プロローグ3
前書き
ヌードシーンはサービスですか?
(別にエッチいのは何もしてないけど)
狼との戦いの後、胃の中の物をもどしていたカミュの様子も落ち着いた。一応怖がらせないようにと、クラウは二人の少年少女の傍から離れた場所に移動していた。
あの戦いは子供には精神的な負担が大きいだろう。それに、今のクラウの格好のことがある。何しろあの戦いの中で散々に狼の返り血やら肉片やらがこびりついていた。黒衣衣装の上に異質な色の肉片が付着し、黒故に目立たないが、その服の端々からは狼の血が滴り落ちている。髪にもねっとりとした感触があるから、顔とてどんな風になっているかわからない。
「うわ、ひどい格好だね」
そんな中、戦いが終わった現場に現れた軽薄男の第一声がした。実際、今の自分の格好がひどいものだと分かっているクラウは、軽薄男に何も言い返さなかった。ただし、睨み付けはする。
もっとも、そんなものなどこの男にはどこ吹く風。
軽薄男は「やあ」と、カミュとアイリスに片手をあげて挨拶した。
新たな人物にカミュは警戒する。アイリスに関しては先ほどの恐怖の中から抜け出せていないので、とても反応できない。
「心配するな、俺の連れだ」
「連れですー」
安心させるために言ったクラウ。軽薄男の適当な挨拶に、カミュは頷いただけで答えた。
なんとなくでも、軽薄男から感じる信頼感の持てない様子に警戒しているのだろう。
それで正しい、とクラウはカミュの反応の正しさを心の中で認める。
「ところで聞きたいんだが、この辺に水場はないか……あー、その、今はこういう格好だからな」
自分の格好を見せつけるわけではないが。とりあえず水で洗い流さないとどうにもならない状態だった。
カミュとアイリスに案内されて、クラウと軽薄男は近くにある川に辿り着いた。
クラウは川の水で顔を洗い、それから水面に映った自分の姿を見てため息をついた。
「マジで子供じゃないか」
水面に映る若いを通り越して、幼い自分の顔を見てなんとも言えない感情になる。もともとの自分はこんな子供でないのに、どうしてこうなるんだ。そんなことを思う。だが、詮無いことを考え続けても仕方がないので、これ以上は考えないようにする。
「いっそのこと、全部洗っちゃえば」
離れた場所から、カミュたちと共にいる軽薄男がクラウに言ってきた。軽薄男の提案に従うのは癪だが、今の格好では仕方がない。クラウは服を脱いで、こびりついた血を洗い流すことにした。
その間、機転を利かせたカミュが火を起こすために近くに落ちている木を集めに行った。
軽薄男とともに残された残されたアイリスは相変わらず震えていて、そのことをカミュも心配していて、木を集めながらもチラチラとアイリスの方を見ている。
「ふーん、おいしそうな子だね」
そんな中アイリスを見ながら、つぶやく軽薄男。
その声は小さく、カミュには聞こえていなかったようだが、クラウの耳にははっきりと聞こえていた。
「変なことするなよ。絶対に!」
ドスの効いたクラウの声が響き、カミュが何事かとクラウに視線を向けたほどだ。
だが、警告された当の本人はどこ吹く風。
「裸の男の子がいう台詞じゃないね」
「やかましい!」
軽薄男の言う通りだろう。
クラウは口論に負けたような気がして、そのまま川にザブンと大きな音を立てて飛び込んだ。
軽薄男はいまだに傍で恐怖におびえている少女のことなど完全にお構いなしで、能天気でやたらと明るい調子の鼻歌を歌い始めた。
そうしている間に木々を集め終わったカミュが手慣れた仕草で火を起こす。それも時に、傍にいるアイリスのことを気遣いつつだった。
「暖かいね」
焚火が出来上がると、アイリスは火を見ながらそれだけぽつりと口にした。
「うん、そうだね」
恐怖が少し薄れたのか、アイリスが初めて言葉を口にした。その様子に、カミュも安堵を覚える。
「なあ、ところで着替えってなかったよな?」
そんな中、クラウの声がした。
「ない」
軽薄男が即座に断言した。
「じゃあ、服が渇くまで上に着られそうなものは?」
上半身がシャツ1枚の軽薄男。カミュとアイリスの二人も、厚着でないのでクラウに貸せるほどのものがない。
「おやおや、女の子の前で全裸になるなんて、クラウ君超大胆」
わざわざお姉言葉になってクラウをからかう軽薄男。
「……」
一方のクラウは完全に沈黙していた。
結局、クラウは血を洗い流して湿ったままのロングコート状の上着を着て、焚火の傍で暖を取った。少し離れた場所にアイリスはいるが、クラウの方を見ないように背を向けている。
残りの服も焚火の傍に置いて乾かすが、そうすぐに乾くものでない。
「やーい、変態」と挑発する軽薄男の声に、クラウは反応する気にもなれない。
「助けてもらったのに、こんなことになって申し訳ないです」と、カミュが申し訳なさそうにする。
「別に謝らなくていいって」
そう言いながら、クラウは焚火に手を当てる。
「でも、少し寒いな」
コートが濡れているせいもあるが、火がこんなに傍にあって、どうしてこんなに寒いんだと、自分でも不思議に思う。
と、次の瞬間視界が歪んだ。そのことに気付くより早く、クラウの意識は暗い闇の中に落ちてしまった。
突然、クラウが意識を失って倒れてしまった。
「クラウさん!」
と、叫ぶカミュ。
受け身も取らずに倒れた彼の傍に駆け寄ると、呼吸が荒いことに気付いた。そして、顔が火照ったように赤く、玉粒のような汗を浮かべている。試しに額に触れてみると、焼けるように熱かった。
「驚いた、馬鹿が風邪をひくはずがないのに」と、軽薄男。
「冗談を言ってる場合ですか!」
カミュが叫ぶが、軽薄男は暢気な態度を崩さない。
「大丈夫大丈夫。これが風邪ぐらいで死にはしないって。というか、どうして風邪なんかになるのか不思議だね」
この人、本気でこんなことを言っているのか。
カミュには、クラウから連れとしか説明されていない軽薄男の言動に、怒りに近い感情を覚えた。あまりにも、クラウのことを心配していない。人のことをなんと思っているのだろうかと怒りたくなった。
「僕たちの住んでいる町があります。そこまで連れて行かないと」
「町ねえ……とりあえず雨風が防げるならそこまで行きたいね」
「早くしましょう」
こうして話がまとまったかに見えたのだが、「ところで、クラウは連れて行かないとダメ?」と、真顔で尋ねる軽薄男。
それに対してカミュとアイリスの二人が本気で睨んだ。
二人にとってクラウは、命の恩人だった。なのにその人に対しての扱いが、あまりにもひどすぎる。
だが、子供たちの視線をしばらく眺めた後、軽薄男はうっすらと笑みを浮かべて頷いた。
『まあ、ここで放っておいても死にはしないけど、借りにしておけるか。きっと後でこのことを知ったらクラウのヤツ、悔しがるだろうな。クックックッ』
そんなことを思い、軽薄男はクラウの体を背負って町へと向かうことにした。
あとがきという名の作者の暴走タイム
アイリスって書くと、ついついアイリスフィールって書きたくなっちゃうんですよね。
え、そりゃ駄目だろうって?
じゃあ、イリアスフィールにしてもいいですか?
(パクリしか考えようとしない作者のスーダラ脳内会議より)