フィフスグラウンド戦記外伝 黒死蝶7
「ね?
綺麗な人でしたでしょ?」
ライトフライが得意げに言う。
「ね?
じゃなくて、冗談抜きで自分が所属する騎士団の団長と副団長の顔ぐらいは覚えておけよな」
「うーん。
私、記憶力悪くって」
恐らく覚える気は皆無なのだろう。
舌を出しておどけて見せる。
「悪くても、だ。
兎に角、明日までには覚える様に。
宿題だからな」
「えぇー。
めんどーくさいんですけれど!」
「面倒臭くても、だ」
そう言い聞かせる様にライトフライに言って、通路を歩き始める。
戦場の空域と同じようにテルシアが横を歩く。
まるで彼女の定位置であるの様に。
「感じの良い人でしたね。」
そうして不意に口を開いた。
こういう時には、必ずと言って良い程、感想を述べるのが常であった。
「あぁ、そうだな」
「皇王国軍にあぁ言う人ばかりだと良いのですけれどね」
恐らく本心だろう。
俺もそうであって欲しいと思うのだから。
とは言え、実際はあぁ言う上官と言うのは珍しい。
「まぁ、現実は厳しいだろう。
人格者もいればその逆も然りだからな」
そう言い終わると、テルシアの横を見やる。
相変わらずの無表情。
「それより、お前もあんな表情するんだな。
少し驚いたぞ」
「あんな表情ってどういう意味ですか?」
「どういう意味って、そのままだ。
今の自分を鏡で見てみろ。
直ぐに分かるさ」
一瞬、立ち止まるテルシア。
彼女の瞳の奥から抗議しているのがひしひしと伝わってくる。
「酷い人ですね。
まるで私が無愛想でいつも無表情みたいじゃないですか」
「みたいじゃなくて、そうなんだよ。
特にお前はな」
「本当に失礼な人ですよね。
そういう悪口はせめて本人がいない時に言って下さいよ」
「いや、悪口じゃない場合もある」
「なんですか?
それは毒舌のつもりですか?」
負けじとテルシアは言う。
「いや、真剣な話だ。
戦場では感情に流されない者ほど長生きするってセオリーだからな。
俺の見た所、お前は戦場では死なないだろうな」
立ち止まって、テルシアの顔を観察する様に見やる。
「そうだな。
思うに、お前は皺くちゃ婆さんになって一言もしゃべらず黙ったままベンチに座り込んで死んでいくみたいな。
そう言うのが似合うんじゃないか」
そう言いつつ、再び歩き始める。