フィフスグラウンド戦記外伝 黒死蝶16
暫く見やった後、機体を翻し、ケイン隊が向かった空域に針路をとる。
「どうしたんですか?
何か不満でも」
「いや、不満などは無い」
「あ、もしかして、あれですか。
ライトフライとバルの動きが気に入らなかったとか」
戦闘空域で飛翔している時には珍しくテルシアが声を僅かに高めながら問いかけてくる。
「見当違いだな。
俺はあの二人の飛翔には満足しているつもりだ。
勿論、お前の飛翔にも、な」
「へぇ。
隊長が素直に褒めて来るなんて、珍しい事もあるんですね。
今夜は雪か雹が降るかも知れませんよ」
「褒めるとか、叱るとかそう言う事じゃ無いだろう。
まぁ、最低限、生きて格納庫に帰って来る事が出来れば、それで良い」
暫しの沈黙。
そして。
「そう……ですね」
「何だ、やけに素直じゃないか。
今夜は雪か雹が降るかも知れんぞ」
「うーん。
そう返して来るとは、隊長も言う様になりましたね」
「いや、俺は元々こう言う性分だからな」
「知りませんでした。
では、何か気になった点でも?」
「いや、少しな」
「少し、ですか?
何です?
教えて下さいよ。
ただでさえ隊長は言葉足らずなんですから」
そう言いつつ、緩やかに旋回を始めた俺の機体に、遅れる事無く追従して来る。
流石は、テルシアと言った所だろう。
俺が旋回を始める挙動も、癖も見切っている。
だからして、ほぼ同時に同じ方角に向けて旋回が出来るのだ。
「そう言うお前もだろう。
まぁ、あれだ。
気になると言えば、奴らの編隊飛行だな」
「そうですね。
逆三角形を描いていました」
テルシアも俺と同じように感じたのだろう。
『白い鳥』の技量の高さ。
その実力。
自分達と同格か、若しくはそれ以上の技量が垣間見れた。
「良い着眼点だな」
「また褒められました。
今夜は、やはり雪か雹が降りますね」




