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災世のディザイアスター  作者: 和尚
第1章 ディストピア2068
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第17話 初任務とコールサイン



 ハルキとアキラが『特務士官』となって数日が経過したある日のこと。


 『特務部隊』所属ながら、基本的に整備班の手伝いをして過ごしていた2人はこの日、初めて正真正銘『特務部隊』としての仕事につくこととなっていた。


 正直なところ、整備班での仕事は、元の畑での仕事にほぼ近く、自分達の本来のスキルを生かせるということで、2人とも楽しんで務めていたので、このままずっとここでの仕事でもいいかな、と思った矢先のことであった。

 もっとも、そんなことにはならないだろう、と、2人ともちゃんとわかってはいたのだが。


 自分達は、『レックス』の操縦士として雇われたのであり、それを生かす任務が回ってこないはずがないのだから。


 それはそれできちんと覚悟はしていた2人は、今日はそちらに行けないといううことで、この数日間でだいぶ仲良くなった整備班の面々に惜しまれつつも、郊外の保管庫に置いていた『レックス』に乗り込み、いざ今日の仕事である『調査任務』の現場へ向かっていた。




 話は、その日の朝、2人が『第7特務部隊』の事務室に顔を出した時に遡る。


 『今回の任務は、先にクリーチャーとの交戦があった地点の事後調査……その、調査隊の護衛です』


 朝、事務室でファウーラから受けた指示は、いつもの『整備班の手伝い』ではなく、そんな言葉だった。

 同時に、『レックス』を郊外の倉庫に取りに行き、それに乗っていく旨の通知もあった。


 とうとう『特務部隊』としての仕事が来たかと、思わず身構えた2人だが、その直後……ファウーラが提示した目的地を聞いて、また別な意味でも驚かされることになった。


 その調査の目的地と言うのが、彼らがレックスを手に入れたその翌日、すなわちファウーラやアルフレッドと初めて出会った日に、『ナイトローラー』と戦った場所だったのだ。


 その足にファウーラから受けた説明によれば、あの区域は本来、『ナイトローラー』のような大型で危険度の高いクリーチャーが現れるようなエリアではないらしい。交易路にすぐ近く、『ヴォーダトロン』からも遠いとは言えない位置にあるあそこで『ナイトローラー』が目撃されたことは、単に『そういうこともあるか』で片づけていい問題ではない。


 ゆえに、今回、何か手がかりがないかを調査することになり、そういったクリーチャーの生態やそのた自然環境の分析に秀でている『調査班』が結成された。


 そして『特務部隊』は、その護衛と、必要に応じて調査自体の手伝いもするために、それに同行することとなったのである。ハルキ達と『レックス』も含めて。


 たださすがに、『第7特務部隊』全員が出ているわけではなく、その中でも一部のメンバーがここに来ていた。

 今言った通り、ハルキとアキラ、それにファウーラも含まれるわけだが……その他にも5名、この任務に同行している者達がいる。計8名での護衛というわけだ。


 当然その5名には、ハルキ達はすでに自己紹介などは済ませてある。先日事務室で行った、全員を前にしたものとは別にだ。さらに言えば、ここ数日の仕事の中で、何度か言葉を交わし、すでに仲良くなっていると言える者もいた。


 ショートカットの黒髪に幼さの残る顔つきが特徴的で、まだ幼さの残る見た目。フランクで人懐っこく、2人ともすぐに仲良くなった『メリル・ナーディア』、


 こちらもメリルに負けず劣らずフランクで……どことなくお調子者といった雰囲気がする、頭に巻いたバンダナと、短めの、メリルより明るい茶髪が特徴的な『ロイド・ブレイン』、


 プラチナブロンドの髪を短めのポニーテールにまとめており、バダル以上に寡黙でやや表情に乏しく、会話も事務的で、ロイドやメリルと比べると少々話しかけづらい印象の『セリア・ヴァナデーナ』。


 金髪に切れ長の碧眼が特徴的で、いつも軍服を着崩して着ており……こちらもメリルやロイドに比べて少々話しかけづらい、向こうも仕事以外でこちらに話しかけてくることもない男性『クリストファー・バージル』。付き合いの長い者達は、『クリス』と呼んでいる様だ。


 そして……ハルキ達が顔見せに事務室を始めて訪れた時、窓際からなぜか険しい視線を向けて来た……がっしりした体格に、金髪に褐色肌の男『シド・ヴェルク』。


 この5名が、記念すべきハルキ達の初任務を共にすることとなるメンバーだった。




 それから数十分ほど車を走らせ、目的地に到着。

 同行していた調査班は既に、周囲の環境その他の調査に入り……特務部隊は、分隊を3つに分けてその護衛を行っている。


 調査班に直接同行して近くで護衛を行う者達と、それよりも広い範囲を警戒する役目の者達、そしてその両方に指示を出す、司令塔役の3つだ。

 その内、司令塔役を担っているのはもちろん、隊長として全体の指揮官を務めるファウーラであり……ハルキ達は、広域の警戒を行う役目についていた。


 AW及び『レックス』は降りて、肉眼で周囲を確認している。

 機体に乗っていればとっさに動くことはできるが、見張りをするには向かない。外の音は聞こえづらくなるし、視界も狭くなってしまうからだ。


 もっとも、『レックス』に限って言えばそうでもないのだが……ここは2人は、勉強の意味もあるので、従っておくこととしていた。


 隊員相互の連絡は、支給されている無線機で行い、いざとなればすぐに乗り込める位置にAW各機を置きつつ、周囲を警戒する、という形を取っていた。


 ハルキとアキラも同様だが、やはり本職の軍人たちに比べれば、警戒の仕方はあまり様になっているとは言えず、素人の域を出ていない。


 それでも、普段からクリーチャーに警戒しつつ発掘などを行っていたということもあり、最低限のラインには達している……というのが、ファウーラの評価だった。


 これは勉強することが多い、と感じていると、ぽんぽん、と、肩をたたかれる感触がした。


「そんなに力だけ入れて構えてても、効率上がるわけじゃないぜ? もっと気楽にしてていいって」


「そうそう。かえって緊張して、色々見逃しちゃうといけないよ?」


 振り返るとそこに立っていたのは、いずれもハルキと同い年くらいに見える2人の同僚、メリルとロイドだった。

 傍から見ていてもわかるほどに緊張していた、あるいは気負っていたらしいハルキを見かねてのアドバイスだったらしい。気を使わせてしまったことに、またハルキは『あちゃー』という顔になり……『ほらそういうとこ!』と、続けてメリルに注意されていた。


「むしろお前ら、今まで一般人だったんだろ? それにしちゃよく警戒できてる方だと思うぜ? どんなところを重点的に見なきゃいけないか、どういう場所に立ってれば警戒しやすいか、ってわかってただろ?」


 ロイドの言うように、ハルキとアキラは最初に『誰がどこで警戒するか』という位置取りを決める際、ごく自然に見張りしやすいであろうポイントを導き出して提案していた。


 いずれも軍の訓練校でそれを習っている2人からすれば、それだけで『ほお』と感心せざるを得ない者だったし……メリルはその際、あまり彼らと交流がないクリスやシドがぴくっと一瞬反応して、ちらりとハルキ達の方に視線をやったのを見逃していなかった。


 もちろん、本職の軍人としてはまだ直すべき、学ぶべきところがあるのは否定できないだろうが……だからといって悲観するほど能力がないわけでもないし、ましてや将来性がないなどということもないのだ。


「……まあ、今はそう思うことにしとくか。うん、大人しく慰められとくわ」


「あーこいつ言いやがって……相変わらず可愛くねえ後輩だなあ」


「まあまあロイド、年もそんな変わんないんだし、先輩とかナシでため口でいいって言ったのは私達なんだから。それに、階級だけで言えばむしろハルキ達の方が上なんだしさ」

 

 軽い調子でメリルが言った通り、彼女の階級は『軍曹』、ロイドの階級は『曹長』である。

 『特務少尉』である2人は、彼らからすれば、階級的には上官にあたるのだ。そして、軍という組織は原則、年齢やキャリアに関係なく、階級こそが絶対の縦社会である。


「そーそー。まあ、あたしもハルもそんな、堅苦しい呼ばれ方や言葉遣いされるのなんて、想像しただけで違和感しかないっすからね。お2人みたいな先輩がいてくれてむしろありがたいっすよ」


「にわか知識だけど、軍隊っていえば上官の命令は絶対、階級が違う者への礼儀作法は徹底的に云々、ってイメージだったからな……ロイドやメリル相手に、敬語呼びとかするのもされるのも……想像するだけで、うん、なんか違和感」


「いい感じで言われてるように聞こえるけどそれ、暗に先輩として認識できないって言ってね?」


「気のせい気のせい」


「うわー、棒読み」


 中身はこもっていないものの、憎まれ口まで軽く混ぜながら、旧知の友人のように言葉を交わしている4人だが、ふと思い出したようにアキラが口にする。


「しかし……こんな感じで残りの3人とも仲良くなれたらよかったんすけどねえ……」


 それを聞いて、メリルとロイドの2人は『ああ……』と、それだけで言いたいことを理解した。

 確かに、この任務に来た2分隊の、残る3人のメンバーは……自分達に比べればとっつきにくいのが揃っている、と。


「セリアちゃんも別に悪い子じゃないんだけどね。ちょっとその……真面目で融通利かないかも? ってところはあるかもしれないけど……その分お仕事は確実にこなすし、頭もいいし」


「クリスも、悪い奴じゃないんだけどさあ。まあ、色々癖がある性格なのはそうだけど……結構なベテランだけあって、いざって時はすごく頼りになるし、普段の仕事ぶりも……ぶっちゃけ俺も色々と世話になったこと多いんだよな」


「……2人とも、ロイドやメリルと違ってちょっと素っ気無いっすもんね。セリアはあたしらのこと階級で呼ぶし、クリスも用事がなければほとんど話そうともしないし」


「いやまあ、まだ知り合ったばっかだし、そういうのも仕方ないだろ。あくまで仕事仲間、ないし同僚としての付き合いにとどめるのとかは個人の自由だしな」


 けど、と続けるハルキ。


「その2人はまあ、いいというか仕方ないとしても……未だに分かんねーんだけど、シドは何であんな感じなんだ?」


「あんな感じ、っていうと?」


「ああ、確かに……なんか、単に不愛想なだけ、っていう感じじゃないんすよね。まるで、こう……あたしらに、敵意とまではいわなくても、目の敵にされてるような……」


 ロイド達はピンとこなかったようだが、アキラの方はハルキと同じ感想を抱いていた。


 初日からこちら、同じように剣呑な空気を纏い、睨むような視線を向けられることが多いシドのことは……ハルキもアキラも気になっていた。


 特に何もトラブルになった覚えもないし、迷惑をかけたりして恨みを買った記憶もない。

 というよりも、交流を持った記憶自体がほとんどない。仕事でもほぼ関わる機会はなかったし……そもそも初対面から、向けられる視線はそうだったのだ。

 ハルキ達にしてみれば、迷惑に思ったり気分を害する以前に、ただわけがわからないというのが現状である。


「……ひょっとしてあいつ、軍属とか部外者が嫌いだったりするのか? ここ来る前も……俺、軽く『今日はよろしくな』って声かけたんだけどよ……」



『……1つだけ言っとく。俺達の邪魔だけはするな。でしゃばらずに引っ込んでろ、ド素人』



「って言われたんだけど」


「「……マジで?」」


「マジで」


 まさかの体験談に、聞かされたロイド達は唖然としていた。


「つか、初対面の時からアレな感じで見られてた記憶あるし……そういう価値観っつーか、軍人以外は来るな、みたいな奴なのかと思ってたんだが」


「どう、なんだろ……? 確かにシドって、割と普段から人と壁を作るっていうか、とっつきにくい感じではあるんだけど……そこまでとんがってたかなあ?」


「んー……確かに、悪態つくよりは無視する、関わらない、って感じの奴だと思うな。まあ、俺もここに配属したての頃は、仲良くなろうとしてアイツに何度も話しかけたんだけど……無視されることはあっても、そんな感じに言われることはなかったと思う」


「無視されても不屈の精神でアタック続けるあたりがロイドの強さっすね。で、結局仲良くなれたんすか?」


「おう! 朝挨拶しながら近づいても舌打ちされないくらいにはな!」


「前はされてたのかよ」


「割とマイナスからのスタートだったんすね」


「あー……ロイド空気読めないからねー、時々」


「あれ、なんで俺ディスられてんの?」


 きょとんとしているロイドに、残念なものを見る視線が集中している中……『ザザザ……』と、各自がつけている無線機から、通信波を拾ったことを知らせる砂嵐の音と、電子音じみた音声が聞こえて来た。


『こちらシャドー4。周辺警戒班各位、応答願います』


 無線の向こうから聞こえて来たのは、先程話していた、この部隊のメンバーの1人……セリアのものだった。


 聞こえてきた内容に、ハルキとアキラはふと、聞きなれない単語が混じっていたがゆえに戸惑ってしまうが……そこは流石にキャリアを長く持つ2人は、迅速に受け答えしていた。


「あー、こちらシャドー3。聞こえてる」


「シャドー5同じく。何かあったー?」


 2人がそう応答する間に、どうにかハルキ達も、自分達が名乗るべき名前を思いだし、少し遅れてだが、無線機に向けて返事をした。


「あー、えっと……シャドー6同じく、聞こえてます」


「し、シャドー7……? お、同じくっす」


 作戦前に聞かされた、戦闘通信で用いる各自の呼称『コールサイン』。

 普段はまず触れる機会のない、任務中の通信においてのみ使われる呼び名というものを、ハルキとアキラは、油断するとまだ忘れそうになる。ついつい名前で名乗りそうになるところを、先に答えた2人のおかげでどうにか踏みとどまって、規定通りに応答できていた。

 

 そのたどたどしさは、無線の向こうの『シャドー4』ことセリアにも伝わっていただろうが、特にそこを気にした様子はなく、4人全員の応答を確認して、無線機からさらにメッセージが聞こえてくる。


『調査班より要請があり、機械類ならびにそのパーツ等の解析・解体を行える者を寄こしてほしいとのことです。シャドー6、シャドー7、どちらか片方で結構ですのでこちらに来てください』


「技術仕事か……アキ、ここ任せていいか?」


「了解っす。あーでも、こっち一人減っちゃうっすけど大丈夫っすかね?」


「ああ、それはそうだな……一応確認するか。シャドー3よりシャドーリーダー。調査班から技術支援の要請あり、シャドー6の派遣を検討しているがその分外の警戒人数が減少する。対応の指示を請う」


『シャドーリーダー了解。周辺警戒は4人いれば可能と判断します。念のため、シャドー1、シャドー3、シャドー5は先程までよりも広い範囲に警戒を向けるようにしてください』


『シャドー1了解』


「シャドー5了かーい」


「シャドー3了解。シャドー6を現場応援に回す。……ってことで頼むわ、ハルキ」


「おう、何か色々ありがとな、確認とか。シャドー6了解、そちらに向かう」


 無線機に向かってそう言うと、ハルキはその場をロイド、メリル、アキラと……そして、反対側に布陣して警備しているシドに任せ、要請のあった現場へ駆け足で向かっていった。





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