フィフスグラウンド戦記外伝 黒死蝶4
「あ、そう言えば、忘れていました」
と、突然ライトフライが言う。
「隊長と、テルシアさんを訪ねて来た方がいましたよ。
とても綺麗な方でした。
はっ!
ま、まさか隊長もバルさんと同じように影でナンパなる物をしていたんじゃ…。」
途端に、俺を見るライトフライの目が何処か蔑んだ目になっている。
横にいるテルシアもまた同じような表情でちらりとみやるし……。
普段無表情であるにも関わらずこう言う時だけ何故か、表情を変えて来るし。
在る訳無いだろ!と弁解したい所ではあるが、訪問自体が珍しい事だ。
と思いつつ、ここは連邦国領内で、一応は戦場である訳なのだから。
そうすると、軍関係者かと、予想を立てながら口を開く。
「お前のその冗談は兎も角として、名前は?」
「本当に冗談に聞こえますか?
嫌だなぁ、隊長」
と、意味深な視線を向けるライトフライ。
益々状況が変な方向に行っているではないか。
「ライトフライ!」
「はは、冗談ですよ。
えぇえぇ、冗談に決まっているじゃありませんか」
と、言う台詞と、顔の表情が全く一致していないんだが。
「えーと、ですね。
確かー。
名前は…。
ナーティ。
いや、違いますね。
ええっとー。
メリナ・ソーティ。
うーん、違うかなぁ」
ライトフライは頭を抱え込み振り子の様にポニーテールを揺らしながらながら思い出そうとしている。
と、言うか、名前ぐらいメモをして置くとか出来なかったのだろうか。
時折、思うのだが、ライトフライがこの皇王国軍に入れ、しかも軍の中でも一応はトップクラスのヴューレの操縦を持つと名高い黒の騎士団に配属されたのは何か書類上で間違えがあったのでは無いかと思える事がある。
バルも良い例だ。
時間があれば女性を口説こうとするし、と言うか口説いているし、一癖も二癖もある連中が多い気がする。
特に俺の周りにいる者は。
唯一と言っても良いのは一番常識があるのはテルシア位じゃないのかと思いつつ、彼女に視線を送る。
「なんですか?
本当に、ナンパしていたんじゃ」
相変わらずの無表情に戻ったのか、テルシアが言う。
「違うだろ。
何か、心当たりは無いのか?」
「そうですね。
…無いと思います」
「ふむ、どうしたものか……。」