フィフスグラウンド戦記外伝 黒死蝶10
「と、言う割にはお前も昨日と同じメニューじゃないか。
人の事、言えないだろう」
「そ、そんな事はありません。
私はサンドイッチが好きなだけです。
それに例えば、緊急時になってもすぐに食べ終えれますし」
前半は慌てつつ、後半は自信を感じさせる口調で言う。
ここ数か月、コンビを組むようになってから、徐々に俺の機能性を重視した物事の選び方が似てきたような気がする。
服だってそうだ。
コンビを組み始めの頃は、服装も女性らしくデザインを重視したものをわざわざ本国から持って来て着込んでいた。
本国の街をそのまま歩いても違和感など感じさせない服装だった。
皇王国軍と言う組織上、規律を重視されてはいるが、この黒の騎士団に置いては個人の自由が数多く認められている事が多い。
流石に戦闘時は認められないが、それ以外での服装。
食材、嗜好品の持ち込みなどだ。
この事は皇王国軍の中でも異例中の異例だろう。
俺もそれが気に入ってる点だ。
戦闘時以外なら、本国で生活しているスタイルをそのまま再現も出来る。
そうして彼女も彼女なりにスタイルを保つようにしていた。
だが、数多くの戦闘を経験して、徐々に物が減ってきたように思える。
同時に自分に対するこだわりもだ。
最低限、人が必要な物は思うほど多くは無い。
言い方を変えるならば余計な物を沢山身に着けている様にも思える。
普段、全く感じる事の無かった、生と死のやり取りを重ねていく内に、自分にとって本当に必要な物が何なのか分かってくるのだろう、と思う。
だから、最初付けていたであろう柑橘系の香水も。
細長い爪に描いていた鳥の絵も今は無い。
代わりに、彼女の白い右腕には爆発で吹き飛んだボルトによる擦過傷痕と、右手の甲に絆創膏を貼っている。
これは本人の意思と言う訳でも無いと言えるのだが。
「まぁ、そういう風に機能的な判断も俺は悪くないと思うが」
「でも、出来ればグラタンが食べたいですね。
母親が作ってくれた物ですけれど、あれ美味しいんですよ」
僅かに空色の瞳を潤ませて、何処か懐かしげな表情を作っている。
戦闘時には感じさせない、機械では無い彼女の一面だろう。
「俺は苦手だな。
猫舌だし」
「冷め切っても、美味しいんですよ」
いや、一般的に料理は冷えたら不味いだろう。
あまり料理に拘らない俺ではあるが、流石に冷めたグラタンを食べようとは思わなかった。
せめて、俺がギリギリ口をつけられる温度なら味も多少は変わるかも知れないが食べられない事はない。
そう答えたくなりつつも別の質問をしてみる。
「そう言えば、お前の故郷って何処だったけ?」
途端に、表情がいつもの様に無機質で機械的な物へと変わった。
「隊長、もしかして忘れたんですか?」
一度、聞いた事はあった。
コンビを組んで2日目の昼食時だったか。
でも、これだけは言えるだろう。
今は内容を忘れている。
いや、所々なら覚えてはいるものの具体的に答えようとするとおぼろげだ。
「すまん。
忘れた」
「普段から薄々、思ってはいたんですが」
そう前置きして彼女は言う。
「隊長って人の話を聞いていないですよね。
なので、ちゃんと思い出してくれるまで答えません」
そう言うと大口を開けて野菜サンドを口に運んだ。