フィフスグラウンド戦記外伝 黒死蝶8
「何だか暗いですね。
もう少し明るい最期にして下さいよ。
そうですね。
例えば」
軽く顎に手を添えて考え込むテルシア。
どんな事を考えているのだろうか。
そうして、一つ頷いた後、憂いを含んだ表情に、何処か優しげなものを含ませたテルシアの瞳がこちらに向けられ、今度は俺を観察する様に見やって。
「いえ、何でもないです」
「何でもない事は無いだろう。
その表情は何か隠している時のものだ」
「いいえ、何も隠していません」
「いや、隠している。
お前は正直者だからな。
自分が思っているよりも嘘を言うのが下手なんだ」
「下手じゃありませんよ。
これでも私、訓練学校時代には小悪魔と呼ばれていたんですから」
「それは自慢なのか?」
「も、勿論です。
要するにそれほど嘘が上手いと言う事です」
僅かに、声を上ずらせながら答えるテルシア。
「どうだかな」
言葉の代わりに彼女は一つ大きく咳払いをして立ち止まる。
「それでは、今日もお疲れ様でした」
通路の分岐点。
ヴューレのパイロット用の区画に差し掛かる。
「あぁ、じゃあな」
軽く手を振り俺は自室へと向かって歩き始めた。
そうして、2、3歩進んだ所で、テルシアが独り言のように言う。
「どちらにしても、ここにいる限り、私達は死に方を選べません」
振り返ると、テルシアは立ち止まっていた。
ここ、と言うのは戦場の事なのだろう。
「貴族であっても、平民であっても、きっと同じでしょう。
ですから、せめて」
そう続けて言うと振り返る。
「私は綺麗な生き方をしたいですね」
何故、この時彼女がそう言ったのか。
つい先ほどの会話で、ありもしない未来を想ったのか。
或は、これまで失った仲間達が撃墜されていくのを見やってそう感じたのか。
「と、言う訳で隊長も、もう少し品格がある様に努力してくださいね」
ここで毒舌染みた事を言われるとは思わなかった。
だから俺は、少し考えつつ、苦笑を浮かべ言い返す。
「品格が無いのはお前も同じだろう」
「そんな事はありません。
私は品行方正ですから」
そう言って、そそくさと歩き始めた。
からかいたかっただけなのかも知れない。
そう思いつつ、俺も同じように通路を進んで行った。