フィフスグラウンド戦記外伝 黒死蝶23
昼食もいつもの様に、俺はパスタを。
テルシアはサンドイッチを食べて、再び格納庫へ戻って作業を始めた。
「バルとライトフライは遅いな。
予定だと、もう帰ってきても良い頃合いなんだが」
「そうですね。
あれじゃないですか。
二人で何処か遊覧飛行でもしているんじゃないですかね」
ふと思いついたように言うテルシア。
「まぁ、分からんでも無いが」
「俺は少し飛んでくるが、お前はどうする?」
「隊長から言ってくるなんて珍しいじゃないですか。
あ、もしかして私と遊覧飛行したいんじゃ…。
やっぱり隊長って」
そう言って空色の瞳をこちらに向ける。
「やっぱりってなんだよ。
行くのか?
それとも、行かないのか?」
「うーん。
そうですね。
行きたいのは山々ですけど、まだ私の機体の調整が済んでいないので、また次回にしておきます。
ほら、楽しみは先延ばしにしておく方がより楽しく感じるって言うじゃないですか」
「そう言う言葉があるのかどうかは知らんが」
「もしも、早く終わったら私も行きます」
そう言って素早くキーボードの上の指を動かす。
俺は機体に跨り、起動ボタンを押し込む。
途端に、機体がふわりと浮き上がる。
「期待せずに待っているとしよう」
そう言ってヘルメットを被る。
バイザー部分に投影された数値を確認する。
エネルギー残量、高度計、速度計、その他の数値、異常なし。
フットバーを蹴り込むのと同時に、スロットルを捻り込んだ。
瞬間に、見えない羽で羽ばたく様に機体は水平に上昇し、格納庫から蒼穹へと舞い上がる。
格納庫の扉を過ぎた所でシールドを展開させ、加速。
調節した通り、機敏な加速だ。
スロットルを捻った瞬間に、重力を感じさせない加速度で飛翔する。
動力部にある反重力粒子と、重力粒子の制御で猛禽の如くに縦横無尽に空を駆ける。
上空は雲一つない空。
下は青い海。
素直に美しいと思える。
もしも、戦争では無く、本当に遊覧飛行であったのならば、この上なく幸せに感じただろう。
だが、俺が操縦しているのは紛れも無く人を殺める乗り物『ヴューレ』であって、ここは多くの仲間たちが散っていった連邦国の空なのだ。
周囲に浮かぶ漆黒の艦。
皇王国軍黒の騎士団の飛空戦艦を見る度に否応無しにそれを実感させられた。