フィフスグラウンド戦記外伝 黒死蝶9
部屋に入り、シャワーを浴びる。
ありがたい事に、この艦は各々の部屋に簡易ではあるがシャワールームが備わっている。
他にも小さいながらキッチンやトイレもあり、生活するにおいて不自由は無い。
十分なプライベート空間となっている。
そして、クローゼットから取り出したカーゴパンツとシャツに着替えた。
首にバスタオルを巻いて、壁に取り付けてあるモニターの電源を付ける。
画面には現在位置や、天候など情報が流れ必要な情報が表示された。
普段と変わらない、日常。
空腹感を覚えて食堂に向かう。
いつも通り、券売機に個人用IDパスポートキーを差し込んで食券を取り出し、それをカウンターにいる調理員に差し出す。
暫く近くの席に着いていると、調理員が手際よくパスタを盛られた皿とスープを入れた皿、それと小皿にオレンジをトレイに載せて食券に印字されたIDを読み上げる。
俺はそれを機械的に受け取って、食堂の一番奥、壁際の座席に着く。
ここからだと食堂を一望できる。
空戦時でもそうだ。
見渡せる場所、尚且つ相手から見えにくい場所が良い。
そうして早速、口に運び始める。
と、視界の隅で見慣れた後姿を見やった。
後姿からでも分かる短い髪。
漆黒のショートボブ。
俺と同じくカーゴパンツとシャツを着こんでいる。
違うとすれば、生まれ持った体型ぐらいな物だろう。
小顔で整った顔立ちをしている。
そのせいで実年齢よりも若く見られる事が多いと言っていた。
俺はそのまま、パスタ麺をフォークで巻き取って口に運ぶ一連の動作を続ける。
「ここ、失礼します」
テルシアがサンドイッチが盛られたトレイを持って俺の真正面の席に座る。
「さっきは、あの変な事を言ってすみませんでした」
そうして彼女は空色の瞳を僅かに伏せて返事を待たず口を開いた。
「いいや、別に謝る事じゃないさ」
人参とタマネギのコンソメスープを飲みながら答えるのを見やって、テルシアもサンドイッチを口に運んでいく。
「にしても、またパスタですか?
確か昨日も、その前も、その前も前も、パスタを食べていましたよね」
「あぁ、そうだな。
メニュー表の真ん中の列の一番上だろう。
だからさ」
さらりと答える。
これは本音だ。
元々、食事に凝っている訳でも無く、好きなメニューがある訳でも無い。
兎に角、空腹感さえ消えれば何でも良かった。
「いえ、理由になっていないと思うんですけれど」
「まぁ、あれだ。
根本的には食べたいものが無い。
だから食べれれば何でも良いって事だな」
噛み砕いて答える。
「そう言うものなんですか?」
卵サンドを口に含んで彼女が首を傾げる。
「あぁ少なくとも俺は、な。
それより、お前はどうなんだ?
自分で作ったりするのか?」
「えぇ、勿論。
時には自分で作ったりもします。
が、材料がなかなか手に入らない事が多いのでこうしてここに来ているんです」
パックに入ったぶどうジュースを飲んで答えた。