フィフスグラウンド戦記外伝 黒死蝶55
翌日も周辺の空域の大規模な索敵が行われる。
俺達は格納庫でその準備に勤しんでいると、レオが声を掛けてくる。
「お二人さんよ。
ちょっと見てみろ。
さっきあのおチビちゃんが飛びかけていたんだぜ」
格納庫の機材置場に置いている巣箱の近くの床で、黒い小鳥は羽をばたつかせている。
世話をしないと公言している割に、レオは、小鳥の様子をよく見ている。
それも俺たち以上にだ。
案外、気に入っているのかも知れない。
「上手くいけば、今日あたりに、飛べるかも知れんな」
レオが言うと、テルシアは床に居る小鳥に駆け寄って、観察する様に見やる。
「うーん。
だと良いんですけれど、私としたら、少し寂しいですね」
「何故なんだ?
喜ぶべき事じゃねぇのか?」
不思議そうに言う腕を組むレオ。
「いえ、この子をここに持って帰って来る時に決めていたんですけれど、ちゃんと飛べる様になったら、元居た場所に帰そうかなと考えているんです。
いつまでも狭い、格納庫の中と言うのも可哀想ですし」
「そうか。
まぁ、とは言え、まだまだ先になるだろうよ。
飛べると言っても、僅かに浮く程度だからな」
「そう、ですね」
一瞬、空色の瞳に寂しさを滲ませながら、テルシアは答えた。
「しかし、だ」
「何です?」
「ここを飛ぶようになったら迷惑でかなわんな。
もしも、機体に当たったりしたら、困る」
「大丈夫だと思いますよ。
ここを使っているのは私達だけですし。
ねぇ、隊長」
と、不意にこちらに声を掛けるテルシア。
「あぁ、多分」
そう答えて、俺は機体に接続してある端末に数値を素早く入力する。
「兎に角、俺は世話をする気はさらさら無いからな。
何かあっても、知らんぞ。
……全く、黒死蝶の面々は、自由気ままで良いな」
恐らく、皮肉のつもりだろう。
レオは人の悪い笑みを浮かべて、煙草を吹かした。
「そう言えば、レオさん。
一つ言いたいことがあるんですけれど」
そう前置きしてテルシアが言う。
「ここ、実は禁煙なんですよ。
知っていましたか?」
「あぁ、勿論知っているが……。
俺はヘビースモーカーでな」
そう言って、格納庫の奥へと引っ込んで行った。
「テルシア。
準備は良いのか?」
「はい、ある程度は出来ています」
「そうか。
まぁ、手は抜くな」
「勿論、分かっています」
そうして、再び作業に戻り始める。




