第９話 文字
「地震か？！」
咄嗟に壁を背にして座ってた状態からベンチの下に体を滑り込ませようとしゃがんだところで安居さんが頬に手を当てて驚愕した表情を浮かべているのに奈村は気が付いた。
まるで取り返しのつかない事をしてしまったかのようなそんな表情を浮かべながら壁を見つめていた。
そんな安居さんを見ていたらいつの間にか揺れは収まっており固まっている安井さんはそのままにして奈村は入り口のドアを開いた。
まさに目を疑うという言葉はこういう事なんだと知らしめるように奈村は目の前の光景が信じられなかった。
漢字である。
建物から外は黒い漢字で埋め尽くされていた。
足元には『土』と言う字が埋め尽くされ真っ黒に、上空には大きく『空』と言う文字、先程通った場所は『道』と生えてるのは『樹』…
人は理解を越えた光景を見た時に無言になるという真の意味を理解した気がした。
景色が完全に白と黒のモノクロなり文字しかないのである。
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」
奈村の背後から聞こえたその声は安居さんだったが振り返ったそこに在ったのはただ一文字『人』と言う漢字であった。
「ザアァァァァァァァ」
再び奈村の後ろから音がして振り替えるとそこには何もなかった。
いや、正確には文字が無かった。
小さく聞こえる足元に視線をやると文字が落下していってるのだ。
床の底が抜けた時の様に大量の文字がまるで砂時計の砂が落下していくように落ちていく…
神秘的にも見えるその光景を奈村は眺めていた。
小屋の外にはもう何もない。
再び振り替えるとそこに立ってる『人』の文字の上に『口』と言う字が現れ動いて声を発する。
「店長、あまり驚かないんですね。」
「いや、これでも結構驚いていますよ」
暫しの無言、そして確かめるように意思をもって声を発する。
「もう全て話してもらえますよね？安居さん」
奈村のその言葉で『人』と言う文字が『安居』の二文字に変わり突然フワッと来ている衣類を浮かせて安居さんがそこに表れた。
「えっ？まさか…えっ？だって…えっ…？」
安井さんは自らの両手を見て人間に戻ってるのに驚きを隠せず奈村はいつもの優しい笑顔で安居さんが落ち着くまで待つのであった。
物語の雰囲気が一転！
ちなみに雰囲気は「ふんいき」であって「ふいんき」ではないです(笑)
