フィフスグラウンド戦記外伝 黒死蝶39
雲一つない空。
まさに蒼穹だった。
背後を振り返る。
いつも通りテルシアが右後方にぴったりと飛翔している。
それを確認して、俺は機体を加速させた。
そのまま上昇させて行き、そして一気にスロットルを戻す。
勢いよくフットバーを踏み込んでハンドルとスロットルを捻り込む。
瞬時に機体が垂直に回転して、海面へ機首が向けられ、加速する。
視界が蒼穹から海面へと塗り替えられ、太陽光で海面がまるで銀色の粒子が煌めいている様に見えた。
再びフットバーを踏み込み、スロットルを逆に捻る。
途端に、機体が水平に戻り静止する。
「なるほど、良い機体だな。
そっちはどうだ?」
「こちらも良好です。
煉華と比べると、タイムラグが少なくなった様に感じますね」
「確かにな」
「これによって、何と言うか直感的な戦い方が出来る様に思います。
でも、何だか煉華の方がしっくり来ると言うか。
好きな機体だったので名残惜しいですね」
と、言う割には、先ほどから機体を左右に振ったりしている。
余程、新しい機体を気に入ったらしい。
「私の機体が楓華。
隊長が來羅。
この仕様書によると、私の機体はレーダーに映り難いそうです。
つまりは隠密行動に強いと言う事ですね。
そして、隊長の機体は……。
確か……。」
仕様書を見ているのだろう。
が、俺の機体の情報がテルシアの見ている仕様書に載っている筈は無いと思うのだが。
「遠距離狙撃仕様だな」
「そうです!
何だか、私達の戦いに合った機体ですね」
その通りだ。
テルシアの戦い方はどちらかと言うと相手との距離を一気に詰めて近距離からの戦いに秀でている。
勿論、遠距離からの狙撃も得意ではあるのだが、本人曰く、近距離戦の方が得意だと言う事だ。
俺はと言うと遠距離、近距離どちらとも自身はあるが、出来る事なら遠距離から攻撃する方が好ましい。
第一に生存率が高いからだ。
俺の戦い方としては生き残る事を最優先している。
勿論、与えられた任務を放棄する事は無いのだが。
近距離と遠距離仕様の機体の組み合わせは理想の物だろう。
そう思いながら、俺は頷く。
「アスティー様に感謝せねばならんだろう」
「そうですね」
「さて、もう少し飛ぶとしよう」
そう言って、再びスロットルを捻り込んだ。