フィフスグラウンド戦記外伝 黒死蝶13
周囲に視線を向ける。
青と灰色を混ぜた様な色の雲が、流れている。
時折見える海の表面は穏やかだ。
波があまり立っていない。
俺はのんびりと遊覧飛行を楽しむ様に緩やかな曲線を描きながら旋回する。
新人パイロット達の操る第4世代ヴューレ零羅が編隊を組んで飛翔しているが、やはり動きがぎこちない。
落ち着きが無いとでも言うのか、余裕のある動きとは違うのだ。
スロットルを捻る加減、フットバーを蹴るタイミング、ハンドルの角度、他にも機体の体重移動、重力制御等々操作する事が多い。
最初からスムーズに動けるものは誰一人としていないだろう。
特に編隊飛行をしている時は、お互いの感覚や、旋回時のタイミングも合わせなくてはならない。
そしてそれをある程度予測して飛行せねばならない為、数を熟さなければ分からない事もあるだろう。
とは言え、今回予備戦力として入隊した者は、他の騎士団に比べてみれば高水準の者ばかりと聞いている。
黒の騎士団は皇王国の厳しい階級制度には珍しく、技量さえあれば入隊できる。
逆を言えば、技量が無ければ入隊する事は出来ない。
つまりは、ヴューレの飛翔技量が一定以上の水準であると思われる。
将来、黒の騎士団の主力としてヴューレを操縦する者として期待が大きい所だ。
「何だか、懐かしいですね」
テルシアが口を開いた。
「そうだな」
と、短く答える。
俺が入隊したのがかれこれ9年前。
その間に幾度と無く、戦闘に参加した。
皇王国内で小規模な反乱が起こった際の鎮圧にヴューレを操縦する事が多く、他には軍学校での訓練もあった。
多くの友人を持ち、お互いに励まし合いながら飛んだ。
そして数か月前に突然始まった連邦国軍との戦争。
たった数時間の間に、多くの友人や、部下を失う事になった。
学んだ事は多いが、特に思い知らされた事が一つだけあった。
『戦場では感情を捨てる事』だ。
真横を飛翔していた友人が次の瞬間には狙撃され墜落して行ったとしても決して振り向いてはならない。
何も想うな。感じるな。
人である事を忘れろ。
感情は要らない。機械となれ。
それが出来なかった者達は、生き残れない。
少なくとも俺の友人は誰一人として生きていなかった。
テルシアや、バル。
それにライトフライでさえ、言葉に出さずともこの事は分かっているだろう。
青白い閃光が宙を迸った瞬間から、機械の塊の様に敵を屠る兵器となるのだ。
だからして俺は小隊の全員に言っている事があった。
『もしも、俺が撃墜されても、その敵を撃とうと思うな。
必要な時だけ、撃て。
自分が生き残る事だけを考えろ』
それが正しい事なのか、それとも間違っている事なのかは分からない。
俺の言わん事が上手く伝わっていないのかも知れない。
何を気取っているんだ等と笑われているかも知れない。
そう言った後は必ずと言って良い程冗談や毒舌を言い返されるのが常なのだが。




