フィフスグラウンド戦記外伝 黒死蝶29
「それよりこれからどうするんだ?
黒死蝶」
からかわれたと思ったのかケインが人の悪い笑みを浮かべて口を開いた。
「どうするとは?」
「ヴェルト隊の人員も貴官とハレム・テルシアの2名のみ。
人事部に言えば、補充要員をまわす事も出来る筈だろう。
何だったら俺が掛け合っても構わんが」
ありがたい申し出ではあった。
バルとライトフライがいた時でさえ既に小隊と言う規模とは呼べない状態であったのだから。
だとしても、と思うのだ。
俺やテルシア。
それにバルとライトフライのこれまでの撃墜数を考えてみて、それはこの少数精鋭であるからこその戦果であったのだと思えて来る。
確かに補充要員によって小隊の人員を補えるだろう。
よって、作戦の幅が増える事は容易に想像が付く。
メリットと、デメリットを天秤に掛けたとして、恐らくメリットの方が遥かに勝るだろう。
だが、この時、俺はどうしてもこの申し出を受け入れる事が出来なかった。
先日のケイン隊の時の様に、目の前で仲間が、自分の部下が撃墜されるのを見る機会も増えるだろう。
これまで嫌と言うほどそれを見て来た。
俺が思っている以上に、心の中でそうした出来事に遭遇する事を恐れているのかも知れない。
だから、俺は、なるべく聞こえの良い様に答える。
「いや、今更補充要員を入れた所で、連携を悪くするだけだろう。
それよりも、他の隊にまわす方が効率的だ」
「なるほどな」
そう言いつつも、彼は俺の本心に感づいたのか、或は理由が俺らしくないとでも思ったのか、暫く観察する様に見やると、何かを納得する様にひとつ頷いて部屋の外へと向かって歩き始める。
と、言い忘れた事があるのを思い出して声を掛ける。
「あ、一つ」
「何だ?」
「バルとライトフライの件は、テルシアに言ったのか?」
「いや、未だだ」
ケインは肩を竦めて答えた。
先ほどはあまり感じなかったのだが、どうやらこれでも彼なりに気を遣っているらしい。
仲間や部下の戦死を告げる役は、あまり経験したくは無い。
そう感じる。
「そうか」
「言いにくいのなら俺から言っておくぞ。
どちらにしても、この後、ハレム・テルシアへ伝えに行こうと思っているんだが」
「いいや、それは俺から言わせてくれるか?」
「良いのか?」
躊躇う様に聞いて来る。
「あぁ、むしろ俺から言うべき事だからな」
「あまり、背負いすぎるなよ」
「分かっている」
「では、な」
皇王国軍の正式な敬礼を交わす。
長い敬礼のあと、ケインが通路の奥まで歩いているのを見送りつつ、考える。
とは、言ったものの、どのようにして伝えれば良いのだろうか、と。