フィフスグラウンド戦記外伝 黒死蝶35
量は多く無かった野菜サラダであるが、食べるのに時間が掛かってしまった。
皿の3分の1まで食べた所でテルシアが覗き込む様に見て来る。
「隊長。
あの、一つだけ良いですか?」
「なんだ?」
フォークで野菜を掬いながら答える。
「食べ物で苦手が物ってあるんですか?
と、言うよりありますよね?」
「勿論、あるに決まっているだろう。
野菜だ、野菜」
「へぇー。
で、その野菜の中でも特に苦手なのが…。
そこにあるセロリだったんですね?」
と、彼女の視線の先。
俺の目の前にある野菜の盛られた皿の端に集められたセロリを見やる。
「あぁ、だからセロリ以外を食べる事にしている」
「あまり好ましくありませんね。
食べ物の好き嫌いがあると、食事のレパートリーが減ってしまいますよ」
「ってまるで親みたいな言い方だな」
「事実ですもん」
「元々俺は、食べれれば何でも良いんだ。
だから、レパートリーが少なかろうと、減っていようとも関係は無いと思うんだが」
「まずはそれを変えましょうよ。
もしかしたら意外と美味しいかも知れませんよ」
「いや、それは無いと思うんだが…。」
「と、言うかセロリの何処が嫌いなんですか?
美味しいのに」
「それは勿論、香りと」
食感と、と言い掛けた時。
不意に呼び掛けられる。
見れば、ケインが朝食をトレーに乗せて向かって来る。
「今日は珍しく騒がしいじゃないか」
「好きで騒がしくしている訳じゃ無いんだがな」
「まぁ、時には騒ぐ事も必要な事だ。
それより、丁度良かった。
実は黒死蝶の二人に伝える事があってだな」
そう言って、テルシアの横の席に座る。
「実はついさっき、新型のヴューレが届いたんだ」
「ほう。
新型とは珍しいな。
連邦国との戦争も長期化して来ると言う訳か」
「まぁ、それもあるかも知れん。
或は、この戦争を早期終結させたいとも考えているかもな」
そう言ってケインはトーストにバターを塗る。
「そこで、だ。
我らが黒死蝶の二人にその新型ヴューレに乗り換えて欲しいと言う事さ」
「本当ですか。
それは良いですね。
新型となると、性能も上がっている筈なんですよね?」
テルシアが僅かに目を細めながら問いかける。
「これまでの第4世代ヴューレから第5世代ヴューレになる。
勿論、性能も向上している筈だ」
「性能が向上しているとは言え、大丈夫なのか?
まさか試作品じゃないだろうな?」
ケインはトーストを頬張ると、首を横に振った。
「試作品ではなく、完成品だ。
順次、他の部隊にも与えられる予定になる」
「そうか、なら良いんだが」
「それに、だ。
これはアスティー様からの直々の指示だからな」