フィフスグラウンド戦記外伝 黒死蝶59
俺の機体は限界が近いらしい。
レーダー情報を映すモニターには何も映らず、小型モニターからは僅かな文字の羅列が途切れ途切れに流れている。
と、黒煙を上げながら複雑な曲線を描く2つの機体を見出す。
漆黒の機体と、白銀の機体だ。
お互いに、近いダメージを受けているようだ。
俺は機体を加速させる。
だが、思う様に速度は出なかった。
前方の空域ではテルシアと、『白い鳥』がレーザーを放っている。
シールドの耐久値を超えたのだろう。
青白い閃光が、お互いの機体へ命中する。
更に煙を吹き上げて、カウルや、中のコードが墜ちて行く。
「テルシア。
すぐに向かうからな」
ヘルメットの通信機はまだ機能しているのか、分からなかった。
それでも、せめて声が届けばと俺は言う。
ひどく身体が重い。
まるで血液が鉛にでもなったようだ。
右手の感覚も無い。
左目は閉じたまま開く事が出来ない。
再び、テルシアと『白い鳥』が宙で交差する。
と、刹那、『白い鳥』が一気に機体を翻し、青白い閃光を放った。
吸い込まれる様にその閃光がテルシアの機体を貫く。
一瞬の出来事だった。
が、俺にはそれがその1秒1秒が増幅されて見えた。
ノイズまみれの雑音が通信機を通じて聞こえて来る。
その中に、聞き慣れた声が混じる。
「ごめん……なさい……。」
その瞬間、テルシアの僅かに潤んだ空色の瞳が、俺の方へと真っすぐに向けられている事に気が付く。
刹那。
テルシアの華奢な身体を炎が包み込み、機体が吹き飛んだ。
そのまま何度か爆発を繰り返して、雲の中へと黒い煙の尾を引いて消えていった。
嘘……だろ。
と、言うより、信じたくなかった。
これが悪夢なら、どれ程救われただろう、と思った。
だと言うのに、激痛が否応にもこれが現実なのだと告げている。
テルシアと俺は約束をした。
何と言っただろうか。
『どちらか片方が撃墜されてしまった時には、全力で逃げる事。
これをお互いに約束しましょう』
いつもならば、無表情のテルシアがこの時だけは、真剣さと必死さを交えて言った言葉が蘇る。
瞬時に機体を旋回させる。
そしてスロットルを捻る。
個人的な感情は持つな。
そうした者ほど早く墜ちて行った。
感情を捨てる事が、生き残る術だと信じた。
だと、しても。
救いたかったのだ。
せめて、この世界中の中で一人ぐらいは。
このくそったれな戦争の中で、一人ぐらいは。
でも救えなかった。
助けられなかった。
これに意味があるのかと問われれば、俺は答えるだろう。
分からない、と。
だから、俺がこれからする事は。
恐らく、愚かしい事なのだろう。
醜い事なのだろう。
だが、それでも良い。
むしろ。
それだからこそ良い。
機体を翻す。
『白い鳥』は、黒煙を上げながら静止しているのが見える。
ヘルメットを投げ捨てる。
そして、スロットルを思い切り捻り込んだ。




