フィフスグラウンド戦記外伝 黒死蝶3
「そうですねぇ。
強いて言うなら、あのオジサンのナンパしてるのがウザかった事ぐらいでしょうか」
「なるほど、いつも通りって事だな」
「これがいつも通りと言うのも変な話ですけれどね」
ため息を交えつつライトフライが答える。
と、俺とライトフライとの視線を感じ取ったのか、男はさも良い事があったかのようにこちらに歩いてくる。
「これは隊長殿。
いや、にしても今日は良い日ですなぁ」
何処か浮かれた様子で答える男。
名前をディルムッド・バルバトロスと言うが、この本人の女好きとでも言うのか時間があれば女性を口説こうとしている様子から軽率を含めて名前を略してバルと呼ばれている事が多い。
勿論、俺自身も本人を呼ぶ際にはバルと略して呼んでいる。
身長185センチを超え、筋肉質な身体を持ち、ヴューレの操縦よりかは白兵戦を得意とするのではないかとも思える見た目。
黒髪を短く切り揃え、戦闘になれば鋭い眼光を敵に向ける様子は古代の将軍を思わせる。
彼のファンと言う女性に言わせるならば、最初は真面目な印象を与えて、甘い口調で口説き、時折見せる紳士的な態度にメロメロだそうだ。
と、素早く俺のすぐ横にいるテルシアを見るなり、口を開く。
「テルシア嬢も、今日も一段と美しいですな。
特にその……。」
と、バルの視線の先。
小脇にヘルメットを抱えたテルシアの胸元を見やる。
テルシアの形の良い眉が僅かに歪んで、俺の視線に気が付いたのか。
空色の瞳の奥に一瞬殺意めいた青い炎を迸らせ、しかし瞬時に彼女は綺麗な笑みを浮かべるといつもの感情の込められていないような口調で言う。
「その、の続きが気になりますが……。
その先の単語を言った際には勿論、分かっていると思いますけれど、あなたがたの両脚の付け根にある操縦桿を切り落とさせて頂きますから、覚悟して下さいね」
いや、いつもの口調に比べると悪意と憎しみが込められている気がしつつ、俺は視線を戻した。
バルも同様に、テルシアならやりかねん、と悟ったのか大きく咳払いをする。
「さてと、自分も機体の整備でもしようかな。
うん、そうしよう。そうしよう」
「ってバルさん。
さっき整備が終わったって言っていませんでしたか?」
と、ライトフライの言葉に苦笑を浮かべつつ、バルは逃げる様に通路へと歩いて行った。