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第十四話「大会はご飯も大変です!」

 次の県大会で作るご飯について小桃ちゃんに相談したところ、メニュー作りを快く引き受けてくれた。

 いい経験になるからということで、家庭部の部長からもぜひ手伝うようにと言われたらしい。

 そんなわけで登山部の部室で話し始めたのだが……。



「食材が腐るとは……。山、恐るべしなのだねえ……」


 小桃ちゃんは登山ならではの苦労話に興味深くうなづいていた。


「そうなの。お野菜はダメになるし、お肉も変な臭いになって食べられなかったことがあるの……」

「あれは……臭かった……」


 ほたか先輩と千景さんはどんよりとした顔で語る。


「あぅ……。野菜、そんなにダメになるんですか?」

「うん……。カイワレ大根やレタスがザックの中で潰れて傷んじゃったことがあるの……。あと、二日目に使おうとしていた豚肉は異臭を放って大変だったなぁ……」

「あれ? この間のキャンプは上手くいったじゃないっすか?」

「そういえば、あの時のトマトもレタスはすごく新鮮で美味しかったです!」


 ゴールデンウィーク初日にいったキャンプではシチューも美味しくできたし、野菜たっぷりのハンバーガーも美味だった。

 野菜も潰れず、きれいなままだったと思い出す。


「実は……天城先生の車に、クーラーボックスを積んでた……」

「あのね、初めてのキャンプで残念なことになるのも嫌かなって思って……。黙ってて、ごめんね……」

「いえっ、そんな! クーラーボックスぐらい、普通のことですよ~」

「……でも、大会ではさすがに、背負えない……」


 そうか。

 車で近くまで行けるキャンプ場ならいざ知らず、次の大会は山登り。

 自分たちの足だけで行動しなくてはいけないのだ。

 クーラーボックスを背負って歩く姿はシュールかもしれない。


「レトルトとか缶詰はダメなんすか? 山の店にはフリーズドライも充実してるっすよ」

「それがね。大会では……レトルトそのままだと減点になるみたい。乾燥野菜は料理の材料に使うのはオッケーって聞いたことがあるかな……」

「あぅ……。そんな決まりがあるんですか?」

「たぶん審査をする以上、温めて終わりのご飯には低い点数を付けざるを得ないんだと思うんだけど……。お山には冷蔵庫がないから、なかなか大変だよね……」


 ほたか先輩は困ったように苦笑している。

 登山ならではの事情を知り、小桃ちゃんは考え込み始めた。


「なるほど……。傷みにくい野菜と言えば、玉ねぎ、にんじん、ジャガイモ、ニンニク。あと、キャベツも意外と長持ちするのだよ……」

「そういえば、確かにキャベツは塊で持っていったら大丈夫だったなぁ。……おっきくてかさばったけど」

「ところで、そのまま食べるわけではない缶詰。……例えばトマトのホール缶は使っていいのかい?」

「ちゃんと料理する場合は、使える。制限は……聞いたことがない」

「なるほど……。それなら色々とできそうかなぁ」


 千景さんの返答を聞き、小桃ちゃんはうなづいた。



 そして、改めてみんなの顔を見回す。


「じゃあ、みんなの食べたい物を聞くのだよ~」


 最初に手を挙げたのは美嶺(みれい)だった。

 そして千景さんもおずおずと小さく手を挙げる。


「アタシはやっぱ、肉っすね。肉と米!」

「ボクは……牛乳たっぷりの、スープ」

「二人とも、ブレないねぇ~。そういうところ、お姉さん好きだよっ」


 美嶺はキャンプの時もお肉の缶詰をものすごい勢いで食べていたし、生粋の肉好きらしい。

 そして千景さんは少しでも身長を伸ばしたいということで、いつも牛乳を飲んでいる。

 しかし、肉と聞いた時点で小桃ちゃんは悩み始めた。


「う~ん……。牛乳は常温保存できるものがあるけど、肉の保存は難しいなぁ……」

「さすがに生肉を使って焼肉! ……とまでは言わないけどさ。缶詰はダメなんすか?」

「どうなんだろう。どの辺にボーダーラインがあるのかはお姉さんにも分からないかな……。もしかすると審査員それぞれの判断によるのかも?」

「ぬぅぅ……。勝負がかかってるんなら、下手に判断の難しいものは使わないほうが無難っすよね……。じゃあ、肉はあきらめるか……」


 すると、小桃ちゃんは慌てて訂正する。


「あきらめるのは早いのだよ! 工夫をすれば大丈夫。肉の保存については私のほうで色々考えるから、期待するのだよっ!」


 そう言って、親指を立てて笑う。

 食材に詳しい小桃ちゃんが言うのだから、すごく安心できた。


「じゃあ、ほたか先輩とましろの希望を聞こうかな」

「ましろちゃんは何が好きなの? キャンプの時はアンパンだったけど、合宿では料理を作るのが四回あるから、自由に答えてみて~」


 ほたか先輩は満面の笑顔で聞いてくる。

 あまりの美少女スマイルにドキドキしてしまいつつ、私は消極的につぶやいた。


「あの、野菜たっぷりの料理が好きなんですけど……。野菜は傷みやすいっていうし、さすがに無理ですよね?」

「野菜が傷みやすいって聞いた時から、ましろはがっかりしてると思ってたのだよ。確かに聞いた限りでは生野菜は難しいけど、丈夫な野菜を多めに使った野菜スープなら大丈夫! ましろも満足する味を考えてみるのだよ!」

「あぅ~。小桃ちゃん、ありがとう。大好きっ」


 本当に小桃ちゃんは頼もしい。

 付き合いも長いから、私のことを分かってくれている。

 たまらなくうれしくなり、小桃ちゃんに抱き着いた。


「うぁ……。ましろ、目の前でイチャイチャするなよ~」


 美嶺が悲鳴を上げながら私の腕に抱き着いてくる。

 なんか、この構図は三角関係みたいだ。

 美嶺はヤキモチ焼きだけど、最近は特に行動がおおっぴらになっている。

 すると、千景さんが美嶺をきょとんとした目で見あげた。


「美嶺さんは……ましろさんが好き?」

「うぐ……。好きって言われると誤解を生むじゃないすか。これは……あれだ。リスペクトっすよ。リスペクト!」

「うん……。確かにましろさん、絵が上手だから」


 千景さんは納得したようにうなづいた。

 美嶺の反応はリスペクトを越えてる気がするんだけど、千景さんは無垢なのか、ジェラシーという概念がよくわかっていないのかもしれない。

 そしてほたか先輩はというと、キャッキャしてる私たちを見守るように微笑んでいた。


「あ、あのっ。ほたか先輩は何がお好きなんですか?」

「お姉さんは卵料理が好きなの~。卵って黄色くてふわふわしてるでしょ? お姉さんの大好きな要素がつまってるんだ~」


 その言葉に、私はすごく納得した。

 ほたか先輩は太陽やヒマワリなど、黄色っぽいものが大好きだ。

 ふわふわの黄色いオムレツなんて、ほたか先輩にピッタリかもしれない。


「そういえば、卵って大丈夫なんですか? すごく割れやすいし、冷蔵庫もないし……」


 卵の致命的な弱点が心配になって質問する。

 すると、千景さんと小桃ちゃんが微笑んだ。


「……丈夫な卵ケース、うちにある」

「卵は割れなければ、常温でも半月ぐらいは大丈夫なのだよ~」

「へえ~。じゃあ、山で卵料理って普通にできるんですね!」


 ほたか先輩は元々分かっていたようで、微笑んでくれている。

 お肉と野菜は注意が必要だけど、牛乳と卵が大丈夫なら、山の食事もすごくバリエーションが広がりそうだ。

 大会がなんだか楽しみになってきた。


「ではオススメのメニューや食材の保存について考えたいのだよ。色々調べるから、明日の放課後もここに来てもいいかな?」


 小桃ちゃんもメニュー作りのとっかかりが出来たのか、やる気に満ちた目をしていた。



 そしてその翌日。

 大きなエコバッグと模造紙の筒を抱えた小桃ちゃんが現れたのだった。

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