フィフスグラウンド戦記外伝 黒死蝶51
残り2機。
「隊長、このままでは間に合いません」
そうテルシアは言って、レーザーを放った。
まだ距離もあり、命中はしない。
その代わりに、『白い鳥』は機体を急加速させて、味方機の真後ろからレーザーを叩き込んだ。
いくらシールドを展開しているとはいえ、そのエネルギー以上の負荷を与えられると、貫通してしまう。
「来るな!」
味方機から悲鳴交じりの通信が聞こえて来る。
まるでそれを弄ぶように、『白い鳥』は閃光を叩き付け確実に負荷を掛けて来る。
「奴ら、遊んでいるな」
これは明らかな侮辱だ。
或は、『白い鳥』なりに、こちらの感情を逆なでさせて、冷静な判断能力を奪おうとしているのかも知れない。
「くそったれめ!」
そう叫ぶ味方機は、一気に機体を翻した。
一矢報おうと反撃に出る。
残っている2機共が瞬時に反転し、照準を『白い鳥』に向けようとする。
やめろ、と言おうとした刹那。
彼らの機体に青白い閃光が迸る。
動力部を貫通させられたのだろう。
次の瞬間、火球となって、周囲の空に飛散して行った。
残り0機、全滅だった。
ほんの僅かの時間に16人分の命が散った。
『白い鳥』は大きく弧を描いて、ターンし、雲の塊に向かって飛翔していく。
どうする?
このまま挑むか、或は。
「隊長、私は」
確かめる様な口調でテルシアが言う。
その後に何を言うのか、分かっていた。
本心を言えば、俺はここで戦いたかった。
せめて、失った命の分の意味を見出そうと。
ここで、俺達が時間を稼いで、その間に他の味方が駆けつけてくれるならば、上手くいけば『白い鳥』を撃墜出来るかも知れない。
むしろ、それが最善であるようにも思える。
だが、他の味方は距離も遠い。
冷静に判断するのならば、ここは、戦わない事が正しい様に感じるのだ。
感情に流されるな。
それが生き残る術だ。
だから、俺は彼女の声を遮る様に言う。
「テルシア」
そう言って、スロットルを徐々に緩める。
彼女も同様に、減速し始める。
「戻るぞ。
良いな」
返事は無かった。
が、機体を翻した俺に追従している。
本心では無い、と言う事なのだろう。
『白い鳥』は既に雲の中へと消えていった。