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お守り騎士団シリーズ

スレイ君の就活事件簿

作者: しろっくま

スレイ君、ただいま就活中。第六騎士団に入団するまでのお話し。

 全く、親父は何であんなアルベリア国の奴らにヘラヘラできるんだ? あんだけの嫌味言われたら、こっちからも言い返すくらいの一言があってもいいだろうに。俺、今にも殴りそうになる自分の手を止めるのに、必死だったもんなぁ。


 やっぱ親父の仕事手伝うのは無理。今日だけお試しで外交補佐の仕事に付いて行ったけど、あんな腹芸毎日やってたら、親父より先に俺がハゲるわ。


 いい歳だから早く仕事しろって言われてるけど、近衛にしても外交補佐にしても、いまいちしっくりこないんだよなあ。まして宰相補佐なんざ、ハッキリ言って気が狂うかと思ったよ。俺に書類仕事させるなって……


 働くことに関してまだまだ甘いって思うんだけど、仕事するからには、妥協したくないんだよな。

 いっそ地方行って、何年か羽伸ばしてくるのもいいかぁ……


 最近のお気に入りの酒場で、給仕のお姉ちゃんに愛想を振りまきながら、ワインの追加をお願いする。

 オーダーしたワインを受け取り、ふとお姉ちゃんの後ろを見ると、その視線の延長上にさっきのアルベリアのいけ好かない野郎がどっかの貴族と一緒に飲んでいるのが見えた。


 うっへえ、酒が不味くなる……早く帰ってくれないかなぁ。

 と思っていたら、意識がそっちに向いているからか、二人の会話が漏れ聞こえてきた。


「……では明後日の夕方、場所はアルベリア近くの村で。荷馬車ニ台分は剣と鎧を集められるだけと、その他の武器と火薬、残り一台分は金塊を載せたものをご用意致します」

「うむ、くれぐれも他の貴族に悟られんようにな」

「はい、これでエリン公国は形勢逆転、ひと溜まりもありませんなぁ」


 二人が仄暗く、忍び笑いしてる様子が見てとれる。


 これって……賄賂だよな。武器を横流しするつもりか、あの貴族!

 とんだ犯罪現場に居合わせちまった動揺が走ったが、こうしちゃいられない。アイツ取り押さえて止めさせなきゃ。

 慌てて立ち上がろうとすると、左肩を強く押され、椅子に無理やり座り直させられた。


「いやぁ、待たせたなぁ、コイツの便所が長くてなあ、なかなかこっちこれなかったぜ」


 顔を見ると全く知らない奴らが三人、俺の前に座りニコニコしながら酒を注文し始める。


 なんだよ、コイツら、俺はあの貴族を止めなきゃいけないんだから。

 押さえられてる手を払い、立ち上がろうとすると、肩を押さえてるヤツが椅子を動かす素ぶりで俺に耳打ちしてきた。


「そのままっ。アイツらをもう見るな。このまま行かせても大丈夫だ、だから目線をこのテーブルにおけ」


 耳打ちした男はテーブルの真ん中を指差しながら、尚も続ける。


「お前、ラングダウン公爵の息子か? 丁度いい、あとで親父さんに使いを頼む」


 何言ってんだか、と思いながらマジマジっと見ると、どっかで見たことがあるような顔だ。誰だっけ? んー……と思い出してるうちに、アルベリアの野郎と賄賂貴族が酒場を出て行ってしまった。


「あっ、逃がしちまった……お前ら誰だよっ。賄賂の話しの現場だったんだぞ。なんで放っとくんだよ!」

「今はダメだ。確実に身動き取れないところで捕まえる。だから騒ぐな」


 怒りを抑えられないまま、酒を一気に煽ると、注文を入れていた男が、肩を押さえた男に向かって話しかけた。


「団長、公爵家の人間なら内情話したら協力してくれるんじゃないっすか? 今回は結構大掛かりだから、取り逃がし防止のための人手が増えるならありがたい」

「ふうむ、それもそうだな。正義感もあるし……ただ部外者入れるのもなぁ。お前、腕っぷし強いのか? 今の部署どこだ?」


『団長』さんは少し考えてから俺に質問してきた。


「強えぇのかどうかは知らんよ、ただ近衛に入れるくらいの技量はある。今は仕事はしてない、まぁ、自分探しってとこかな?」


 俺以外の三人は同時に吹き出して大笑いしている。なんだよ、悪いかよっ。


「なるほど『自分探し』ねぇ……お前面白いな、俺んとこ来ないか? スリル満点の『自分探し』できるかもよ」

「へぇ、『団長』さんとこはスリルがある仕事なんだな。まあ考えとくよ。そう言えば、親父に伝言か何かあるんだろ?」


 ああ、と言って、『団長』さんがサラサラと手紙を書いて最後に封のために蝋を垂らし、指輪で印を押してから俺に渡してきた。


 封筒をもらい、それを指先で受け取り、シャッと振ってから席を立つ。


「じゃ、確かに預かった。キチンと親父に渡すから信用してくれ」

「ああ、よろしく頼む」


 指輪で封かんするような手紙だ、たぶん重要な内容が書かれてるんだろなってのは分かった。俺は急ぎめに家へと足を運び、親父の帰りを待った。


 待ってる間、何気にその封筒を眺めると、どっかで見た紋章だってのがわかる。少し考えてハッと気づいた。


「これって……王家の紋章じゃないか……アイツ王族? あっ……だ、第三王子かっ!」


 瞬間、ぞわっと鳥肌がたった。

 俺、何か不敬なことしてたよな。タメ口だったし、王族に対する態度なんかひとつも取ってないぞ?

 呆然と立ち尽くしてる間に親父が帰ってきた。蒼ざめた顔のまま持っている手紙を渡す。


「ん? スレイ、どうした? 今日のアルベリアの使者はあんなイヤミな奴だったが、いつもはあそこまで酷くないんだぞ? まあ、忍耐は必要だがな」


 と言ってハハハと軽快に笑った。そうしながらも、封筒の印を見ると、キリリと表情を引き締める。中を確認すると親父らしからぬ黒い笑みを浮かべながらこちらをチラッとみる。


「お前、これをどこで預かった?」

「街の酒場だよ、アルベリアの使者と貴族が悪巧みしてたんだ。親父も関係してんのか?」

「ああ、明後日全て解決するはずだ。今まではアルベリアに下げていた頭を逆に下げさせる切り札を手に入れられるからな」


 嬉しそうにそう言って、俺の肩をポスンと叩くと上機嫌で部屋へと消えていった。

 だから、詳しい話しを教えてくれよ。

 とりあえず明後日、アルベリア付近の村で何が起きるのか確かめなきゃ納得できない。


 絶対自分の目で確認してやる。

 心に誓ってその日は眠りについた。



 次の日、食堂で朝食を摂っていると親父から声がかかった。何ごとかと首を傾げてると、第三王子についての印象を聞かれた。


「んー、そうだな、飄々としてあまり王族のオーラは出してなかったから気づくまで時間がかかったよ。でもあの目は凄いな。人を従わせる目を持ってる。俺に任せろって感じ? ああいう人のいる仕事場って下のモンは安心して働くことができると思うな」


 そうか、と呟き何か考えているようだったが、その後更に言葉を交わすことも特になく、そのまま仕事に行ってしまった。


 今日の俺はちょっとやる気になっている。アルベリアが何で武器欲しがってるのかについて、自分なりに詳しく調べてみようと思ってるからだ。明日は絶対に現場に行ってやる。


 アルベリア国とエリン公国はお互いに資源の利権争いになっていて長年睨み合いが続いてるらしい。このバランスが崩れると一気に戦争になり、そうなった場合、グリフォード王国も争いの渦中に巻き込まれることは必至になるようだ。


 あの貴族が武器の横流しをすれば、仮に戦争して終結しても責任をなすりつけられることもあるワケだよ。こりゃ大変だ。


 ああ、だから親父は波風立てないような対応しかしなかったんだな。下手に動くと警戒して取り引きが流れる可能性も増えるのか。いい気分にさせて、向こうの好き放題させる気だったのな。でもストレス溜まる仕事なのによくこなしてるよ。ちょっと親父がカッコよく見えてくるわ。


 調べものは思った以上に時間がかかったらしく、あっという間に日が暮れた。いよいよ明日だ、早めに向こうの村に着いて、それぞれの動きを見せてもらおう。



 ******



 よし、この位置からだったら村の広場が一望できるぞ。ただ……少し遠いな、声までは聞こえないか。アルベリアの奴らが来たらもう少し近くへ移動するかな。


 ガラッガラガラ……

 荷馬車が重そうにゆっくりと三台入ってきた。おっ、そろそろだな。奴らはどこだ?


 辺りを見回してると、また肩をガシッと捕まれた。振り返ると第三王子とこの間の酒場の連中だ。思わず直立不動で丁寧に挨拶しようとしたら制された。

 今は第六騎士団として動いてるから、特別なことはしなくてもいいんだそうだ。へぇ、キチンと立場を使い分けてる。面白えな、この人。


 そんなことをしてたら、アルベリアの使者とこの間の貴族が何やら取り引きして、荷物を引渡しそうとしている。

 ハッとして動こうとするが、またもや肩を押さえられて飛び出せない。

 振り向くと「少し待ってろ」と言われたので、その場を眺めるだけにした。


 その言葉と同時くらいに、村のあちこちから近衛の制服を着た騎士たちが駆け寄って一気に捕縛、あっという間に事態が収束をしたようだった。


 それを確認し、再び王子をみると、他の団員たちと一緒に握手をしてその場を離れようとしてるとこだった。


「あのー、何で捕縛に参加しないんですか? 手柄は王子のものでしょう? まあ、近衛が捕縛するのはわかるんですが、あの場にいるくらいの貢献してますよね?」


 王子はフッと小さく笑ってこう言った。


「俺たち第六騎士団は表向きは街の巡回が基本だ。それ以外、何もやってないと見せかけて、様々な情報を集めて国内外の不穏な動きを未然に防ぐ役割りを担っている。だから捕縛は第一騎士団に任せればいいんだよ」


 最後に認めてもらえなくても満足なのかな? 疑問に思って質問してみた。


「目立って顔覚えられたら、次から仕事ができなくなるだろ? この仕事やってると人間のいろんな顔が見れるんだよ、表も裏も。面白くて辞められない。だから水面下で動くに留めてるってのがあるかな」


 なるほどな、事情がわかると途端に魅力的な仕事に思えてくるのが少し不思議だ。

 少しずつだが、この仕事なら俺も前向きになれそうな気になってきた。


「すみません、この間酒場で誘われた話しはまだ有効ですか? 有効だったら俺、第六騎士団で雇ってもらえませんか?」


 王子はニヤッと笑って俺に確認事項がある、と言う。何か、と尋ねたら、第六騎士団は貴族の評判が地に堕ちるらしい。それでも構わないのであれば喜んで、とのことだった。


 確かに、第六騎士団ってのは、噂では使えない貴族の溜まり場ってことになってるしな。しかも団長は何にもしない第三王子。

 団員たちはお飾り団長を仰いで、お守りをするだけってことになってる。

 それも内情を知ってしまえば、そんな噂なんぞクソ喰らえだ。

 何だか早くこの団で仕事がしたくてウズウズしてくる。

 俺は一度両手に拳をギュッと握って軽く頷くと「よろしくお願いします」と頭を下げた。


 団長は満足した顔で俺に向き合いこう言った。


「ようこそ我が『第三王子のお守り騎士団』へ。俺の名は『ジェイク』だ。これから楽しい仕事が待ってるぞ? よろしくな、スレイ」


 俺は差し出された手をガッツリ握って固く握手した。この仕事なら、誇りを持って続けることができるかもしれない。


 この騎士団は団長の第三王子をお守りする場所ではないんだ。第三王子とともに国の『お守り』をする場所なんだな。


 面白い職場を見つけた喜びと、これから始まるスリル満点の仕事にワクワクしながら、団長と肩を並べて歩き出した。

たくさんの方々に本編お読みいただきまして、ありがとうございます。

番外編としてひとつアップしてみました。

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