチャーの反応が現れました。数は3、反応から、中型から大型の個体と予想されます。移動速度、そこそこ速いようで……徐々にですが、こちらに向かって来ています』


 それを聞いて、オープン回戦での通信で話を聞いていた全員に緊張が走る。


 即座にファウーラとシドはスイッチを切り替え、各位に指示を出し始めた。


シャドーリーダー(ファウーラ)より各位へ。要警戒敵性生物出現の可能性につき、現刻をもって戦闘準備配置に移行します。以降のやりとりはコールサインで』


『『『了解』』』


シャドー2(クリス)シャドー4(セリア)、このエリアにおいて遭遇が想定されるクリーチャーの中に、シャドー6(ハルキ)が報告した内容に合致する存在の情報は?』


『確認したが、条件に合致するクリーチャーの存在にかかる情報を認めず。イレギュラーだ』


『もともと中型以上のクリーチャーが出現しにくい場所を選んで構築されたルートです。ただし、隣接するエリアに範囲を広げれば、『黒炭猪(こくたんいのしし)』の縄張りになっている箇所がいくつかあります。ですが……』


『ですが?』


『事前の調査・偵察部隊からの情報によれば、現在『黒炭猪』は休眠期間に入っているとのことで、本行程中に襲撃がある可能性は、縄張りの範囲外ということもあってほぼ0であると見込まれていました。この意味でも、理由などは不明の不測の事態と言えるかと』


『『黒炭猪』ってたしか、名前そのまま猪のクリーチャーだよね? 雑食で何でも食べるっていう』


『その名の通り『炭素』を含むもの……有機物なら何でも、だな。ついでに言うならかなり凶暴で好戦的、AWだろうが数が多かろうが躊躇なく襲い掛かってくるぞ。さらに猪らしく鼻が利いて、遠方からでも獲物を見つければ襲ってくる。そして……残念ながらこっちは風上だ』


 セリアに続き、メリルとクリスの話も聞いて、戦闘は避けられないと全員が悟る。


 輸送車両の荷台に山と積んでいる食料メインの物資か、あるいはそれを運び、守っている人間か……いずれにしても、ここには連中の『獲物』足りうるものが見事に揃っている。


シャドー1(シド)よりシャドーリーダーへ。そのクリーチャーが『黒炭猪』であると仮定した上での話になるが、『黒炭猪』は小回りこそ利かないが、移動速度が速く馬力もある。接近されると輸送車両を守るのは難しくなる。先程と同様、戦闘要員を先行させて近づかれる前に叩くべきだ。先行部隊には自分が志願する』


 と、シド。

 それを聞いてファウーラは素早く頭を回し、


『シャドー1の意見を採用します。シャドー1、シャドー3、シャドー4は先行し、障害となるクリーチャーを確認の後、これを排除。対象が『黒炭猪』ではなかった場合、及び対処が困難であると判断できる場合は速やかに連絡を。シャドー2は商隊代表のムーア氏に状況の説明を。残る私、シャドー5(メリル)、シャドー6及びシャドー7(アキラ)は周辺の警戒を継続。あまり考えたくない可能性ではありますが……不測の事態は1つだけとは限りませんから。以上、動け!』


『『『了解!』』』



 ☆☆☆



 その数分後、悪路を踏破しながら先行した3人……シド、ロイド、セリアは、数百m進んだ先で、予想通りのものと出くわした。


 それは、見たままずばり、と言ってもいいであろう、『猪』の姿をした怪物だった。


 くすんだ黒、ないし灰色の体毛に全身を覆われた、大きさ4~5mにもなろうかという巨体ながら、蹄で荒々しく地面を蹴り、土埃を立てて、自動車ほどもあろうかという速さで走ってくる。

 その体毛は炭素繊維に近い構造になっており、いかにも硬そうに見える見た目よりもさらに頑丈で、肉と脂肪の分厚さも相まって、生半可な銃弾なら通さない強靭な鎧である。


「おいでなすったか……こちらシャドー3! 予想通り、『黒炭猪』だ。数は、今見える範囲で2! もう1匹は遅れてついてきてるっぽいな」


「1本道だ、そう時間かからずに遭遇するだろ……シャドー1、これより突出し交戦に入る。必要に応じて援護は任せるぞ」


「シャドー4了解、ご武運を」


 短く言葉を交わした後、シドの乗る『ブラムスター』は加速して前に出る。同時に変形機構を起動させ、作業用の車両から戦闘用の人型ロボットにその形態を変える。腰部分に装備していたブレードを抜き放ち、『黒炭猪』を相手に構えて持った。


 その眼前に迫る『黒炭猪』は、見え始めた時点から既に走り出し、既に加速して勢いをつけている。減速する気配もなく、そのまま激突してくるつもりなのがありありと見て取れた。


 その強靭な肉体から繰り出される体当たりを、シドは刃を構え、『ブラムスター』に全力で地面を踏ん張らせ、真正面から受け止める……わけがない。


「所詮は獣……獲物を前に後先考えず加速し、そして急には止まれない」


 ギリギリまで引き付けたところで、急に方向転換して飛びのくことでそれをかわし……突っ込んできた『黒炭猪』は、2匹とも派手に、背後に会った岩壁に激突して自爆した。

 そのダメージも、少し時間が経てば回復するだろうが、それを待っているはずもない。


 シドは素早く『ブラムスター』を操作し、よろけている2匹のうちの1匹に駆け寄ると、腹を蹴り上げて仰向けに転倒させる。そして首元に深々とブレードを突き立て、一気に切り裂いた。


 そしてもう一匹の『黒炭猪』は、ロイドとセリアが急所である頭部に至近距離で弾丸を連射することによって穴だらけにし、こちらも確実に仕留めた。

 

 危険度で言えば『ナイトローラー』と同等に位置する『黒炭猪』。しかし、正しい対処法を知っていて、戦う場所を選ぶことができれば、決して過度に恐れる必要はない相手だと、それなりに長い経験の中でシド達は知っていた。


 向こうからまた蹄の音が聞こえ始める。遅れて迫っていた形になる、3匹目の個体が見えてきていた。


 誰が何を言うまでもなく、シドら3人は残りの敵を相手にするべく、それぞれの武器を構えてその1匹に向き直り、動き出そうとした……その時。


 繋いだままにしていた通信の向こうから、それは聞こえて来た。



『こちらシャドー6! レーダーに反応アリ、新手だ! マジで1回じゃ終わらなかった!』



「「「っ!?」」」


『車列後方、数は3、かなりの速さ……反応からして、恐らく同じく『黒炭猪』と見ら……いや、まだ何かいる? その更に後方から、もっと何かデカいのが1匹……まっすぐこっちに向かって走ってくる! シャドーリーダー、指示は!? どうすりゃいい!?』


「後方から同時に襲撃だと!? この猪共に、挟撃なんて小細工を考える知能が……あるいは単なる偶然か? だとしても、一度にこれだけの……」


「しかも何か、もっとデカいのが1匹いるとか言ってなかったか? セリア、このへんに『黒炭猪』よりヤバいクリーチャーって何がいる?」


「そんな情報は……いえ、ここ最近確認されていない範囲ですと、過去にさかのぼって範囲を広げれば……すると該当するクリーチャーは……」


 しかし、セリアがその答えに思い至るよりも早く、さらなる凶報が通信の向こうから聞こえてくる。

 当の本人……アキラは、知識不足ゆえに、まだその内容を理解するに至っていないのが皮肉ではあるが。


『何アレ!? あいつ、こっちに来てるってより、『黒炭猪』を追いかけてるような……ひょっとして……猪達、別に私らを狙ってるんじゃなくて、あいつから逃げてるんじゃないっすか? つーか、デカっ!? 見た感じ6m以上あるっすよ……しかも何? 熊っすかアレ!?』


『どうでもいい! 熊だろうが猪だろうが、来るんなら親方たち守らないといけねえだろ……おい隊長! 戦闘の許可出るか!? 出るよな!?』


『ちょっと待てそこの2人今何つった!? まだ俺んとこから見えねえが……『黒炭猪』よりデカい熊のクリーチャーだと!? どうでもよくねえぞ全然そこんとこ!』


『熊のクリーチャーって……え、ちょ、まさか『オーガングリズリー』じゃないよね!?』


 ハルキとアキラに続いて、クリスとメリルが血相を変えた様子の声で聞き返していた。

 当然ながら、先行しているシド達や、指示を出すために考えをまとめつつあったファウーラも、今の報告の中にあった、絶対に聞き捨てならない情報を聞いて顔色を青くしている。


 それも当然のことだ。今メリルが名前を上げた『オーガングリズリー』は、『大型』に分類されるクリーチャーであり、その危険度は『黒炭猪』や『ナイトローラー』といった種族と比較して……別格、と言って差し支えないレベルである。


 かつて、地球上の豊かな自然の中を悠々と闊歩していた熊という生き物は、肉食獣の中でも屈指の強靭な肉体を、そしてそこから発揮される戦闘能力を持っていた。


 陸上最大の肉食獣の1つにも数えられ、その腕力は、ある実験の結果によれば、ライオンや虎の首の骨を一撃でへし折って仕留めることすらできたらしい。また、分厚い毛皮は下手な刃物を通さず散弾銃の弾丸すら受け止める。相応の口径のものでなければ、致命傷など程遠い傷しか作れない。

 さらに、走れば馬と同じくらい早く走ることもでき、嗅覚は犬の数倍とも言われ、木に登ったり、水に入って獲物を取ることもできるなど、多芸でもあった。


 その熊に姿形が似ている存在である『オーガングリズリー』もまた、同様の特徴を持っている。大方のクリーチャーの例にもれず、生物というにはあまりに凶悪なレベルに達していた。


 そのパワーは特殊合金製のAWの装甲を紙同然に粉砕し、走れば乗用車に追いつき、追い越す速度を発揮する。砲弾すら受け止め、熱も衝撃も殺してしまう毛皮と肉の鎧を持ち、『黒炭猪』と同様に優れた嗅覚で遠方の獲物も即座に見つける。

 そして、狂暴で雑食。目につくもの全て―――人間や普通の野生動物はもちろん、それこそ他のクリーチャーですらも、同種のもの以外は食料とみなして襲い掛かる。


 ちょうど今、『黒炭猪』を追い回している理由もまた、『休眠』していたところを叩き起こされて虫の居所が悪く、それ以上に空腹であるという、極めてシンプルなものだった。


 二本足で立ち上がれば、『ブラムスター』をも見下ろすサイズとなるであろう『オーガングリズリー』は、ちょうど今、哀れにも逃げ損ねた黒炭猪に、その剛腕を振り下ろしていた。


 破砕音と水音が混じり合った音が響く。衝撃は『黒炭猪』の体を貫いて、地面にまで届いていたらしい。振動がハルキ達のいるところまで伝わってきた。

 弾丸もろくに通さない体を持つ『黒炭猪』は、その一撃で大きくひしゃげて地面に転がった。背骨も肋骨もどう見ても砕けており、内臓も潰れているのは明らかだ。


 完全に、誰がどう見ても即死。その体に、『オーガングリズリー』の牙が突き立てられ、加えたまま持ちあげられる段階になっても、だらんとして動かないことからもそれは明らかだった。


 その間に残りの2匹は逃げたようだが、そのまま立ち去るかと思われた次の瞬間……熊は、固唾をのんでその光景を見ていた、商隊の人間たち、そしてその護衛であるハルキ達の方に……体ごと振り返り、そのぎょろりとした大きな目を向けた。


『……ちっ、食いでのある獲物仕留めたんだから、それで満足しとけっつーの……』


『クリス知ってる? 熊ってさ、一回獲物にするって決めたら、例え満腹だろうと狩りをやめないんだって。むしろ一度に一杯獲って、そんで全部一度には食べずに、縄張りに埋めて隠しといて、保存食にしてちょっとずつ食べてくんだってさ』


『聞きたかなかったわ、このタイミングでんな情報。くっそ、割に合わねえ仕事になりそうだ……コレ危険手当出るだろうな……つか、『ドルデオン』であれの相手は厳しいぞ』


 第4世代AW『ドルデオン』も、世間一般から見れば相当な高性能機だと言っていい。

 その更に上、ファウーラが乗っている第5世代機『ブラムスター』ならなおさらだ。


 しかし、乗っていてその性能を熟知しているファウーラからしても、自分達の機体のスペックでは、ましてこの数では、相手をするのは難しいということはわかり切っていた。

 相手は大型のクリーチャーの中でも屈指の危険度で知られる暴獣。一発まともに食らえば、接近戦用に重装甲になっているブラムスターの防御力でも破壊されかねない。


 さらには、ヒットアンドアウェイで慎重に攻めていく、というのも難しい。ここは道幅が狭く、片側を崖によって塞がれている山道だ。動きがかなり制限されるうえ、悪路でさらに動きが悪くなる。

 そしてその状態で、商隊の荷物を守りながら戦わなければならないのだ。雑食である『オーガングリズリー』の習性からすれば、その嗅覚で食料の存在を察知し、ほぼ間違いなく『獲物』としてロックオンしているであろうそれを。


 本来ならばもっと多くの手勢を集め、相応の武器を持って、なるべく大きく素早く動けるように開けた場所で相手をするべき敵。それができない以上、自分達の勝率は絶望的に低い。


 この状況を打開できるとすれば……こちらの切り札を切る以外にない。

 そこに考えを至らせたファウーラは、通信を通して指示を出した。


『シャドーリーダーよりシャドー6、シャドー7へ! 『レックス』を移動用トレーラーから分離し、戦闘態勢へ移行、『オーガングリズリー』へ応戦せよ! シャドー2、シャドー5はその援護を! 周辺の警戒は私がやります!』


『了解! トレーラー分離……二足歩行で移動開始する! 周囲各機、揺れるけど失礼!』


『急ぐっすよハル! 奴さん、早速こっち向かって来たっす!』


『わーってるっつの!』

 

 自分には向かおうとする者の気配でも察したか、それともただ単に獲物を早く口にしたいからか、『オーガングリズリー』はくわえていた『黒炭猪』を放り捨て、再び四つ足になって、商隊の車列目掛けて走り寄ってくる。凶悪に鋭い爪と牙を見せ、唸り声を上げて威嚇しながら。


 しかし同時に、ガチン、ガチン、と重々しい音と共に、その機体を荷台に固定していた金具が外れていき……同時に、電力を供給していたケーブルも脱落する。

 留めるものがなくなった状態で……ゆっくりと、二台に寝そべる形になっていた、赤い鋼の恐竜が起き上がり、振り向いてその目で巨熊を捕らえ……機械らしからぬ咆哮を上げる。


「うわ、た、立った……」


「あれが、噂の……恐竜型……!」


「ヴォーダトロンの切り札、最新鋭のAWって奴か……!」


 商隊のメンバーで、今に至るまで『レックス』が動く様を見たことがない面々が、口々に、驚愕や感嘆の入り混じった言葉を漏らす中、悠々と荷台を降りた『レックス』は、商隊の車列の横を駆け抜け、こちらに向かってくる『オーガングリズリー』に向き直る。正面から、睨みつける。


「動作確認……問題なし、絶好調だ。さァ……食ってやろうか、熊ヤロー」


 そして、その鋼鉄の両足で地面をしっかりと踏みしめ、真正面から向かっていく。


 咆哮を上げて生意気にも向かってくる、自身と同じくらいに大きなその鋼のトカゲを前に、『オーガングリズリー』もまた牙をむき出しにして、僅かも怯まず、さらに勢いづく。


 数秒と待たず、鋼の恐竜と灰色の巨熊は激突し、重車両同士が正面衝突したかのような轟音と衝撃があたりにまき散らされた。





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