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フィフスグラウンド戦記外伝 黒死蝶6

「恐れ入ります」

一礼して、一同は姿勢を正す。

「ええっとー。

あなたが、クリストロ・ヴェルトさんですね?」

と、アスティーがまじまじと顔を覗き込むようにこちらを見やる。

皇王国軍の中でヴューレの操縦に関しては右に出る者はいないと謳われるアスティーではあるが、問いかける口調は親しげな印象を感じる。

皇王国の厳しい階級社会において、自分よりも下位の者であれば、人間扱いしない者さえいるにも関わらず、丁寧に、しかもこうして親しみを感じさせる人物は少数派だ。

また、例え上位であろうとも、それに伴った技量と経験を持ち合わせた者はほぼ皆無に等しいだろう。

その中でも、与えられた階級に伴った技量と経験を併せ持ち、一つの騎士団の副団長が部下に対してこうも親しげに言うのは一際、異彩を放っている様にも見えるかも知れない。

「はっ、黒の騎士団所属、クリストロ・ヴェルト。

現在、小隊長を務めさせて頂いております」

とは言え、いや、むしろそれだからこそ、尊敬を込めつつ答えた。

「そうですか。

で、そちらがハレム・テルシアさん」

俺の横にいるテルシアに向き直してアスティーは口を開く。

「同じく、黒の騎士団所属、ハレム・テルシアです」

テルシアの声は感情を感じさせないものだったが、いつもよりも何処か柔らかげな表情を浮かべている。

普段の無表情ばかり見ているものだから、こんな顔をする事もあるんだなと思う。

何か納得したかのように、アスティーは一つ頷くと両腕を前に寄せて、細い指を組んで口を開く。

「お二人の活躍は、私達、黒の騎士団にとって大きな物となっております。

少し耳にしたのですがお二人は『黒死蝶』と呼ばれているそうで」

「お恥ずかしながら」

「いえ、全く恥ずかしい事など全くありません。

それより、名誉な事だと私は思いますよ。

それに、あなた方の活躍は他の皆さんにとって勇気を与えていると思うのです」

「恐れ入ります」

「そこでなのですが」

と、一区切り入れる様にアスティーは続けて言った。

「これはあくまで私個人からのお願いであって、軍としての命令ではありませんが、あなた方を私の指揮する部隊に迎えたいのです」

思いがけない申し出に、戸惑いつつ、テルシアが言う。

「アスティー様の部隊と言うと、黒の騎士団の中でもトップクラスの部隊ですよね。

ありがたい申し出だとは思うのですがそんな部隊に私達が入るなど畏れ多くて出来ませんよ」

「そう、ですか」

アスティー特有の真紅の瞳を伏せてアスティーは答える。

本心から残念そうな印象に目を背けてしまいたくなる。

「申し訳ありません」

付け加える様に言うと、彼女は朗らかに笑みを浮かべて言う。

「いいえ。

こちらこそ、無理なお願いをしてしまった様で申し訳無いです。

でも、もしも、気が変わる事がありましたら、是非声を掛けて下さいね。

私はあなた達を歓迎しますので」

そう言って、律儀に頭を下げると、通路の奥に向かって歩き始めた。

「はい、勿論。

その時は宜しくお願いします」

アスティーの姿が見えなくなるまで敬礼をして見送るのだった。



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