表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愉快なうさぎと孤独なカメ  作者: LOD
step1:スタートライン
4/5

一七時三〇分。家に帰るともう母はもう帰宅していた。

「ただいまー。」

「お帰りー」

とリビングから声がする。

「どうだった、大学」

「普通」

「普通って何よ、普通って。」

「新歓で声かけられた。」

リビングにあるソファにどさっと腰掛けた。何もしていないのに、予想以上につかれていたようだ。

(あんなに走ったの久しぶりな気がする。)

「へぇ、そうなの。何のサークル?」

「社交ダンス」

「社交ダンス!?あんた、入ったの?そのサークル。」

「まだはいってないよ!」

どうして母親はこう根掘り葉掘り聞いてくるのだろうか、思いつつ、

「見に行っただけ。」

「へぇー。どうだった?」

「すごかった。なんていうかすごかった。先輩方が綺麗で、かっこよかった。」

そういった後、返事がなく、沈黙が続いたため、ついていた夕方のニュースから目をそらし、キッチンで料理をしていた母親のほうに目を向けると、僕のほうをまじまじと見つめていた。

「何?」

「いや、あんた入るんだ、そのサークル。」

「は?まだ決めてないよ。なんでそうみんなして決めつけるんだよ。」

「別に決めつけてはないじゃない。でも、スポーツとか部活とかのこと、そんなに話すのあんた初めてじゃない。」

そういわれて初めて気づいた。確かにそうかもしれない。なにかに興味を持ったことはない。というかむしろ嫌だった。どうして今回は。

「着替えてくる。」

とぶっきらぼうに言うと、バッと立ち上がって、「そんなに怒らなくてもいいじゃない」という母親の声を無視し二階へと上がっていった。

どうしてみんな、そんなに入れたがるんだ。どうして決めつけるんだ。なんだっていいじゃないか。ほっといてくれないんだろうか。

来ていた服を乱暴に脱ぎ捨て、ベッドの上に放り投げた。寝巻に着替えたが、さっき怒ってリビングを後にしたため、ばつが悪く、しばらくたってから降りることにした。

(そうだ)

スマホを取り出し「社交ダンス」とネットで調べてみた。そして、一番上に出てきた、ボランティアによって作られている、多言語の百科事典のサイトを開く。

そこで分かったことは、主に現在、社交ダンスと呼ばれているものには、主に二つがあり、スタンダード、ラテンで大別されているようだ。それぞれ五種目ずつスタンダードには「ワルツ」「タンゴ」「ヴェニーズワルツ」「スローフォックストロット」「クイックステップ」、ラテンでは「チャチャチャ」「サンバ」「ルンバ」「パソドブレ」「ジャイブ」があるらしい。

社交ダンスの中でも、競技として行うものを「競技ダンス」というのだそうだ。

(たしか、競技舞踏研究会って言ってたっけ)

その他にも、アルゼンチンタンゴ、サルサなんてものもあるらしい。だがそういったものは競技の中には取り入れられてないようだった。

そうこうしているうちに

「ごはんいつでもたべれるわよー」

と階下から声がしてきた。スマホを閉じ、机において、降りて行った。

僕がリビングに着くと母親はビールを飲みながら、もう先にご飯を食べ始めていた。

「いただきます」

バラエティ番組を横目に食べ始めた。些細ないざこざだったが、それでも食卓には気まずい空気が流れていた。ただ、ただ、ごはんをたべていた。すると、

「まだ置かず残ってるから、食べるなら食べてもいいよ。」

「うん」

それきりまた会話が続かず、テレビから聞こえてくる笑い声が嫌に大きく聞こえた。すると、唐突に

「ごめんね。さっきは。」

「いや、別に。」

「嬉しくなっちゃって。」

「嬉しくって?」

「お父さんと母さん、小さいころに、高陽にいろんな習い事させてたじゃない?それで、いろいろ勝手に決めちゃって、何にもやりたくなくなっちゃったみたいだから。」

「いや別にそういうわけじゃない。」

そういわれ内心ドキッとした。実際親に反抗心がなかったわけではない。ただ人の言うことを聞くことに苛立ちを覚えるのだ。

「私たちの家はさ、両方貧乏で、好きなことを何一つさせてもらえなかったの。お父さんも本当は大学に行きたかったんだけど、いけなかったし。私も。だから、子供のやりたいことは何でもさせてあげようってそう決めていたのよ。だからつい、いろんなことやらせちゃったの。」

「そうなんだ」

(そんなこと聞かされてどうしろというのだ。)

「別に、気にしてないよ。」

母さんはまた何か言おうと、口を開きかけたが、そのまま何も話さなかった。

食事が終わり、食器を片付けまた二階に上がっていった。

部屋に入り、スマホを見ると、SNSでメッセージが来ていた。

アプリを開くと、柏木徹その人だった。

「高陽君、こんばんは!今日は楽しんでもらえたかな?明日は一七時からステップ講習会をやるよ!簡単な社交ダンスをやってみない?場所は今日と同じ大講堂でやるよ。」

スマホを机において、また階下に降りて行った。そして、

「母さん、明日少し遅くなる。」

目を丸くした母さんの顔を見て、心の中でにやりとした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ