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ラーベラムの世界  作者: エディ
8/21

第一章4

前書き



 今回も新キャラ登場。

 というか、いつも新キャラ登場してますね~

 書き出したばかりというのもあるけど、どこまで人数増えていくんだ~?

「僕は好きに行動させてもらう」

 唐突にトゥルーは切り出してきた。

 クラウの傷はまだ癒えていないということになっているため、家の中に閉じこもっている状態だ。ユリアからも外出禁止扱いで、外を出歩けない。

 そんなわけで、今家の中にいるのはクラウとトゥルーの二人だけだった。

「そうか、またな」と、クラウ。

「また会うことはあるかは分からないけど、君とは腐れ縁のようだからね。会いたくなくてもまた会うだろう」と、トゥルー。

 その日、トゥルーは辺境の町スラントを後にして、どことも知れない場所へと旅に出ていった。

 別れの挨拶であるなら、あまりにもあっさりしたものだが、これが二人の関係である。

 もともと生粋の魔族であるトゥルーが、クラウと行動を共にしていたことに深い理由はない。トゥルーが言ったように単なる腐れ縁という奴で、それ以上でも以下でもなかった。

 しかし、後日クラウの家にカミュの母がやってきて言ったものだ。

「トゥルーさんも、お金がいるから働きに行ったんだよ。怪我の息子を残していくのは心配だからって、頼まれちゃってね」

 去る前にトゥルーが適当にそんなことをカミュの母に言い残して言ったのだろう。カミュの母が心配してくれるのは分かるが、それでも人間の心をこうも簡単にもてあそんでしまうトゥルーの能力に嫌気がさすクラウ。

 いや、本当は本当はトゥルーに悪態の能力に腹が立っているわけでない。自分の怪我がただの仮病なのに、カミュの母を騙しているようで自分の中の良心が痛んだのだ。

 そしてクラウが外出禁止の間も、毎日カミュとアイリスの二人はやってきてくれた。


 それから一週間が過ぎる。

 ユリアの許可も出て、ようやく外出禁止が解除されたクラウ。まだ体を動かすのは禁止、剣術の訓練などもってのほかと釘を刺された。

 釘を刺されたのは仮病を演じるクラウだけでなく、剣術訓練の師範代のごとき存在であるドーソン老人もだ。

 元軍人のドーソンだが、どうにも思考が短絡・直情的で、おまけに力の加減もできないと来ている。この老人が無理を言ってクラウを訓練に連れ出さないようにと、ユリアがわざわざ呼び出して、きつく言いつけたのだ。

 町長程度の存在でしかない貴族のユリアだが、元軍人であるドーソンは上下関係には厳しい。ユリアの言葉に絶対服従の意識を示した。それにクラウに大怪我をさせたという負い目が、彼にもあった。

 そんなドーソン老人に、「仮病で申し訳ないな」と、クラウは心の中で謝る。

 もっともドーソン老人はクラウの剣術訓練禁止令には従ったが、その日予定されていた剣術訓練の場には、見学で参加するようにとのお達しは出してきた。

「例え体を動かすことが出来なくても、町を守ろうとする者たちの姿を見ておけ」などと言われてだ。

 そんなわけでその日の午後、クラウは町の男たちが訓練する様子をぼんやりと眺めていた。剣術の訓練に参加する気にはならないが、誰もが体を動かしている。そんな光景を見ていると、自分の体を動かしてならないという今の状態が、想像以上に辛くなる。

 こんなのならドーソン老人の剣撃をまともに受けるなんてバカなことをやらなきゃよかったなどと呟く。

 つぶやきながらも、訓練している男たちの様子は観察していた。

 この国では徴兵制があり、一八から二四歳の間に軍隊への入隊が義務付けられているそうだ。いまだに徴兵されていない者はともかく、兵役を終えた男たちの剣の振り方は基礎を理解しているとクラウは見る。

 子供に関しては、それほど大したことがないが、年が年だから当然だろう。

 もっとも、カミュに関しては、子供にしては随分と太刀筋がいいと感心する。と言っても今のクラウはカミュと身長のがほとんど変わらない子供でしかない。

 ……一応、見た目だけの話ではあるが。

「うむ、さすがはモーリス殿のご子息だ。太刀筋がいい」

 訓練の最中、カミュの剣の型を見ながら、ドーソン老人が褒めた。

「本当ですか、僕も頑張っていつか父さんみたいに強くなりたいです」

 答えるカミュの表情は輝いていた。

 よほど父のことを尊敬しているのだろう。ただ、クラウはカミュの父親とは未だに会ったことがない。

「そもそも家族がいるのに帰ってこないって、何をしているんだ?」

 この町に来てクラウも早一カ月が過ぎている。カミュの父は仕事で町にいないということだったが、それにしてもひと月以上も帰ってこないのはさすがに変な話だと思う。

 その後も訓練は続けられ、クラウは男たちの様子を観察し続けた。

 やがて訓練が終わると、クラウはカミュに尋ねてみることにした。もっともクラウがわざわざカミュのところに行かなくても、カミュの方が一直線にクラウのもとへと駆け寄ってくる。

「クラウ、ドーソン教官に筋がいいって褒められたよ」

「ああ、俺も聞いてた」

「褒めて欲しいのか?だったら、いくらでも褒めてやるぞー」と思うクラウ。

 ちなみに余談であるが、ドーソン老人のことをカミュが教官と呼んでいるのは、ドーソンがまだ軍人だった頃、新兵の訓練教官を務めていた時期があったそうだ。その時、新兵たちから教官殿と呼ばれていたので、「諸君もワシのことは教官殿と呼ぶように。よいな」と、訓練場で滔々と昔話をしたことがあったのが理由だそうだ。

 純粋無垢な少年は、どうやらそれに感化されてしまったらしい。

 さて、話を元に戻して現在。

 カミュは少し迷った様子を見せた後、少し緊張した様子で話しかけてきた。

「……ねえ、クラウ。僕もクラウみたいになれるかな?」

「ふぁい?」

 突然何なんだ?と思い、要領が得られないクラウ。

「僕も、クラウみたいに強くなりたいんだ」

 そう言い、カミュはクラウを憧れの目で見た。

 その眼は相変わらずの純粋さだが、クラウはそんな子供の目を見て多少憐憫に似た思いが湧いてくる。

「やめておけ、俺みたいになったらろくなことにならないぞ」

 憐憫は目の前のカミュにでなく、自分に向けた感情だった。言葉にしてから自分の気持ちに気付いたクラウは、内心で自分を自嘲する。自分が今までにしでかしたことがふと脳裏に浮かび、暗い気持ちがわいてきそうになった。

 だが、そんなクラウの内面の複雑さを、目の前の少年は知る由もない。

「そんなことないよ。クラウはとっても強くて、かっこいいよ。君がいなかったら、僕とアイリスは生きてはいなかったんだから」

 強く、はっきりと口にするカミュ。

「……そっか」

 カミュの言葉に、クラウは引きずられそうになった自分の過去の記憶が薄れる。少年の力強い声に、眩しさすら感じた。

「クラウも怪我が治ったら、訓練頑張ろうね」

「ん、ああ。今度はドーソン爺さんにやられないようにしないとな」

「うん、クラウなら絶対にいつかドーソン教官に勝てるよ」

 力強く言うカミュ。

「ハハハ」

 クラウにとって、ドーソン老人に勝つことは目標でないので苦笑いした。何しろ彼の目下の目標はドーソン老人に勝つことでなく、次は派手な怪我をしないようにして、うまく負けようというものだから。

「ところでカミュ、お前に聞きたいことがあるんだが」

「何?」

 さて、ここからが本題だ。

「訓練の時に、ドーソン爺さんがお前の父親のことを口にしていたけど、お前の親父って何してるんだ?」

 ひと月以上家族の元に帰らない人間が一体何をしているのか、実に気になることだ。

「僕の父さんは、この国ですっごくすごく立派で、強い軍人なんだよ。僕もいつか絶対に父さんみたいになって見せるから」

 そう言って、手を握り締めるカミュ。

「立派で強い軍人ねえ……」

 それは本当にすごいことなのだろうかと思うクラウ。立派な軍人なんてものが、役に立つのかと疑念を抱く。

 だが、そんなことを思うクラウに気付かず、カミュは続ける。

「この国の為に働いているから、たまにしか帰ってこれないけど、でも僕の一番の憧れなんだ」

 そう言うカミュの姿は、心から父親のことを尊敬しているようにクラウには見えた。


 さて、父親と言えばクラウの自称父を名乗る男がいる。

 何の感慨もない別れの挨拶をしていなくなった男であるが、それがいきなり町へ戻ってきた。

 クラウにまだ剣術の訓練禁止の命令がユリアから出ているが、軽い運動をする程度なら構わないとの許しは出ていた。一応、この仮病はまだ続いている。

「ハーイ、最愛の我が息子よ」

 街中の昼下がり、人通りもある中でいきなり出没した。

 っていうか、なんかテンション高くないか?

「……なんで戻ってきた?」

 懐かしむほどの時間もたっていない。この男がいなくなってから、まだ1カ月も経過していないのだ。

「実は最愛の息子のことが心配で、お父さんは商売を放り出して帰ってきたのだよ」

「……頭痛がする」

 こめかみを抑えるクラウ。だいたいこいつが父親ってのは、いくらなんでもふざけた話だ。おまけにこの男のファルスの能力に耐性にない町の住人達は、この会話を聞いている間も、クラウとトゥルーの関係を信じ込んでいく。それが分かるから、余計に頭が痛くなる。

「……それで、おとうさん、なぜ、かえってきたのかなー」

 クラウは百万歩譲り、その上で滝壺へ身投げして、その後川を流され続けて海にまでたどり着いた挙句、海底に沈没するほどの妥協をすることにした。

 ひどい棒読みで、トゥルーを父親扱いする。

「ハハハ、クラウの為にお母さんを連れてきてあげたぞー」

 明るく言い放ち、トゥルーは傍にある幌馬車を指さした。ただ、幌のせいで馬車の中までは見えない。

「……何も聞かなかったことにして、帰っていいか?」

「ノンノン、僕はクラウに嫌がらをする為だけに戻ってきたんだ。……だから付き合え」

 最後の部分だけやたら声を低めて、命令形のトゥルー。

「断る!」

「いいのかな、君は僕に借りがあるんだよ?君が熱を出したときに放置してないでわざわざ町まで連れて行ってくれたのは誰かな?」

 ニタニタと笑うトゥルー。魔族は人間の弱みに付け込んでくるのが常套手段だ。いや、相手が人間でなくても、弱みさえあればそこに付け入ってくる生き物だ。そして、この男の魔性の性は、並大抵でない。

「……」

「お母さんに会える喜びで言葉も出ないなんて、ずいぶん可愛いじゃないかい」

 フフフ、クククと嫌な笑いをあげながら、トゥルーは幌馬車の中から1人の女性を伴ってきた。

「僕の愛しのハニーで、クラウのお母さんのニーナニールだよ」

 トゥルーが紹介した女性は、赤い髪と瞳に紅の唇の女性だった。彼女の姿が現れた途端、周囲にいた町の男たちの視線が一直線に集中した。

 彼女のやたらと巨大な胸に。

「ああ、男って生き物は何でこう素直なんだ」と思いつつ、クラウはトゥルーが言うクラウの自称母を見つめた。

「初めましてクラウ様、ニーナとお呼び下さいな」

 そう名乗る女性。

「ニーナ、初めましてはおかしいだろう。クラウは君の最愛の息子なんだから」

「ウフフ、申し訳ございません。ご主人様」

 トゥルーの注意を受けると、艶やかに笑いながら謝罪するニーナ。それにしても、トゥルーが夫になるのなら、ご主人様って呼び方もおかしすぎるだろう。

「でも、仕方がないんだよクラウ。何しろ君は僕の愛人であるニーナとの間にできた息子だから……僕たちが本宅で一緒に暮らすことはできないんだ」

 そんなことを勝手に口走りだすトゥルー。

「おい馬鹿やめろ!そんなことを衆人環境で口走るな!」

 このままではトゥルーの能力のせいで、変な誤解を町中の人間がしてしまう。いくらなんでもそんな馬鹿なことを認めさせてたまるか!

 クラウは必死になってトゥルーの放言を阻止しようとした。だが、トゥルーはクラウから逃れるように走り出した。その後をクラウは追いかけて、止めようとする。

 しかしトゥルーが町中で放言を口にし続けた結果、町中の人間が、クラウはトゥルーとその愛人であるニーナニールという女性の間にできた隠し子。おまけにトゥルーは別の町に本妻と子供がいるなどと言うわけのわからない状態を信じ込むようになってしまった。

 しかも嘘を広めて回った当人は、その日のうちにやってきた馬車ともども逃げるようにして消え去った。


 散々追いかけた挙句、トゥルーにはまんまと逃げられたクラウ。もはや町中の噂をどうにもできないとあきらめながら家へと戻ってきた。

「クラウ様、私に何なりとご命令ください」

 帰ってくるとクラウを出迎えたのは、自称母であるニーナだ。

「なんでお前が残ってるんだよ?」

「ご主人様の命令ですので」

 相変わらず、トゥルーのことをご主人様呼ばわりしている。

「お前、もしかしなくてもあいつの眷属だよな」

「あいつとは、トゥルー様のことでしょうか」

 魔族であるトゥルーを主と言っている。ならばこの女はトゥルーの眷属ということで間違いない。トゥルーはふざけた軽薄さに対して、かなり実力のある魔族だった。当然ながら、奴のもとには眷属である魔族が数知れず存在する。

 ニーナはその中の一人というわけだ。

 ニーナは肯定を言葉にしないが、口を微かに笑わせるだけで、クラウの言うことに同意した。

 これではトゥルーにいいように転がされているだけだ。

 そう思うクラウだが、無駄にあがいても、状況を余計に悪化させだけだと思い直して、すぐにやめた。どうせ大したことではない。ならばこのまま掌で転がされてしまえばいい。などと、半分は諦め気味だ。

 もっとも、

「母親のふりをするなら、息子に様をつける母がどこにいるんだ?」

「まあ、申し訳ございません。ですがクラウ様、あなた様は魔族である私たちから見ても、そういう存在ですから」

 ニーナは丁寧な仕草で服の裾をつかみ、わざわざ一礼までする。

「つまり……俺が何かは知ってるわけだ」

「無論、あなたは我々にとっても恐ろしい方ですから」

 言葉と裏腹に、ニーナはにやりと笑って見せた。

 全く、性悪は魔族の本能と言っていい。トゥルーと言いニーナと言い、魔族たちを見ていてクラウはうんざりする思いになった。

 だが、このままニーナを追い払ってしまうのも危険だと考える。自分の目の届かないところに行けば、何をし始めるか分かったものでない。

「……認めたくはないが、一応母親役ということでこの家に置いておこう」

「光栄です」

「ただし、もっと普通の母親らしくするように。あと魔族としての行動は、必ずするな!」

 クラウは睨み付けながらニーナに命令した。

「はい、それはもちろん」

 深々と頭を下げて、ニーナは了承の意を示した。


あとがき



 どこかの総統閣下は「オッパイ、プル~ンプル~ン」なんて言ってネタにされていますが、それに影響されたのか、ボインお母さんが出現しました。


 なんでこんな人が出てくるのでしょうね?

 あとがきを書いているときの私には、執筆中の私の精神状態が全く持って不可解です。


 そして、今回で一章は終了となります~

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