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災世のディザイアスター  作者: 和尚
第1章 ディストピア2068
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第16話 新しい寝床、新しい職場



 これから所属することになる『第7特務部隊』への顔合わせに加え、簡単な研修など、仕事の概要を説明されたところで、今日の仕事時間は終了。


 英気を養うため、その日は定時で帰宅して家で……もとい、宿舎の部屋で休むこととなった。


「しっかし、中々に濃い1日だったな」


「そうっすねー……でもまあ、これから楽しくなりそうじゃないっすか? 職場はキレイだし、ご飯はただで食べられるし、自販機なんてものまで置いてあったっすよ。おまけにお給料はいいし……今までよりだいぶリッチな暮らしができそうっす」


「……だといいけどな」


 部屋に備え付けのシャワールームで汗を流した2人は、部屋着に着替えてくつろいでいる所だ。売店で買った軽食と、自販機で買ったドリンクをお供に、快適な時間を過ごしている。


 どちらも『せっかくだから試しに』と、食べ物の需要よりも好奇心メインの理由で買ったものだが、期待以上の品質に、2人共満足していた。


 そういったいいことが続いてすっかりポジティブになったと思しきアキラは、明日からの生活にも思いをはせているようだが、一方でハルキは素直に喜んでばかりもいられなかった。


「待遇がいいってのは、それに釣り合うだけの仕事の成果を求められてる、ってことだ。あるいは……仕事自体が、そうでもしないと旨味を感じられずに、人が集まらないほど過酷か」


 言いながら、ハルキはここに所属する際に当たって教えられた、雇用条件を反芻する。


 仕事は主に、ハルキ達の得意分野である『技術系』のそれ。ファウーラからの命令を受けて、部隊が保有する機械類の整備を行ったり、他の部隊の同業務の応援要員として行ったりする。


 基本的に『軍属』……すなわち、軍の関係者ではあるが、正式な軍の所属というわけではないため、事務仕事などを任されることはあまりない。あるとしても、自分の業務に関係のある範囲。

 事務室に彼ら用のデスクも用意されているものの、そういった作業……例えば、報告書の作成等の時に主に使う。


 同様に、ファウーラからの命令に応じて、部隊が派遣される現場に赴いて、機械関係の作業を割り当てられたり、雑事をこなしたりする。それについては、恐らくは前職……ジャンク屋で行っていた、採掘現場の機材をパーツに解体するようなのと似たようなものだろうとハルキは見ていた。


 1日の就業時間は9時から17時まで、1日8時間。昼食等休憩は、12時から13時。必要に応じて、作業状況等を見て各自の判断で変えたりする。

 原則週休1日。すなわち、6日働けば1日休み。

 ただし、時間・休日はいずれも上司……ファウーラから特別の命令があった場合はその限りではない。


 今日案内された食堂をはじめとして、いくつかの軍内部の施設は使い放題。

 食事は3食タダで食べられ、その他福利厚生も充実している。

 

 そういった勤務内容で……給料は月150万ノール。しかも1人頭だ。

 戦闘を行ったり資材を回収したり、何か部隊の仕事で特別な……通常業務外の成果を上げれば、その分の手当てまでもが加算される。


 買うものの値段をきちんと気にして暮らせば、1人40~50万ノールあれば、十分に余裕をもって1ヶ月暮らすことができるだろう。意識して節約すれば、もっと切り詰められないこともない。

 もっとも、住居や仕事にかかる経費や、急な病気などの出費があれば別だが。


 勤務内容に『戦闘』などの非日常極まりないそれが含まれるからだろうが、3食と住居がついてこの金額は、ハルキ達のような一般市民からすれば破格である。


 極端な話、最低限とはいえ、生存に必要なもの全てを仕事場が出してくれるのだから、稼いだ金額を丸々嗜好品や娯楽に使うこともできるわけだ。実際はもっといろいろ考えて使うのだろうし、いざと言う時のために貯蓄というものも必要になるのだろうが。


「考えてみれば、軍隊は戦うのが仕事だ。相手は人間を食い物としか見ていないクリーチャーだったり、こちらに敵意を向けてくる人間だったり……戦いとは言わないまでも、危険かもしれない、あるいは危険だとわかってる場所に赴いたりもする。そりゃ消耗も激しいだろうな」


「戦争中でもあるまいし、日常的にばたばた死んでるみたいじゃないっすけどね……でもそんなの、ジャンク屋やってた今までも一緒じゃないっすか。郊外の廃屋に発掘に行って、何回クリーチャーに襲われたか」


「俺達は基本、危険な場所は極力避けるようにしてそういうの進めてきたろ? これからは、命令ならそういうとこにも行かなきゃならないんだよ。いやむしろ、俺達は戦闘能力を当てにされてるんだから、大いにあると思うべきか……月150万は、その危険の値段だ」


「その分色々楽になるんだから、そこは飲み込むしかないっすよ。フードコート見たっしょ? 何か今まで見たこともないような美味しそうなもん、いっぱいあったっすよ! あれもこれも、給料で好きなように買えるんすから、楽しみで楽しみで……」


「おめーはいつもポジティブだな……まあ、悲観的になるよりはいいか。んじゃ、明日は早速仕事があるようだし、今日はもう寝るぞ」


「りょーかいっす。……食堂って朝何時からだったっすかね?」


「手引き見ろ」


 夜の軽食を片づけて、その日は2人はもう寝ることにした。

 リビングとは別になっている寝室。そこに2つ並んだ、硬くもない、よく日に干された弾力のある布団で……『こんないい布団で明日起きられるだろうか』と、若干不安になりながら。




 その日の夜中、ふと気配を感じてハルキは起きた。


 起きてすぐに気づいたのは、何やら温かい、そして少し重い何かが自分の上に乗っている、という感覚だった。

 ある意味馴れ親しんだ感覚だったため、それが何かすぐに分かったが。


 中途半端にめくれている布団の下を覗いてみると、案の定、うつぶせになってハルキの上に、まるでハルキを敷布団にするかのように乗っかって寝ているアキラの姿があった。


 寝顔は安らかで寝息も静か。リラックスしているようだが……その反面、両手はハルキの寝間着をぎゅっとつかんで離す気配がない。確実にこれは皺になる、と思えるほどに。

 寝顔からは安堵を、手からは必死さを感じる。ある意味対照的と言える2つの要素に思えるが、ハルキにはその意味がなんとなくわかった。


(……昔っから、不安だったり怖かったりした時は決まってこうして潜り込んでくるんだよな、こいつは……寝ぼけたままで)


 ポジティブな言動と態度の裏側に隠れた……ともすれば本人も気づいていないかもしれない、アキラの本心を悟りながら、ハルキはそのまま、布団をかけなおして眠った。



 ☆☆☆



 翌日の朝。

 長らく続けてきた習慣は、寝心地のいいベッドに勝り……どうにかいつも通りに早起きすることに成功していた2人は、食堂で朝食をとり、時間通りに出勤した。


 事務室に顔を出し、すでにそこに来て仕事を始めていたファウーラから、初仕事の指示をもらう。


 内容は、特務部隊の車両基地に行って、整備班の手伝いをすること。

 2人のキャリアを生かすことができ、人材同士の交流にもつながる、最適の仕事と言えるだろう。


 事実、向かった先で、2人の熟練とすら言っていい整備の腕は、すぐに知れ渡ることとなった。


 今の今まで、小型のAWの後部で、駆動部の鉄蓋を開いて作業を行っていたアキラが、ふぃー、と息をついて立ち上がる。肩にかけたタオルで汗をぬぐい、声を張る。


「班長ー、オイル交換と摩耗部品の交換、あと駆動部の研磨とオイルさしも終わったっすよ」


「おう、早えーな新入り! その若さで大したもんだ……おい、誰かチェック入れてやれ」


 へい、と『班長』の指示が飛び、他の整備員で手が空いている者が、アキラが直したAWの確認作業に当たる。いわゆるダブルチェックである。こうして、誰かが直したものを、それで問題ないかどうか、他の誰かが確認することで、確実性を高めて事故を防いでいるのだ。


「お前さんはあっちの兄貴の方を手伝ってやんな。大型のAWだし、1人じゃ大変だろうよ」


「そうっすかね? ハルならあのくらい、もうそろそろ……」


「班長! こっち終わった! チェック頼んます!」


「……おう、マジか」


「ほらね」


 また別な班員に指示を出し、ハルキの方の車体をチェックさせる『班長』。


 その間休憩していいことになった2人は、いつものツナギ姿で床に座り、水筒の水で水分を補給して一息ついていた。


「やっぱあたし、こっちの服の方が好きっす」


「俺もだわ」


「妙に様になってると思ったら、やっぱりお前らそっちの腕も叩き上げだったんだな」

 

 と、休憩しているところに、先程報告を受けて指示を出していた『班長』がやってきた。

 いかにも現場で働く男、といった見た目だ。腹は出ているがガタイはよく、腕は筋肉がついて丸太のように太い。口周りの髭と使い込まれた作業着が、熟練の威厳を醸しだしていた。


「作業着も工具も自前で持ってたし、技術や経験はあるんだろうと思ってはいたが、正直言って予想以上だ。ファウーラの嬢ちゃんも、いいのを寄こしてくれたもんだ」


「評価してもらえたようで嬉しいですよ。次の仕事ですか?」


「いや、午前中はもう終わりでいい。ちっと早ええが休憩に入ってくれていいぞ?」


「え、マジっすか? まだ30分以上あるっすけど……あたしら2人でやれば、30分あればAW1台の簡単な点検整備くらいならできるっすよ」


「おいおいホントかよ……いや、お前さん達2人ならできそうだな」


 『じゃ、頼むか』と班長に割り振られた、AWの点検整備を本当に30分かけずに終わらせた2人は、少し早めに昼食休憩に入り、食堂に歩いて行った。

 その後ろ姿……やけにツナギ姿が様になっている、自分より2~3周りほども年下であろう兄妹を、髭の班長は不思議な気持ちで見送っていた。


 同じような視線……こちらは好奇心や期待感が強めのそれを向けている他の班員たちが、仕事が区切りのいいところで終わった者から、その周りに集まっていく。


「班長ー! 飯行きましょう、めs……どうしたんすか?」


「? アレって、今日から配属になった兄妹……何て言いましたっけ?」


「あの若さで大した腕っすよねえ……俺ら完全に負けてましたよ、腕で」


 労働に汗を流す職人たる彼らには、気風のいい性格の者が多い。

 今日、突然現れて自分達以上の仕事の腕を平然と見せつけるハルキ達2人に対しても、特に悪感情を抱くことはなく、むしろ『戦力になる若手が来た』と歓迎している。


 自分達より若い者達に作業の腕が負けていることに関しては、思う所がないわけではなさそうだが、だからと言ってハルキ達を責める気配は微塵もない。むしろ、より自分を高めんと向上心に火をつける者がほとんどだった。

 

「アレで俺らよりずっと偉い士官サマだってんだから、驚かされましたけどねえ」


「士官は士官でも『特務士官』、しかも『軍属』だろ? まあそれがどうあれ、本人達は威張りちらす気なんぞ微塵もないようだったな……むしろ、職人としての付き合い方に慣れ親しんでるから、そっちの方が都合がいいって感じに見えたし……ありゃキャリアは相当なもんだぜ」


「キャリアどころの話ですかね? さっき話してた時に、『作業中にクリーチャーが襲ってくる心配をしなくていいから気楽なもんだ』って笑ってましたよ」


「手伝いじゃなくてマジでここの所属になってくんないっすかねえ? そうすりゃ楽になるのに」


「そりゃ無理だろ。特務士官ってことは、何かしらの技術ないし能力を見込まれて取り立てられたんだろうしな。それを発揮する機会が今んとこねえんで、こっちに回ってるだけだ」


「え、整備の腕でそうなったんじゃないんすかね?」


「そんなのがまかり通るなら今頃俺達全員特務士官さまだな」


 ははは、と冗談を言い合って笑う作業員達。

 一緒になって笑いながらも、班長は……唯一、彼らがどういった事情で『特務士官』になったのかをファウーラから説明されている彼は、何とも言えない表情で、ついさっき扉の向こうに消えた2人の背中を思いだしていた。


(あの若さであれだけの技術……濃い日常を送ってきたんだろうな。加えて、こんな形で軍に身を寄せることになって……)


「……兄妹して、難儀な運命を背負ったもんだ」


「班長、何か言ったっすか?」


「いや、何でもねえ。うっしお前ら、今日はちっと早いが休憩だ、飯にするぞ!」


「「「うぃーす!」」」





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