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愉快なうさぎと孤独なカメ  作者: LOD
step1:スタートライン
5/5

出会い②

次の日の朝、昨日の重苦しい雲はどこかへ飛んでいき、晴れ晴れとした空が広がっていたが、それでも、春の暖かさはまだだいぶ先だと思わされた。階下へ降りると、今日は休みなのか、身支度をしていない母が、朝の情報番組をつけっぱなしにしたまま、スマホでゲームを片手に、電子タバコを吸っていた。

「おはよう。」

「おはよう。」

「昨日遅く帰るって言ってたけど、何時ぐらいになりそう?」

「わかんない。」

「あと晩御飯はいらないかな。たぶん。」

「りょーかい」

それから、情報番組を見ながらどうでもいい話をしながら朝食をすませ、身支度を整えた。

今日、授業は2限目からだったので余裕があったが、いつもより早くでることにした。

「いってきます」

「いってらっしゃーい」

雪なのか、氷なのかわからない地面を、転ばないように、滑るようにすり足になりながら駅に向かう。駅に着くと電車をホームのベンチで座って待っている気分にはならなくて、立って列に並んで待った。電車はすぐに来た、電車に揺られながら、スマホで動画サイトを開き、「社交ダンス」で調べてみた。すると、社交ダンスの技の動画がたくさん出てきたが、どれも中年の人たちが紹介していた。その動画をいくつか再生したが、しばらくしてみるのをやめてしまった。電車はまだ二駅分しか進んでいなかった。手持無沙汰になった僕は、リュックから、本を取り出し読み始めた。

 大学の中は騒がしく騒然といていた。ほかのサークルもこの時期新入部員を求めて、躍起になって一期生を勧誘している。その様子は様々だった。看板を持って歩き回るもの、昨日の僕と徹のように、履修相談にのっているもの、勧誘される声を断るもの。その中を群集を縫っていき、目的地の教室にたどり着くのは、大変だった。何度か上級生と目が合ったような気がして、その時だけ早足で歩きその場を去った。そしてようやく教室につき、端のほうの席に着き授業が始まるのを待った。

(あ、そういえば、昨日のメッセージのへんじしてなかった)

と思い返事をしようとスマホを開けたときに、教授が入ってきたので、返事は後にすることにした。授業の最中、昨日のダンスが脳裏に浮かんだ。華やかで、美しかった。なにかに触れてそう思ったのは初めてのことだった。

 授業が終わると、とりあえず昼を食べに食堂に向かった。ちょうど昼時だったために食堂はごった返していた。うどんを注文し、端のほうの席を選んで座る。座って周りを見ながらうどんを食べていると、どうやら新歓をしているらしく昼時の学生だけではなく、新入生と上級生が混ざって食べている席がいくつもあった。その中の席に見覚えのあるシルエットがあった。風さんと昨日一緒に踊っていた、小林さんと一年生とおぼしき女学生だった。そこまで長くは見ていなかったのだが、視線に気づいたかのように、ふと目をづらした風さんと目が合った。

(まずい)

と思った時には風さんが近づいてきて、

「高陽君、おはよ!ってもう昼だからこんにちはだね!」

「こんにちは。」

「今一人?」

「はい。一人です。」

(一人だったら悪いのか)

「じゃあさ、むこうで一緒に食べない?」

「いえ、大丈夫です。」

「そんなこと言わないでさ、ほかの新入生も一緒だし。」

(結構強引な人なんだな。)

「わかりました。」

「じゃ!あっちいこ!」

「・・・それで、今日のステップ講習会では」

「マサ!この子高陽君」

「どうも」

「やぁ。君昨日でも見に来てくれてた子だよね」

だいぶ低めの声が、威厳を醸し出していた。

「俺は、凪のリーダーの小林健正、よろしくな」

「菊池高陽です。よろしくお願いします。」

「そうなんですか。」

「健正は皆には『マサ』ってよばれてるんだ」

「なるほど」

「ところで、高陽君、今日のステップ講習会のことは聞いた?」

「柏木徹先輩から聞きました。」

「そうか。今日ステップ講習会来る?」

「今のところ行く予定です。」

「ならちょうどいい、いまここにいる鈴木さんにも、今日のこと話してたんだ。」

「そうなんですか。」

「明生ちゃん、こちら、菊池高陽君。高陽君、こちら鈴木明生ちゃん」

「よろしく!!」

元気はつらつという言葉がよく似合う、大きくよく通る声だった。

「よろしく。」

「それで、今日のステップ講習会では、簡単なステップをやって、社交ダンスに触れてもらおうって感じなんだ。」

「本当に簡単だからすぐ覚えられるはずだよ!」

「めっちゃ楽しみです!昨日のデモもすっごくきれいで、惚れちゃいました!」

(昨日いたのか)

「ほんと!うれしい!ありがとうー!」

「二人とも履修相談はしてもらった?」

「はい!!昨日してもらいました!」

「高陽君は?」

「僕も昨日してもらいました。」

「高陽君は、何学部なの?」

「法学部です。」

「うちと一緒じゃん!」

隣で高い声で話されると、耳が痛くなってくる気がする。だんだんとイラついてきた。

「ゼミ、どこの募集した?」

「一応竹内ゼミ。」

「えっ、めっちゃ、楽単だからって、倍率高いところじゃん!!」

「そうなんだ」

「てかさ、教養科目何とった?見せて」

といわれ、仕方なくリュックから時間割を取り出し、テーブルの上に置いた。

「え!これ取ったの!?めっちゃエグ単って聞いたんだけど!大丈夫なの??」

「あのさ!!」

「・・・」

あまりにも大きい声だったみたいで周囲は一瞬静かになり、奇異の目を向けられた。がそれも一瞬。また、先ほどまでの騒がしさがまた戻ってきた。それを待ったかのように僕は口を開いて。

「僕らまだ友達とかでもなくて、さっき知り合ったばっかりなのに、人の領域に踏み込もうとするなよ。」

「友達じゃなかったら聞いちゃダメなの?」

予想してもいないことを聞かれ、面食らった。そして、同時に怒りもわいてきた。

(当たり前だろ!)

そう言おうと、彼女のほうを向いたときの顔は、悪意があるようなそぶりはみじんもなく、ただ純粋に聞いているだけのように見えた。

「まぁまぁ、明生ちゃんも距離感近いし、高陽君もいいすぎだよ。」

「え、なにがですか?」

「あの、ぼく、次も授業なんでこれで失礼します。」

というと、立ち上がり、まだ食べかけのうどんを返却口に返しその場を去った。

(当たり前だろ!)

またそうつぶやく。

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