000_転成
人はどこから作られたのか。
答え方は様々だろう。人と答える人。神様と答える人。作り方を曖昧にしてコウノトリが運んでくるという人。もっと具体的に答える人も居るかもしれない。
勿論正解は人が人を作るのだ。そこに愛が有るか無いか関係なく、人が人を作るのだ。
犬や猫は人を作れない。アダムとイブは神様が作ったのかもしれないが今の人類は全員人が作ったのだ。
これに例外はない。クローン技術も女性の中で十月十日過ごさせるし、培養機械が開発されたとしても広義の意味でそれは人が作ったと言えるだろう。
地域による例外も無い。宗教による考え方の違いはあるかもしれないが科学的に考えれば必ず人は人から作られている。
何故か?理由なんて無い。当たり前のことだから。当たり前のことだ。本当に当たり前だった。
しかし僕は人が無から誕生する瞬間を見た。
ここの世界では人は神様と呼ばれている存在から産まれているのだ。
神様と呼ばれている存在が人を作っているのだ。
そして僕はそんな神様と呼ばれている存在から産まれた人のバグだ。
前世の記憶を保持しているただのバグ人間だ。
そんな神様と呼ばれている存在から最初に言われた一言は
「あっ………」
……こうして僕はこの世界の住人となった。
人であるが人ではない。僕の新しい人生が始まった。
「さあって、今日も一日頑張りますか!」
私はこの世界では神様と呼ばれている。いろいろな仕事があるけどメインの仕事は人間を産み出すこと。いや、「生み出す」が正しいかもしれない。
この世界の人口は2950年前から。いや、もっと前から増えていないし減ってもいない。
全世界の人口は3億人。勿論戦争などで一気に人が死んじゃったりしたら生み出すのが追いつかなくて一時的に3億を下回ることがあるけど、それでもすぐに3億人になるまで生み出す。そして過去一度も3億を上回ったことはない。当然である。私は優秀な神様なのだから。
神様の世界にも出世という物がある。私はまだ名前さえついていない。下端ではないが中間管理職程度の存在だ。しかし、この世界の管理を任されて早2950年。あと50年無事故で管理することが出来れば名前をいただける!そしてもっとやりがいがある世界の管理や新しく私が世界を作り出すことも出来る!
「とりあえず世界に歪みは出来ていないな…。おっと、2人死んじゃった。両方とも女性か…早速生み出さないと……」
のんびりに見えるがここは時間の流れが違う。だいたい人間世界の1000分の1程度の時間の流れである。
「私の中では3000年なのに人間は3年程度しか管理されていないと思っちゃうんだよねえ。なんか不平等だ。」
しかしこの神様見習いはすでに下積み時代だけで10000年は働いている。人間ほど苦痛を感じているわけではない。
「だけど毎日同じことの繰り返しだとつまらないよ…歪みなんて3回しか発見したことないし…人間にとっては年に1回のペースなんだろうけど…」
愚痴が止まらない。しかし仕事の手を止めることもない。慣れた手つきで先ほどの2人の女性の代わりとなる新しい人間を生み出した。
「……コホン。新しく生を受けた人間よ。この世界でのあなたの活躍を祈ります」
いつもの台詞。そしていつものテレポート。
これをだいたい人間世界での一日に7千人くらい行う。神様時間ならだいたい1日に7人ほどだ。
「……おっと、また女性が死んじゃった。こんなに重なるなんてめずらしいなあ。とりあえず生み出さないと」
2950年も繰り返した仕事。そりゃ自分の中で最適化されている。手元も見ずにちゃちゃっと準備した。
そしてまた新しい人間が誕生した。
「あっ…………」
2950年という年月に支えられた油断。
怪訝そうな目で私を見る生み出された男。無言の私。
とりあえず本来生み出すべきだった女性を生み出し、加護を与えテレポートさせた。
「……大事になりませんように」
神様は願った。しかしその願いは叶うはずがなかった。
……そして上の神様から停職処分を受けた。停職10日。さらに人間世界での奉仕作業。
たった10日と思うかもしれないが人間の時間なら10000日だ。
約27年の人間生活。私は絶望していた。
そして世界各地を混乱させることになった。
「……今日から10000日もの間、子供が産まれない?」
ただいまの世界総人口 3億と2人。