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フィフスグラウンド戦記外伝 黒死蝶27

ライトフライの機体が床に着くのと同時に、彼女の身体が投げ出される。

俺は飛びつく様に受け止めて、仰向けに寝かせた。

首元からの出血が酷い。

忽ち赤く濡れていく。

脇から医療班が駆けつけて来る。

ゆっくりとヘルメットを脱がせた。

まるで糸の切れた人形の様に動かない、しかし僅かに口許が動いた。

何か言っている。

「隊長…。」

彼女の茶色い瞳から大粒の涙が冷たい格納庫の床に伝っていく。

「大丈夫だ。

すぐ良くなる。

心配いらん」

「もう…休んでも」

祈る様な表情を浮かべて、彼女は言う。

「良いです、よね?」

俺は一度、静かに頷いて答える。

「あぁ、休め。

但し」

2時間だけだ、と面白くも無い毒舌を言おうとして、しかしそれ以上何も言えなかった。

最後に大きく息を吐いたまま、彼女は二度と動かなかったからだ。

医療班が、慌ただしく蘇生術を施す。

それでも人形の様に動かないライトフライ。

そして、そのまま医療班に運ばれて行った。

いつの間にか整備班も居ない。

ライトフライのボロボロになった機体。

塗装やパネルが剥がれ落ち、内部のコードや装置がむき出しになったままの煉華。

どれ程の攻撃を受けたのか、ひしひしと感じられた。

相手も必死になっていたのだろう。

その機体と同じ様にぽつんと取り残されたまま、俺は動けなかった。

血で汚れた床から立ち上がり、一歩踏み出そうとするが、足が床に貼りついたままで動かせず、ライトフライが運ばれて行った通路の奥に視線を向ける。

どうやら、俺なりにショックを受けているらしい、と苦笑せざるを得ない。

それが、自覚の無い喪失感なのか、何なのかは分からないのだが。

と、音も無くテルシアが近付いて来る。

「あの、隊長」

そこから言葉を紡ごうとして、しかしテルシアは何も言えずに口を閉じた。

分厚い雲で翳るような暗鬱な空色の瞳をこちらに向けたまま、黙っている。

時が止まったように静寂の中に佇んでいる。

呼吸する事さえも忘れていたのを思い出して俺はひとつ深呼吸する。

「兎に角、部屋に戻ろう。

俺達に出来る事はもう、何も無い」

テルシアの返事を待たずして無理やり足を動かす。

無言のまま、テルシアは俺の、右後ろを付いて歩き始める。

そうして冷たい床を踏みしめる様に、確かめる様に通路を進んで行った。



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