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災世のディザイアスター  作者: 和尚
第1章 ディストピア2068
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第15話 案内と顔合わせ



 『階級章』は、つけ方を教わる……のではなく、2人共ファウーラに着けてもらう形とした。


 といってもこれは、別に過保護だとかそういう理由ではない。着ける際に、2人共きちんとファウーラからつけ方を教わっている。

 今後、洗濯などの際に外して、その後は各自自力でつけられるだろう。


 ただ今回は、軍隊としての儀礼に則った形にしたからだ。


 国や地域の文化にもよるが、軍隊は昇進する際の式典において、儀礼的に、上官が部下の階級章を手ずから付け替えてやる、という形をとるところがある。

 今回、ハルキとアキラは、初入隊及びその際の階級章受領ということもあり、記念すべき初めての階級章を、ファウーラに……自身の上官につけてもらったのだ。


 その後に辞令も受け取り、晴れて『特務少尉』となった2人は、ちょうど今、ファウーラにこの『総司令部』の施設内を案内されているところだった。




「……しっかし、広いっすね滅茶苦茶……これ案内されなかったら確実に迷子っすよ」


「さっきもらったパンフに地図がついてたな……早いとこ覚えねーとな」


「大丈夫ですよ。慣れればすぐにわかるようになります。似たような機能を持つ部署や施設は近くに設置されていて、機能的かつ分かりやすいつくりになっていますから」


 フォートの統治機構の大半が集中しており、かつ『軍』としての機能も持つ部署が収容されているというだけあって、『総司令部』の中は広い。


 広いだけでなく、きちんと手入れが行き届いている。片付いているし、掃除もされて清潔感もある。汚れや破損個所などもほとんどない状態だった。

 これだけの大きさで、なおかつ手入れが行き届いていている状態というのは、それ専門の整備・清掃等の担当者がいても難しい。それが理解できるがゆえに、余計に彼らは感心していた。


 自室に引き続き驚かされている彼らだが、その間も、てきぱきとファウーラによる案内、説明はなされていく。




「ここはトレーニングルームです。様々なトレーニング器具が設置されていて、軍関係者は自由に使用できます。希望すれば、トレーニングウェアやシューズ、タオルなども貸し出しています」


 一昔前の時代のフィットネスジムのような空間。ランニングマシンやエアロバイク、各種筋トレ器具などが揃っていて、軍関係者と思しき者達が健康的に汗を流していた。見た目で使い方がわかるものから、どう使うのかよくわからないものまで、マシンの種類は多数ある。


 利用者には男性もいれば女性もいる。筋肉質なものもいれば、細身・やせ型な者達もいる。

 自動販売機なども置かれており、水分補給や体調管理に関しても充実しているようだ。


「軍隊って、もっときっつい訓練してるイメージあったんすけど、意外と普通っすね。まあ、使ってる器具は高そうなもんばっかりっすけど」


「普段は外の演習場や運動場を使って、恐らくイメージ通りの訓練をしていますよ? ここはあくまで自主トレーニング用ですし……それに、兵士ではない人が運動不足解消のために使うこともよくありますから」


「なるほどな……しかし、自動販売機なんて初めて見たな……現存してたのか」


 言いながら、ハルキは施設奥にある、直方体の箱型の機械を見て呟いた。


「あたしも本でしか読んだことないっす。あ、使ってる……お金入れて……あ、出て来た。ホントに人いなくて、自動なんすね」


「ここ以外では、一部の富裕層区画くらいでしか、見る機会はありませんからね……半世紀程度前の先進国などでは、まだ一般的だったそうですが……」


 また、利用者が財布からノール札を出してスポーツ飲料らしきものを買う光景を見て、初めて見る光景に驚いたりもしていた。使ってみたい、とも少なからず思っているようだ。


 それも無理のないことだろう。この『災害世紀』という時代に、自動販売機という機械は最早、一般的なものではなくなっている。


 これが例えば、ファウーラの言うような昔の先進国……2020年代の日本などであれば、普通に道端に置かれている光景をどこででも見ることができただろう。


 だが自動販売機は本来、治安がいい場所でしか成立しない。道端に食料と現金がセットで放置されているのと同じだからだ。無人であっても、壊されてそれらを奪われる危険がないと言える場所でなければ、とても置いておけるものではないのだ。


 そして、ものが足りずどこかで誰かが当たり前に飢えているこの時代に、そんなものを道端に放置しておくなど論外である。ゆえに、ハルキもアキラも、見たことがあるはずもなかった。




「ここは図書室です。蔵書は全て自由に読むことができますが、貸し出し……館外への持ち出しは制限されていますので、特に理由があって認められる場合のみ、申請することで許可されます。自主的な勉強等の際は、あちらに併設されている自学スペースを使用できます」


 この時代となっては貴重品扱いされる傾向にある、紙媒体の書籍が数多く保管されている、文字通りの図書館。百科事典から娯楽系の児童書まで、ぱっと見てわかる程度にも様々なものが揃っている。

 奥の方を見れば、ファウーラの言葉通り、勉強机のようなものが設置されていて、何人かそこで本を開いて勉強しているらしい者達を見ることができた。


「専門書なんかもあるんですかね? できれば、機械工学系なんかの……仕事に生かせそうな知識を勉強できるようなのがあれば嬉しいんですが」


「分野にもよりますが、割と詳しいものが一通りはそろっていると思いますよ? ここはフォート発足の際に持ち込まれた書籍類を……言ってしまえば節操なく片っ端から詰め込んだものだと聞いていますから。騒乱による消失などを恐れて、保管する意味合いでの蔵書もありますし」


「そういったものも読むことはできるんですよね?」


「もちろんです。ただ、決して状態がいいものばかりではないので、扱いには注意が必要ですが」


 本は、紙資源という意味合いで、かつての時代に比べて貴重品扱いされるようになっている。

 そして同時に、そこに記されている『情報』ないし『知識』、あるいは『娯楽』は、それそのものが何物にも代えがたい宝である。その扱いを丁寧にするのは、ある意味当然と言えよう。




「ここはまあ、見ての通り食堂です。軍関係者は朝昼晩1日3回、ここで無料で食事をとることができます。メニューは一応選べますが、栄養バランスを重視していますので、定食形式できまった品目を1セットとして選ぶことになります。3食きちんと、残さず食べるのが原則です。ただ……」


「? ただ?」


「階級が上になるほど、ここで食事をとることは少なくなる傾向にあるんです。一般的には……将校以上になると、あまりここを利用することはなくなりますね」


「ええええ!? あたし達たしか『特務将校』って奴っすよね? ここ使えないんすか!?」


「ああいえ、別に禁止されてるわけではないので、使いたければ別に使っても構いません。実際、将校以上に昇進しても、下士官だった頃の習慣でここを愛用している人もいますし、栄養バランスの取れた食事を魅力的に思っている人などは、わざとここを利用したりもしますし」


「あ、そうなんすね……よかった。タダでご飯食べられるなんて、しかも作らなくても注文するだけでいいなんて最高だー、って思ってたんすよ」


 と、庶民的な理由で歓喜したり落胆したりと、かなり広い食堂スペースを前にしてアキラは一喜一憂する。

 その声は決して小さくはないものだったため、食堂の利用者の何割かは『何だ何だ?』と注目の視線を向けて、やはりうるさかったかと、ハルキは軽く会釈して謝意を示していた。


「でも、ここ使わないとなると……他の『将校』とかの人たちは? 外に食べに行くんすか?」


「そうする人もいますし、こことは別にある、有料のフードコートを使う人もいますね。ここよりメニューが豊富ですし、お金さえ払えば好きなものを好きなだけ食べられるので、懐に余裕が出てくるとそちらを利用する人が自然と増えるんですよ」


「……上司が一緒の食堂にいると部下が落ち着いて食べられない、って理由もありそうですね」


「……ないとは言えませんね」




 そういった形で、総司令部内の施設や部署など……その中でも、ハルキ達が関わる機会が多いであろう場所を特に重点的に紹介してもらって、最後に3人が行き着いた先は、『事務室』だった。


 扉に着けられている札は『第7特務部隊』。


 それを見てハルキは、先程総司令から聞かされた自らの所属……ファウーラが治める隊の名が『特務部隊』であったと思いだす。

 ここにこうして連れてこられたということは、つまりここが彼女の職場であり、すなわち自分達の職場なのだろう、と理解できていた。


 同時に、先程総司令から簡単に聞かされた……自らの所属となる『特務部隊』が、いかなる仕事を担う部隊であるのかについても。


 特務部隊とは、その名の通り『特別な任務を担う部隊』である。

 少しややこしい気はするが、別に『特務士官』のみがそろっている部隊、というような意味ではない。


 簡単かつ簡潔に言ってしまえば、『専門的に任務としてこなす部隊がいない仕事』を担う部隊だ。


 必要に応じて必要な仕事を現場でする。そしてそれは、軍でありながら戦闘に限らない。

 戦闘の支援であったり、物資の運搬・補給であったり、状況の調査であったり、設備の修繕であったりする。総司令・アルフレッド曰く、『便利屋部隊』と呼ばれることもあるらしい。


 だが決して軽んじられているわけでもなければ、不遇に甘んじているわけでもない。所属にこだわらず様々な任務に即応できる『特務』の存在は、軍が有機的に動く上で、なくてはならないものであると、ほとんどの将兵にはきちんと理解されている。


 もちろん、ファウーラの率いる『第7特務部隊』も同様の存在であり、司令部からの命令に応じて様々な任務を今までこなしていた。


 それらのことを思いだしながら、ファウーラに続いてその事務室に入ると……中にいて、執務机についていた十数人の、恐らくは部隊員であろう者達の視線がこちらを向く。

 部隊長であるファウーラが入ってきたのを見て……それに加え、見慣れない2人が一緒に入ってきたためだろう。しかもなぜか、その見慣れない2人は、肩に特務少尉の肩章がついている。


 その視線のほとんどは、すぐに手元の仕事書類などに戻ったものの、


「全員、一旦仕事の手を止めてこちらに注目」


 ファウーラのその言葉で、再びファウーラとハルキ達に、全員分の視線が集まる。しかも今度は……部隊長の号令だからだろう。全員起立の上、気を付けの姿勢でというおまけつきだ。

 釣られる形ではあるが、ハルキとアキラも同様に姿勢を正して、ファウーラの隣に立つ。

 

「昨日話した通り、この部隊に本日より、新規の隊員が2名配属されます。この2名は厳密に言えば軍属となるため、軍規が100%適用されるわけではありませんが、指揮系統の……」


 物怖じする様子もなく、はきはきと話して説明していくファウーラ。


 ひととおり彼女が話し終えてから、ハルキとアキラも自己紹介をする。


「えー……ご紹介にあずかりました。本日よりこちらの部隊でお世話になります、ハルキ・ジャウハリー特務少尉です。若輩と称するにも至らぬ未熟者ではありますが、よろしくお願いします」


「えーと……お、同じく、アキラ・ジャウハリー特務少尉っす! よろしくおねがいします! あ、ハル……あ、いや、ハルキ特務少尉の妹っス!」


 たどたどしく自己紹介する2人に、様々な視線が突き刺さる。


 新参者を値踏みするような者、子供を見るようなほほえましく見守る者、特に何の感想も抱いていない者、大丈夫なのかと不安がる者、好奇心に満ちた面白そうな目で見る者……様々いる。


 その一方で、ハルキ達の方も、姿勢は正したままを心がけつつも、室内を見回し……十数人いる『同僚』達の顔を見て、なるべく早く覚えようとしていた。


 端から順に見ていく中で、特に印象に残るのは……自分達に年齢が近いであろうメンバーだ。

 

 同じ小隊、あるいは分隊の所属なのだろうか。そういったメンバーは大体同じ場所に、机を合わせて仕事をしているらしく、ほぼ1か所に纏まっているように見えた。


 ハルキと同い年くらいであろう、明るい色の茶髪にバンダナの男性。


 短めの黒に幼さ、ないしあどけなさの残る顔の女性。


 プラチナブロンドの髪を頭の後ろでまとめている――所謂ポニーテール――無表情な女性。


 やや短めの金髪に切れ長の碧眼が特徴的な、着崩して軍服を着ている男性。


 そして……ほぼ全員皆、後期の視線でこちらを見ていることは共通なのだが……中でもひときわ強い視線を向けてくる者の存在に、ハルキは気づいた。


 窓際の壁の所に寄りかかるようにして、ポケットに両手を入れて……ぎろり、とこちらを睨むようにしていると思しき、1人の青年を。


 金髪に褐色の肌で、目は金色。長身で体格がかなりがっしりしていて、軍服をぴしっと着こなしているところから見ても、かなり大人びて見えた。


 単に目つきが悪い……と言うわけではなさそうだった。

 いや、目つきも悪いのかもしれないが……明らかに、彼がハルキ達に向ける視線には、感情が乗っているのだ。いっそあからさまなまでの……苛立ちのようなそれが。


 ハルキはそれが気にはなったが、得体のしれない新参者をある程度警戒すべきなのは――しかもその男が、ついこの間まで一般人だった『軍属』であればなおさら――自然なことか、と考えた。それゆえ、ほとんど無意識に自分も向けた視線を、ほんの一瞬交差させるだけで済ませた。


 ……その一瞬のうちに、青年の目元がぴくっと震え、眉間にしわが寄ったのにハルキは気づいたが……向こうが何か言ってくるわけでもないので、そのまま放っておいたのだった。





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