フィフスグラウンド戦記外伝 黒死蝶19
それから数日が経った。
特に大きな戦いも無い、いつもと分からない日々。
予め決められた空域の警戒が任務だった。
天気は曇天。
天気が変わって、少しばかり気分転換になったであろう事は連日同じようなローテーションで飛翔している故の良い刺激だっただろう。
「今日は、超ぉー楽しみ!!!
ほら、バルさんもテンション上げて下さいよ。
私だけだと馬鹿みたいに見えるじゃないですか!」
「いや、ライトフライ嬢。
既に見えているので、ご安心を」
「ちょ!
失礼な事を言いますね!
私は皆のやる気を出すようにワザとこうしているんです!」
「皆とは言え、明らかに迷惑そうにしていると思われますが」
「うるさいですよ!
オジサン!」
俺とテルシアが格納庫で、機体の整備を行っていると、ライトフライとバルの二人がいつものやり取りをしながら歩いてくるのが見えた。
と、言うよりテルシアの声が格納庫に響いて集中出来ない事が大きかったが。
一歩歩くたびに、ライトフライのポニーテールが大きく揺れている。
彼女が歩いた時のポニーテールの揺れ幅でその日のテンションが分かるのは、この小隊にとっては常識だった。
「あ、隊長ぉー、テルシアさん!!
おっ疲れ様ですっ!」
と、歩きながら敬礼するライトフライ。
明らかに今日はテンションが高い。
むしろ高すぎてバルは困惑気味だ。
「ライトフライ、今日はやけに元気だな」
「いいえ、いつもと変わりませんよ!
それよりも隊長の方こそ、元気が無いみたいじゃないですかっ!」
「いや、俺はいつも通りだ」
「ふーん、そうですか!
それじゃ、行って来ます!」
「あぁ」
「テルシアさんも、また後で!」
「気を付けて」
バル苦笑を浮かべつつこちらに向かって敬礼すると、ライトフライの後を付いて行く様に機体に向かっていった。
相変わらず、元気だけは良いな。
と思いつつ、機体のモニターに接続したキーボードを叩く。
「隊長、知っていましたか?」
ライトフライ達の乗った機体が浮かび上がるのを見やってテルシアが言う。
「何を、だ?」
「ライトフライとバルさんって以前付き合っていたらしいですよ」
「そうなのか?
それは知らなかったが、今は違うのか?」
「これはあくまで私の推測ですが」
そう言ってテルシアは真っ直ぐにこちらを見やる。
「どうやら、復縁したみたいですね」
何処かいつもの無表情に儚さを含んだ口調で言った。
「まぁ、個人の自由だしな。
仲が良い事に越した事は無いが」
とは言え、万が一ライトフライのテンションの高さがバルに伝染したらと思うと微妙だ。
ライトフライ一人でさえあのテンションだ。
もし万が一、バルまでもあの様になると思うと、ため息が出るが、しかし、バルはどちらかと言うと紳士的な人物だ。
そうならない様に祈る事にしよう。