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災世のディザイアスター  作者: 和尚
第1章 ディストピア2068
24/79

第24話 再会と団らんと懸念と



 『災害世紀』において、人々が身を寄せ合って構築し暮らしている居住区『フォート』は、大小様々あり、各地に点在している。


 かつての時代、人類が形作っていた国や都市の数を思えば、その数は少ないと言わざるを得ず、都市と都市の間も、舗装もろくにされてない道で大きく隔てられているが、それでも、生活必需品を含む物資のやり取りは、多くのフォートにとって、そこに暮らす人々にとっての生命線である。


 中小のフォートの中には、自給自足すらままならない状態で、『ヴォーダトロン』のような大規模なフォートから『交易』によって届けられる食料などを、文字通り命綱にしている所も存在する。

 そして大規模なフォートからすれば、決して自分達も大きく余裕があるというわけではないにせよ、労働力、ないし生産拠点としての力を提供してくれる中小フォートの存在は、自分達の力を、生活の質を維持する、ないし向上させていくにあたって重要な要素であり、持ちつ持たれつの間柄がそこに出来上がっている。


 今回、ハルキ達が護衛として同行することになる商隊も、そういった交易ルートの1つである。


 総司令部が『ヴォーダトロン』内部のいくつかの業者に委託して商品――取引先のフォートに提供する物資を用意する。


 今回のように、『ヴォーダトロン』の側から相手のフォートへ出向くこともあれば、相手側のフォートが商隊を組んで『ヴォーダトロン』まで出向くこともある。どちらになるかは、どんな品物をやりとりするのか、相手のフォートの輸送・護衛能力がどの程度かなどによって異なる。


 なお、今回の商隊が運搬しているのは、主に食料品である。相手方のフォートは、前述したような、典型的な『自給自足できていない』タイプのフォートだ。そこで生産される、AWのパーツを含めた工業製品と引き換えにする形で――間にノール札での取引を挟むが――交易は成立する。


 そのための大事な物資を守るために、今回、ハルキ達第7特務部隊は動員されていた。


 列になって荒野を走る商隊の輸送車両。それを外側から囲って守るような形で配置された軍のAWに、ハルキ達は乗っている。


 もちろんハルキとアキラが乗っているのは『レックス』だが、今回彼らは、それまでのように足を踏み鳴らして移動しているわけではない。移動用に作成された特殊な車両に乗っていた。


 工事用の重機を運ぶためのトレーラー車のような外見のその荷台に、手足と尾を折り畳んで伏せた状態の『レックス』が乗っている。車体と『レックス』はワイヤレスで接続されており、ハルキ達は『レックス』のコクピットに乗ったまま、トレーラーを操縦できるようになっている。


 そしてトレーラーが動くための動力は、ガソリンなどの揮発油式エンジンではなく、電力式のエンジンを組み込んでおり……そこにエネルギーを供給しているのは、他ならぬ『レックス』である。


 コクピット内での知識・情報のサルベージと、それをもとにした調査・研究を進める中で明らかになったことではあるが、『陽電子反応炉』をはじめ、『レックス』には様々なエネルギー生産設備が搭載されている。

 自身を稼働させ、兵装を運用する分を確保してなお余りあるエネルギーを自力で生産できる、完全に独立して行動可能な機体であることや、それを任意の形に変換することすら可能であることが現在既に明らかになっていた。


 それを利用し、ケーブル接続でトレーラーのエンジンを『レックス』に接続し、電力に変換したエネルギーを供給することで、自力での移動手段としたのである。

 

 もちろん、『レックス』単体でも移動は可能であるが、いかんせん『二足歩行』という形をとる上に、大きさ相応に重量がある機体のため、揺れるし地面に足跡もつく。

 特に今回のような、物資を輸送するトラックの護衛のために並走するような場面では、積載している物資が破損するような事態は避けなければならないため、『揺れない移動方法を』ということで以前から考えられてきた、文字通り『フットワークの軽い』移動法が形になったものだった。


 こうして、見た目はともかく、護衛及び長距離の遠征任務にも適した足を手に入れたハルキ達は、『レックス』の広域をカバーできるレーダー機能を使って周囲を警戒しつつ、商隊のトラックを守って並走し続けていた。


「しかし、何気にこういう任務って初めてっすよね。まあ、商隊とかの護衛って確かに、軍がやってるイメージはあるから、別に仕事自体に違和感とかはないっすけど……うちらの部隊はあんましこういう仕事って回ってこない感じなんすか?」


『あーまあ、『特務部隊』って基本、便利屋みたいなとこあるからな。必要なところに駆り出されるけど、逆に言えば普通の部隊が対応するようなところにはあんまり行かなかったりするし』


『通常、こういった特別な技能を必要としない任務は、警備隊が担当する分野のそれになります。ですので確かに、何か特別な事情がない限りは、我々に話が来ることはありません』


 と、ロイドとセリアの通信ごしの話を聞いて、ハルキは気になったようで、


「ってことは……今回はそういう『何か特別』なことが起こって俺達にお鉢が回ってきたのか?」


『そのようです。今回向かうフォート『カプージェン』は、ヴォーダトロンとは工業製品のやり取りを主に行っているフォートなのですが、前回そことの間で行き来するはずだった商隊が、移動途中でクリーチャーの襲撃を受け、積み荷を喪失してしまったとのことで』


『普通の警備部隊じゃ危険なんじゃないかっていうのと、急遽組まれた商隊だから警備隊のシフト調整がきつかったっぽくて、私達に回ってきたんだってさ』


 メリルも加わっての説明も受け、ハルキ達は大方の状況を理解した。


『『カプージェン』は中小フォートの中ではそこそこの規模で、『ヴォーダトロン』との取引額も大きいからな。1回や2回取引が失敗したくらいで影響はないとはいえ、歯車1つの異常が全体の不調につながることもある。『カプージェン』自体が自給自足が成立してない都市だってこともあるし、これ以上問題が大きくなる前にきちんと片を付けたくて急いだんだろう』


『何でもいい……それが仕事なら、俺達軍人はやるべきことをやるだけだ。無駄口叩いてないできちんと周囲警戒しとけ、新入り』


「してるよちゃんと、副隊長。今のところ何も問題は…………なかったんだけども」


『え、何か出た?』


「出たっすね。この反応は……クリーチャー。11時方向。小型から中型程度。数4。動きは遅い……けど、なんか時々速い? これ、ジャンプで移動でもしてるんすかね?」


『……だそうだ隊長。この近辺に出るクリーチャーで今言った条件に該当するのは、恐らく『シルトフロッグ』あたりだと思うが』


『作戦具申いたします。私とロイド曹長で先行して偵察し、可能そうであればそのまま討伐して進路の安全を確保するのがよろしいかと。『シルトフロッグ』4体であれば十分対処可能です』


『ふむ……セリア、その案を採用します。ロイド、頼めますか?』


『了解っす! じゃあメリル、クリス、ちょっとの間、俺が見てた個所も警戒よろしく』


『はいはーい』


『了解、さっさと行って片づけてこい』



 ☆☆☆



 通信による報告の結果、予想通りにクリーチャーの正体は『シルトフロッグ』だった。


 そして言葉通りにこれを迅速に処理した後、速やかに商隊はその地点を、安全に通過することに成功。


 なおその際、『シルトフロッグ』の死体はレックスが『捕食』して回収してある。


 それからしばらく進んだところで、この先は山道になるということで、昼食もかねて、一時休憩となっていた。

 周囲の警戒を続けつつ、ハルキ達も交代で昼食をとっていたが、その際、ハルキ達の傍に近づいてくる人物が2人いた。


 それに気づいてハルキ達は視線を向け……同時に、その2人が、ハルキ達もよく知る人物であることに気づく。


「おー、親方、お疲れ様です。ティマもお疲れ」


「おう、お疲れさん! 意外と様になってるじゃねーかよ、その軍服」


「確かに。馬子にも衣装、って奴ですかね」


「あはは……あんまし否定できないっすね」


 ハルキ達が『親方』と呼んで、それこそ親同然にも信頼して慕っている、ヴォーダトロンの土木関係の大元締め、ムーア。

 そして、ジャンク屋だった2人のなじみの買い取り業者であり、引っ越す際にも色々と世話になった姉貴分、ティマ。


 軍に身を寄せてからはすっかりご無沙汰だった2人と再会した2人は、自然にそのまま昼食の席を共にすることにして、それぞれ用意していた弁当を広げ、腰を下ろしていた。


「で、どうなんだ最近の調子は? 軍に入ったからには、まさか軍服着て机に座ってるだけが仕事ってわけじゃねえんだろ? 最近よくあの恐竜みてえなAWのニュースも聞くようになってきたし……アレ確かお前らじゃなきゃ動かせねえはずだったしな」


「ええ、まあなんとかやってますよ。戦闘も何度か駆り出されてます。まあ、幸いと言っていいのか、機体自体の性能がバカ強いんで、そこらのクリーチャー程度は問題ないです」


「逆に言えば、もっぱら『レックス』の性能に頼りっぱなしというか、おんぶにだっこみたいな感じになってる感じも否めないっすけどねー……」


「そりゃ仕方ないんじゃないの? 元々お前ら、技術屋であって軍人じゃないんだから。AWの操縦だって、作業用車両としての使い方メインで、戦闘での立ち回りなんて訓練最小限だろうし」


「それ言っちゃ元も子もないっすけどね……私ら、そういう身の上なの承知の上でなお、今のとこに引っ張られちゃったわけですし。まあ、こうなった以上は、戦闘そういうのも仕事のうちになるわけだから、訓練とか勉強もしてないわけじゃないんすけど……」


「普通のAWと勝手が違いすぎて、軍に置いてある教本の内容がほとんど役に立たないんすよ」


「まあ、あんな形状のAWなんて、世界中どこ探したってありゃしねえだろうしなあ……そんな状況で訓練しろって方が無理な話か。まあでも、元気に無事にやれてるってんなら何よりだよ」


 話を聞きながらも手と口を動かし続け、あっという間に自分の弁当を食べ終えていたムーアは、がしがし、と少し乱暴に、ハルキとアキラの頭をなでる。


 だが、2人ともそれを嫌がる様子はなく、むしろ嬉しそうにそれを受け入れていた。

 ムーアが兄妹を、そして兄妹がムーアを、単なる仕事仲間という間柄以上のものとして思っているのがよくうかがえる光景である。ともすれば、その様子を横で『やれやれ』といった調子で眺めて苦笑している、ティマも含めてそうかもしれない。


「今ティマが言ってたが、元々お前ら、畑違いの分野に引っ張り出されて戦ってんだ。それも、お前ら自身じゃどうしようもない部分を理由にしてな。そんなことになっちまったのを、誰が悪いなんて言い方はできねえが……無茶だけはするなよ。昔からそうだったが、あんまり考えすぎたり、気負い過ぎたりするところあるんだからよ」


「だってよ、アキ」


「言われてるっすよ、ハル」


「おめえら2人共だボケ」


 今度は、こつん、と軽く叩くように拳が落ちてくる。もちろん、2人分一緒に。

 『あ痛っ』と、あまり痛くなさそうにしつつ肩をすくめる2人。その様子を横から、ティマはやはり、苦笑しつつも、微笑ましいものを見守るような目になっていた。




「ところで、親方はともかく、ティマがこういう取引に顔出すのって珍しい気がすんだけど。お前もっぱら、フォート内部の市場での取引がメインじゃなかったっけ? 交易とかもやってたの?」


 ひとしきり雑談に花を咲かせたところで、ふと気になっていたことをハルキはティマに尋ねた。

 その横では、アキラも同様なのか、そうそう、と頷いている。


 2人の知っている限りでは、ティマは買い取りその他の取引商として、職種やら分野を超えて、かなり手広く販路や人脈を持っているものの、それはあくまでフォートの内部に限った話。


 様々に手間やコストのかかる、フォートをまたぐような取引についてまでは手を出していなかったはずなのだ。『そんなことまでしなくても商売はいくらでもできる』と言って、けらけらと笑っていた記憶もある。

 実際、わざわざ『ヴォーダトロン』の外に目を向けなくとも、必要であれば大抵のものは仕入れられるし売りさばけるだけのルートを彼女は持っているし、販路や商売の規模をコンパクトにまとめているがゆえのスピーディーな対応も、彼女の店の売りの1つである。


 にもかかわらず彼女がここにいるのは、まさにその『何でも素早く揃う』という点が理由だった。


「まあ、当初はそんな予定なかったからな」


「ああ……俺が無理言って頼んだんだ」


「? 親方が?」


 きょとんとした視線を向けるアキラ。一方で、ハルキの方は何やら考え込み始めた。その様子を見るに、今のムーアの言葉で、どうしてティマがここに来ることになったのか、という理由の部分に、いくらか目星がついたようであった。


 目ざとくそれを横から察しつつ、答え合わせのつもりでティマは言う。


「この商隊……よりも前に、『カプージェン』に行くはずだった商隊がダメになっちまったのは知ってんだろ? その時、ほとんどの物資が輸送用の車両ごとロストしちまったせいで、もう1度同じ荷物を調達しなきゃいけなくなったんだが、流石に短期間でまたかき集めるのは難しい、っていう業者も多くてな。とてもすぐには無理だっつって、いくつかリタイアしちまったんだと」


「まあ、無理もねえ。そいつらにとってもかなり大口の取引だったうえに、車両まで失っちまったってのは相当な痛手だしな。けど、相手がいる取引をする以上、物資は用意しなきゃいけねえ。それで俺からこいつんとこに話を持って行ったってわけだ。この短期間で必要なだけのモノを用意できる業者ってことで、普段こういうことはしてねえのは承知で、無理言ってな」


「ま、他ならぬ親方の頼みだし、たまには壁の向こうまで足を伸ばしての大商いってのもいいかと思って引き受けたわけさ。車両は親方が手配してくれるっていうしな」


「それでここに、か。そのおかげでこうして会えたわけだし、親方に地味に感謝っすかね」


「地味にって何だ、地味にって」


 その場は笑いに包まれるも、ふいにティマとムーアは真剣な顔になって、


「まあそれはいいとしてだ。お前らが護衛についてくれるのは正直心強いが、それでも油断はしないでおけよ? 前に出た商隊も、全くその辺を疎かにしてたわけじゃない。きちんと相応の護衛がついていて、それでも守り切れなかったって話だからな。しかも、予想していたクリーチャーの縄張りとは違う場所で襲われた、っていう話もある」


「縄張りが変わってる可能性もあるってことっすか? それは確かに面倒かも……まあ、来た段階で対処すればどうにかできるとは思うっすけど……」


「まあ、もともとクリーチャーなんざ、どこに出てくるかわからないんもんだし、いきなり縄張りじゃないとこ歩いててもそんな不思議じゃないんすけどね。つい最近も、似たようなことあったし……しかし、ここから先は山道で見通しも、足場も悪くなってくから、その辺余計に注意が必要、ってことになるだろうな……やれやれ」


 ため息をつきつつも、昼からの仕事に向けて力をつけるべく、ハルキは弁当に持ってきたサンドイッチの残りを、水筒の水で一気に流し込む。隣でリスのように口いっぱいに同じものをほおばっていたアキラも、少し遅れて同じようにして、ティマを呆れさせていた。

 


 ☆☆☆



 丁度その頃、シフトで見張りを行っている、第7部隊隊長・ファウーラは……周囲を見回して警戒しつつも、あることを考えていた。


 それは奇しくも、今ちょうど別な場所で、休憩中のハルキ達が話していたのと同じこと。

 しかし、それについて脳内で巡らせている内容は、全く別な方向でのもの。


(……ここ最近、立て続けに同じような事態が起きている。予想された『休眠』の時期や縄張りに合致しないクリーチャーに、商隊や軍の部隊が出くわして襲われている……それもここ1~2ヶ月だけで、未遂も合わせれば既に10件以上。単なる不幸な偶然で片づけていいものか……)


 この任務に出発する前、あくまで可能性の話として、総司令からもたらされていた話の内容を、口に出さず、脳内で反芻する。


(こんな世の中だし、相手は未だに行動原理が解明されていない部分も多いクリーチャー。その可能性ももちろんある。だがもし、そうではなく、これが何者かの意図したところによる行動の結果であるならば……そんなこと、あまり考えたくもないけれど……)


 ファウーラはコクピット内で、シドから交代の時間を告げる通信が入るまで、神妙な表情のまま、答えの出ない思考を続けていた。

 これから進むことになる、見通しの悪い山道……その入り口を、少し不安げな目で見ながら。





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