出会い
最近取り上げられることが多くなってきた、社交ダンス、競技ダンス。それに関するお話です。長くあたたかい目で見ていただけると助かります。
初期の話やめました。書き直します。
布団から起きると、凍えてしまうような寒さがからだを刺す。道路わきには、新品の真っ白なシャツを着たガキ大将が座っていて、反対に、道路には、汚れたいじめられっ子が横たわっている。そんな季節の残る北海道の4月。一昨日、入学式も終わり、今日からが大学生活のほんとうの始まり。急いで、寝巻の上からフリースを着て、階下のリビングへと向かう。リビングに続くドアを開けると、部屋はストーブで暖められ、とても居心地がよかった。
「高陽、今日何時から?」
「えーーと、十時から」
まだ、完全に回り切っていない頭で、今日のスケジュールを思い出して答えると
「私パートでもう出るから、ストーブをきるのとお風呂を使ったら換気扇を付けるの忘れないでね。」
「わかってるよ」
自分がし忘れることがあるから、言われてもしょうがないのだが、こう毎日毎日いわれると、さすがにsすこしだけ癪に障る。
「何その返事」
「ごめん、わかったよ」
こういう時は素直に謝るに限る。
「じゃ、いってきます。」
「いってらっしゃい。」
時間を見ると、八時十五分、意外と時間がなかった。
毎朝の日課のココアをお湯で溶かして作り、途中まで飲み、頭が少しさえてきたところで、シャワーを浴びて、髪を乾かしながら、残ったココアを飲み干した。
身支度が全部済んだ後に、ストーブを消して、靴を履いて、家を出た。
外は、曇っていた。それも白ではなく、重い灰色だった。やはり外は寒く、コートを着ていてもその寒さが身を包んでいく。それに反して、風はやさしく、そして運んでくる香りは甘ったるいような、なにか、生ごみに近いような匂いを運んでくる。この時期の北海道はまだまだスノーブーツが欠かせない。昼間に溶けた雪が、夜になると再び凍って、地面は滑りやすくなっているうえに、富美恩田雪がギザギザと山になり、それが、夜に凍るため、雪がとがって剣山のようになっている。なるべく剣山を避けて歩く。しかし、滑らかになっている道は、昨日の暖かさのせいで、いつもよりいっそう地面が滑りやすくなっている気がする。必死に歩くがなかなか前に進まない。
地下鉄に通じる階段に着いた時には、少し汗をかいていたが、下から吹いてくる風で、その汗は引いていった。ホームに降りていくと、カバンから本を取り出し、リュックを足元に置き、ベンチに座って読み始めた。本を読んでいるときは、何にも邪魔されなくていい。どんな悩みからも解放される。本を開き、文字が目に飛び込んでくる。一つ一つの文字を観察するように、読みすすめていく。次第に本の外側の世界が真っ暗になり、別世界が頭に浮かんでくる、情景や、人の形、表情さえも。
「・・・アが閉まります。」
その音で、目を上げると、電車のドアが閉まるところだった、慌てて立ち上がり乗ろうとして、足元に置いていた、リュックを蹴ってしまった。電車は無慈悲に、ただ定刻通り、出発していく。時計をみると、九時二十分。大学までは乗り換えを含めて四十五分。遅刻だ。
乗り換えのホームまで走れば、何とか乗れるか?携帯を取り出し、時刻表をネットで検索してみる。そして頭で計算すると、何とか五分は短縮できそうだった。初回の授業には遅れたくない。人は社会の中に異物が入ると、奇異の目を向けてくる。耐えられない。何としても間に合わせなければ。そう思い、リュックに本をしまい込み、電車を待つ列に並んだ。先ほどまでとこうも違うのかというほど落ち着きがなくなってしまった。待ち続け、ようやく電車が来た。ドアが開くなり、すぐさま入り込み席に座る。
「発車するまでしばらくお待ちください。」
人のことを待たなかったくせに、今度は待てとは何事か!と、どうしようもないいきどおりを感じつつ、今か今かとその時を待つ。ようやく出発した時刻は定刻通りだった。
(地下鉄っていうのはどうして、一駅ずつ止まるんだ。快速があってもいいじゃないか)とぶつくさと頭で考えても、一駅ずつ地下鉄は進んでいく。
そうこうしているうちに、降りる駅の一つ前の駅まで来た。ドアが閉まるなり、リュックを背に乗せ、立ち上がりドアの前まで行く。乗り換えるホームに一番近い階段は調べていた。電車が到着し、ドアが開くと同時に飛び出した、何人かとぶつかりそうになるが、それでもスピードは緩めない。乗り換えのホームにめがけて走っていく。ホームにつく寸前に出発を知らせる音が鳴った。そしてなり終わった瞬間に駆け込んだ。背中でぷしゅーという音がして、後ろに押されるようなエネルギーが体にかかる。
(間に合った・・・)
「駆け込み乗車は危険ですのでおやめください。」
息を整え、二駅先に備える。全身から汗が吹き出し、額から汗が落ちてくのもわかる。
そして気づく、周りがちらちら自分を見ていることに。
きづかないふりをしながらいまや、全身汗でぐっしょりになったコートを脱ぎにかかる。。コートの下にはセーターまで着こんでいる。ズボンも冬用の厚手のもので、汗で引っ付いてくる。しかし、地下鉄の上にある小窓が開いており、そこから車両内に風が吹いてくる。それがとても心地よかった。そう思うのもつかの間、もう降りる駅が迫っていた。再び走る心の準備をする。今度はホームに人がいなくぶつかる心配もなくただホームから改札へと突っ切り階段を上がり大学構内を目指す。大学は地下鉄と直結になっており、駅を上がるともうそこは大学構内だった。
しかし、そこであることに思い至る。教室の位置がわからない。時計を確認すると、時計は九時五十九分になろうとしていた。近くにあった案内図を見るが、建物の位置しか書いておらず、教室のことは書いてない。とりあえず近くの建物に入って案内図を探すが見当たらない。そこで思い切って、
「すいません。B201教室ってどこですか?」
近くにいた警備員に尋ねると、
「それなら隣の建物の反対側の入り口の近くにある階段を上がって、左に行けばあるよ。」
「ありがとうございます」
最後まで、警備員には聞こえたがわからないが、そう言い捨てて、三度はしった。
九時十分。教室の中からは、女性がマイクを使って話している。それを僕はドア越しに聞いていた。
(最悪だ・・・)
立ち尽くし、奇異の目にさらされても入るべきか、初回はオリエンテーションって書いてあったし、この授業とるって決めたわけじゃないし、入らなくてもいいかな。入らなければ、大学で九〇分の暇ができ、次の授業まで時間をつぶさなければいけないなどと考えていた時、後ろから肩をトントンと誰かにたたかれた。
後ろに立っていた男は身長180cmはありそうで、僕よりも頭一つ分ほど大きかった。
「ねぇ、君さっき、地下鉄で爆走してた人でしょ」
顔が熱くなるのをかんじつつ
「はい。何ですか?」
いかにも気にしていないという風に答えた。
「あぁ、ごめんごめん、怒らせるつもりはなかったんだけどさ、教室の前にいるところを見るに、教室に入る気はないのかなと思って。」
返す言葉はなかった。
「入らないんだったらさ、部室行かない?」
「え?」
「競技舞踏研究会の部室」
「え?」
これが、柏木徹との最初の最悪の出会いで、思い描いていたより、楽しかった、大学四年間の一日目だった。