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フィフスグラウンド戦記外伝 黒死蝶41

「生きて…いますね。

良かった」

そう言って、立ち上がったテルシアの両手に包み込む様に持っているのは黒い雛鳥だった。

耳を澄ませば聞こえる程の、弱弱しい鳴き声が聞こえる。

「雛鳥か」

そう言って、周囲を見る。

床には黒い羽が散らかっている。

そして、天井に近い場所に、半分崩れた鳥の巣を見付けた。

「巣から落ちたみたいだな」

「あの。

この子、持って帰っても良いですか?」

突然、何を言い出すのかと思えば、テルシアはじっと空色の瞳を雛鳥に向けて付け加える様に言う。

「かなり弱っているみたいですし、このままだとこの子、死んでしまうと思うんです。

それに親鳥も居ないようですし」

確かに、そうなのだろう。

親鳥も何処かに行ってしまったようだ。

或は、この黒い羽の散らかり様から推測すると、他の動物に襲われたのかも知れない。

とは言え……。

「いや、持って帰ったとして、ちゃんと世話出来るのか?」

「失礼な人ですね。

勿論、出来ますよ」

「餌はどうするつもりなんだ。

虫とか、そう言う物を食べる筈だろう」

「大丈夫です。

私、虫とか全然平気ですから」

いつもの無表情に、何処か真剣さが垣間見れる眼差しをこちらに向けてテルシアは言う。

こう言う時の彼女は頑固と言うか、融通が利かないと言うか、まるで子供に戻ったようになる。

空戦時には非常に優秀な技量を持っていると言うのに、こう言う時の子供染みた所は何とも残念だ、と思わざるを得ない。

恐らく、今、何を言っても聞かないだろう。

「俺は面倒を見ないぞ。

それでも良いな」

「問題ありません」

彼女は本気で連れて帰るつもりらしい。

真正面から俺を見やりつつ彼女は答える。

空戦時、相手に向けてレーザーを掃射する時に見せる表情そのものだ。

どうしたものだろうか。

それにしても、と思う。

昨晩の彼女の落ち込み様からは想像もつかない様子だと感じる。

もしも、今日も昨晩の様に何もかもを背負い込んでいたら、俺自身どうするか悩んだほどなのだから。

そうなった時、気の利いた言葉を思い付かないのは何とも情けないが。

それに比べれば、今のテルシアの、この状態は良い方だろうと思うのも事実だ。

それなら、いっその事。

「はぁ、分かった。

お前の好きにしろ。

もう一度言うが、ちゃんと面倒を見るんだぞ」

「勿論です」

そう答えると、彼女は壊れ物を扱う様に階段を下りて行った。

灯台を出て、すぐさま機体の収納スペースにハンカチで雛鳥を軽く包むと、素早く機体に跨った。

少しでも早く帰りたいのだろう。

そう思いつつ、俺も機体に跨り、起動ボタンを押し込んだ。


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