フィフスグラウンド戦記外伝 黒死蝶25
俺は機体を翻し、ライトフライの右後方に位置付けた。
機体の損傷が激しい。
怪我をしているのだろう。
彼女のパイロットスーツも赤く濡れている。
「こちらヴェルト。
管制室!
一番近い艦に誘導してくれ!」
「こちら、管制室。
了解。
座標443・154、距離約2000に戦艦ペディアが待機中。
第3格納庫に医療班を待機させています。
マーカー表示」
瞬間に、ヘルメットのバイザーと、機体の小型モニターにマーカーが表示される。
「隊長。
あのー、ですね」
「何も言わなくても良い。
俺に付いて来い」
そう言ってライトフライの右前方に機体を滑らせる。
「ひとつだけ我儘、言わせて、貰えますか?」
「断る」
ぴしゃりと言うもライトフライは聞こえない様子で言う。
「いつも私達がいる格納庫に帰りたいんです。
家、みたいなものですから」
「ライトフライ、冗談は程ほどにしておけよ」
「冗談じゃ無いです。
隊長。
お願い、します。
どうか…。」
恐らく、何を言っても聞かないだろう。
「管制室。
悪いが、予定変更だ。
いつも通りの場所へ頼む」
管制室のオペレーターからの通信は無かったが、代わりに表示のマーカーが変更された。
「感謝する」
短く、伝える。
先ほど、追い抜いた零羅の小隊が合流し、後方から周囲を守る様に編隊を組んだ。
この場にいる誰もが思っているのだろう。
恐らく、彼女は死ぬのだと。
不思議な事ではあるが、戦場に居る時、不意に感じる時がある。
どんな原理でどんな理由なのかは分からないのだが、例えば、敵機から放たれたレーザーが、こちらに向かって来た瞬間に、機体に命中するか、しないかが分かるのと同じ感覚だ。
肌で感じる事の出来る空気とでも言うのだろうか。
「あ、そう言えば。
一つ、報告があります」
思い出した様に彼女が言った。
「バルさんがリベンジを、果たしました。
『白い鳥』のうち1機ですけれど、撃墜したんです」
「そうか」
「でも、残り2機に狙撃されて、しまって」
「あぁ」
相槌を打つ事しか出来なかった。
気の利いた言葉の一つも、毒気の混じった冗談でさえも言えずにいる。




