孤独の走者
エピローグ
「あと2キロ!前との差は、21秒!先頭までは43秒ー!」
声が聞こえる、マネージャーだろうか?なんか言っていたみたいだったがもう忘れてしまった。
由良 和人は全国高校駅伝最終区を走っていた。10年ぶり、悲願の出場を果たした栃木県立足利航修高等学校。
10年前までは全国常連の強豪校だった。9年前の大会で出場をのがすと、それから毎年惜しいところで全国出場の切符を掴めないでいた。部員も毎年減っていき、新入生への入部テストも廃止された。おかげで部員は増えたのだが、同時に長距離を高校から始めるという、初心者も増えた。
由良もその初心者の中の一人だった。中学三年の時に見た、箱根駅伝の中継に心を奪われた。陸上はまったくやったことなかったが、もともとの運動神経は悪くなかった。由良のやると決めたら、満足するまでやるという性格も後押して、メキメキと力をつけた。県内屈指のスピードランナーと言われるようにまでなった。そして三年生になり、見事航修高校を全国出場に導いた。
最初で最後の全国の舞台。最終第7区、5キロの道のりを走る。今までの自分の練習の全てがこの5キロにかかる。今までの仲間たちの練習の全てがこの5キロにかかる。そんな重い重い最終区を由良は任された。由良はそんな7区でも不思議と緊張はあまりしなかった。それより、「みんなが自分を見てる。」という状況が心地よかった。
6区から8位でバトンをもらい、由良の全国がスタートした。スタートしてから1キロで自分の身体の異常に気づいた。由良は今までになく脚が軽いのを感じたのだ。1.5キロを越えたあたりからは楽しささえ感じていた。スムーズに脚がリズムを刻む。まるで、バンドをやっているかのように、、、、、そんなこと考えている間に、由良は5人を抜いて4位になっていた。疲れた感じはあるが、走るのをやめたくない。そんな感覚だった。そしてもう一人抜いて残り2キロ。
よし、ようやく2位の背中が見えてきた、、。あと20秒といったところか、問題ない。かなりきついがぬいてやる。
由良はギアをまた切り替えた。2位との差が、どんどん縮まっていく。10秒、8秒、5秒、、、もう目の前だった。一回相手の顔をみてからぬいた。ついてこられないようにスピードは落とさない、、。残り1キロ。
未だに一位の背中は見えない。思ったより開いているみたいだな。一位のやつは今ごろ、余裕な顔してるのだろうか。待ってろ。俺が今からそこに行ってやる、、、。
第一部
「はやくしろよおー、、」
4月。桜の花びら舞い散る中、由良は大学の昇降口で壁にもたれていた。この4月、大学に進学した由良は一緒に陸上部に入部する仲間を待っているところだ。
群馬県にある上道大学。特別強豪なわけでも、箱根駅伝常連というわけでもない。もちろん、由良にも名門大学からの誘いはあった。なにせ全国高校駅伝大会では一位こそ逃したが、区間賞をとった男だ。しかし、由良は他校の知り合いを3人誘い上道大学への進学を決めた。「ここから這い上がって、無名大学が箱根駅伝に出場したらかっこいい」というまるで小学生の夢のような理由だった。
「ゆらああぁぁっち!!待ったかああい?」 名前を呼ばれ、振り向くといかにも、チャラそうなやつが立っていた。能代 天翔。由良が誘った中の一人だ。全国高校駅伝では千葉代表として、第4区を走って区間2位の好記録を残した。由良の誘いも、その場でOKをした唯一の男だ。由良はこの能代以外にも高校でエースとして活躍した人物を誘った。真野 拓哉。高校時代、神奈川代表で三年連続で6区を任され、一年時、区間6位。二年時、区間7位。三年時、区間4位と安定した成績を残した。そして、もう一人は浅沼 悠斗。全国高校駅伝出場は逃したが、県大会の3区では12位から順位を4位までおしあげるごぼう抜きを見せた。
「じゃあいこっかあ?」
能代が由良に声をかけ、由良たちは入部届けをだすため部室に向かった。
軽く2回ノックして、部室の戸を開けて中に入った。もうすでにきている新入生もいたようで部長らしきひとから質問を受けていた。
「和人くん!和人くん!」
いきなり名前を呼ばれたことに驚いたが、名前を呼んだ浅沼が指をさしてる方を見てそれ以上に驚いた。指の方向には同世代のなかでも、天才とよばれていた山野 大輔が座っていた。全国高校駅伝では強豪、佐久長栄高校で三年連続で一区間賞を獲得した。その山野がなぜ上道の部室にいることに驚いたのだ。だが、山野も上道大学陸上部に入部するとしたら由良の計画には大きなプラスだ。由良は買った覚えのない宝くじに当選した気分だった。由良は、しかしなぜ山野ほどの男がお世辞にも強豪と言いがたい上道大学を選んだのか不思議におもえてしかたなくなった。
「山野だよな?なんで上道大学にしたんだ?お前なら西海大学とか、駒ヶ崎大学からも声がかかったんじゃねーの?」
山野は由良に気づくと由良の顔をじっと見てから
「好きに走りたいから、、。」
とだけ言ってポケットからイヤホンをだして耳にはめた。
「愛想ねぇーなあー!あいつ絶対プライド高いタイプだぜぇ?なあ?浅沼?」
「え⁉︎俺⁉︎俺はわからないよ、、、ま、真野くん!真野くんはどう思うの?」
「自尊心を持つことはランナーとしては悪くないんじゃないか?まあ限度はあるが、、」
浅沼から助けを求められた真野は、眼鏡の位置を変えながら答えた。
4人で話していると、部長から集合の号令がでたので軽く円を作った。今日は自己紹介をやるらしい。四年生から順に自己紹介をしていく。
「部長の田島です。スピードのあるランナーじゃないので頼りないですがよろしくお願いします。」
「副部長の室井です。部長と一緒に頑張りますのでよろしくお願いします。」
四年生はこの2人。田島は、四年生なだけあり、しっかりした体をしていた。対象に副部長の室井はガリガリで、転んだだけで骨が折れてしまいそうだった。
続いて三年生は1人。松田という少し小柄の男だった。二年生は多く10人ほどいた。特に門倉という男は、身体つきが他と違った。あの身体は、ちゃんとしたトレーニングをしないとできない身体だった。
由良ら一年生が、軽く自己紹介を終えた後少しして監督が部室に入ってきた。
由良が無名の上道大学に進路を決めたのには、もう一つ理由があった。今入ってきた、北大路監督が今年から監督に就任するからだ。
北大路監督は当時無名の、東山大学を箱根駅伝常連にまでした名将だった。
白髪をなでながら、中心にたちあいさつをはじめた。
「えー、監督の北大路だ。今日初めて皆さんに会うので、私も一年生ということになるな。えー、私が監督になったからにはお遊びでやってるやつは同好会にいってもらう。そして、俺らは、箱根駅伝を目指す!しかしこのチームをいきなり箱根駅伝に出場できるようにするのは至難のわざだ!だから当然練習はあまやかさない!それでいいというものだけのこれ!」
周りがざわざわしだした。当たり前だ、今日初めてあった人にいきなりこんなこと言われたら誰だって混乱する。しかし望むところだ。そのために上道に来たのだから。




