フィフスグラウンド戦記外伝 黒死蝶26
「私、油断していました。
それで気が付いた時にはレーザーが」
ライトフライの普段決して聞く事の無かった弱々しい口調。
声量も徐々に小さくなっていく。
「そしたら、あの人。
庇ってくれて。
いつも変な人なのに。
こう言う時だけ紳士的なんて、本当に嫌な人ですよね」
「バルらしいな」
「バルさんが死んだの、私の責任です。
ごめん、なさい」
声を湿らせながら彼女は言う。
「いいや、誰も責任なんか無いんだ」
「隊長、こう言う時ぐらい、叱って下さいよ」
と、ライトフライの機体が大きく傾ぐ。
「おい!」
無言で彼女は機体を立て直すと再び加速し始めた。
視線の先にはいつも俺達が使っている飛空戦艦が見える。
格納庫の扉は既に開かれている。
あと僅かだ。
「ライトフライ、頑張れ!
あと少しだ」
彼女の左横に機体を付ける。
見ると、左側のヘルメットのバイザーは割れて破損し、首筋から出血していた。
レーザーが掠めたのだろう。
割れたバイザーの隙間からライトフライの潤んだ瞳が見える。
「隊長、あの、良いですか?」
「何だ?」
徐々に格納庫に近付く。
「隊長、ごめんなさい。
ちょっと、頑張れそうに無いです。
休ませて、下さい」
囁く様な声。
「ほんの少しだ。
命令だ。
頑張れ!
良いな!」
格納庫の入り口まで僅かだと言うのに、これまで何とか帰って来れたと言うのに彼女の返事が無い。
「ライトフライ!」
怒鳴る様に言う。
格納庫の床が見える。
5、6名の医療班と、整備班が待機していた。
それと、こちらに真っ直ぐに視線を向けるテルシア。
俺はすぐさま機体から飛び降りる。
「帰って、来れました」
微かに聞こえる声。