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檸檬(千文字小説)

作者: 小出元春




 「ねぇ、レモンって書ける?」


 『レモン』の所だけ外人さんが話すようなネイティブな発音で聞こえたものだから、その言葉が僕に宛てられたものなのか判断するのに時間がかかった。

 声がした隣の席を見るとレモン色(当時、僕はブロンドという言葉を知らなかった)をした髪の女の子が顔を伏せながらもじもじしている。小さかったかしら、と言ったようにも聞こえた。僕たち六年一組は国語の授業中だったから漢字で書けるかを聞いていたのかもしれないし、はたまたアルファベットでどう書くかを聞いているのか判断に迷った。

 僕は転校してきたばかりで隣の子の名前すらまだ覚えていない。僕が困った表情で何も言わないから女の子は顔を伏せたまま、ちらっと目だけ向けてもう一度言った。


 「レモンって漢字で書けますか、と聞きました」


 なんとなく木辺で二文字というのは分かるけど、右側の字が分からない。けど、書けないと素直に言うのは恥ずかしかった。困った表情のまま「分からないから書き方教えてよ」と言う。

 そしたら伏せていた顔を上げてぱぁっと表情が明るくなった。「分かったわ」といって丸びを帯びた字で『檸檬』と書き、その字を僕に見せる。


 「わたしの名前、檸檬っていうの。宜しくね」


 ニコっというより、ニカっという表現が正しかったと思う。今まで碌に友達を作れず、各地を転々としていた僕にはその笑顔は強烈で眩しかった。あっと思った時には胸がドキドキして、顔が熱くなるのが分かった。

 それからというもの、何気なく話題を探しては彼女と話せるよう、無い頭を絞った。お互いの家族構成、出身地、好きな食べ物、僕も彼女もまたいつか他の土地へ引っ越す日が来るだろうということ。


 それでも僕は僕が思っていた以上にこの地に長く住む事になったし、結果、中学卒業までいることができ、友人と呼べる人間も少なからず作る事が出来た。

 まぁ、あの子は小学校の卒業と同時に父方の出身地であるスイスに帰ってしまったけれども。



 それから僕は大学を無事卒業し、その年の春休みに中学の同窓会を開くことになった。その時に出された料理にレモンが添えられていて何気なくあの子の話題を振ると、SNSで時たま写真をアップしていて元気な様子だという。特に最近は彼氏らしき男が一緒に写っているとあって女子連中はかなり盛り上がっていた。


 まぁ、あの子が元気そうなら良かった。

 ただ僕は、死ぬまで檸檬という漢字を忘れることは出来そうにない。

恋愛って付き合うまでのあれこれがキュンキュンで楽しいんですよね。

自分より他人の駆け引きを見てる方が楽しいんですはい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「僕」の心情が伝わってきて甘酸っぱく切ないお話、とても好きです。作者様の優しい文体もお話の内容とよく合っていて、とても良いなと思いました!
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