うさぎさんだいすき
最後まで責任を持って育てるというのは、大事なことですよね。
「お嬢さん、こっちこっち」
森の中を歩いていると、優しい声のうさぎさんにあった。
うさぎさんは手招きしながらわたしのことを呼んでいる。
「あなたはだあれ?」
わたしがそう尋ねると、うさぎさんは少し困ったように笑いながら、答えずにわたしのところへ跳ねてきた。
「ボクが誰だっていいじゃないか。ボクもお嬢さんの名前は聞かないよ。そんなことより、たくさん歩いて疲れたんだろう?こっちにおいでよ」
ふわふわの気持ちいい手でわたしを引っ張りながら、うさぎさんは森の奥へと進んでいった。
体は真っ白なのに、目はとっても綺麗な赤色で、なぜかわからないけど、わたしは冬のある日を思い出した。
本当なら眠っていなくちゃいけない時に、わたしのおとうさんとおかあさんは、起きていていいよって言ってくれたあの日。わたしが寒いなあと思っていると、部屋を暖かくしてくれて、とっても嬉しかったっけ。
「ねえうさぎさん。どこまで行くの。またたくさん歩いたよ」
「もうちょっと、もうちょっと」
うさぎさんは止まる様子もなく、ぴょこぴょこ森の奥に行く。
「わたしそろそろ疲れたよ」
「じゃあ少し休もうか」
そう言って、切り株に腰を下ろしたうさぎさん。
「もうちょっとで着くからね。着いたらたくさん美味しい物があるから、一緒に食べよう」
「ほんとう?楽しみだな」
このころ、わたしはどうして自分が森にいるのか、忘れていた。
「それじゃあ、行こうか」
またうさぎさんに手を引かれ、歩きだす。
あとどれくらいで着くんだろう。
頭のなかで、わたしが唯一歌える歌を何度も何度も繰り返す。
「つーいた。さあ、お嬢さん。ごはんを食べようか。ごはんを食べたら遊ぼうか」
うさぎさんは嬉しそうに私の周りをぴょこぴょこ跳ねる。
わたしもなんだか嬉しくなって、うさぎさんといっしょにまわった。
今まで生きてきて、食べたことのないものをたくさん食べて、お腹がいっぱいになって、わたしは森にいる理由を思い出した。
思い出したらなんだかすごく悲しくなって、涙が出そうになったけれど、わたしにはうさぎさんがいるから、大丈夫、大丈夫。
「うさぎさん、遊ぼう?」
「うん、遊ぼう。なにをしようか。かけっこがいいかな?」
「わたし、足遅いから……。しりとりしたい」
うさぎさんは笑って、
「お嬢さんがしたいなら、しりとりしよう」
わたしとうさぎさんのしりとりが始まった。
ずっとずっと一緒にいて、ご飯も毎日一緒に食べて、そしてしりとりしながら一日を過ごすの……。
*
「あれから一年が経ったけど、このしりとりっていつまで続くかな?いつまでも続くといいね、楽しいから」
夜ご飯のときに、うさぎさんがそう言ってくれた次の日の朝、うさぎさんは返事をくれなくなった。
わたしとうさぎさんの寿命が違うのは知っていたけれど、こんなに早く独りぼっちになるなんて思っていなかったから、わたしはさびしくてさびしくて、一日中泣きつづけた。
わたしにはもう、帰る家もないのに。
うさぎさんだけがわたしのおともだちだったのに。
うさぎさんだけがわたしの家族だったのに。
どうして、どうして、どうして……
わたしはかめです。
うさぎさん…うさぎ
おとうさん…元飼い主さん
おかあさん…元飼い主さん




