表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追憶のノスタルジア  作者: 壮佳
第二晶
9/18

──────

◆ ◆ ◆



「──、い………──リン……、リンドウ」



誰かの呼びかけで、思考世界から引きずり出される。


気がつけば、目の前を(てのひら)がヒラヒラと上下していた。




「聞いてる?」


「……時雨がなんで………」



──生きている?




と聞こうとして口を開き、少しの浚巡(しゅんじゅん)の後、喉元まで込み上げていた塊を嚥下(えんげ)した。

残ったため息だけが吐き出される。




「……別に」



とだけ告げれば、案の定、蓮は眉ねにシワを寄せる。



「は? なんだよ、それ。今、何か言いかけてただろ」


「別にって言っ──」


「言えよ」




ほんのかすかに殺気を纏った言葉が、飛んでくる。


一発触発の危機を秘めて、火花を散らす碧眼と琥珀色の眼。


凍りつくような沈黙が、二人の間に鎮座する。




「……まぁ、いいけどね別に。今は僕の婚約者だから」




またもや、蓮の言葉に反応してしまう。

蓮に強い視線を向けてしまった後で、にやりと蓮が口の端をつり上げ、




「ほら、隠しきれてないってば」




と、笑う。

キッ、と鋭い眼差しを蓮に向ければ、彼は見下すような冷笑を浮かべ、こう言う。



「時雨の何を知ってるか判らないけど、僕らが知らない何か重要な情報をリンドウが持っているなら、家の者がお前を連行して、拷問にかけるかもしれないよ?」


「…………」


「なんなら、僕が言いつけてやろうか?」




彼の目に、(あざけ)るような光が漂う。

そんな蓮を燐慟はただ見つめ、億劫げに息を吐き出した。




「………お前、本っ当に面倒くせェヤツだな」


「あ、やっと喋った」


「うるせェ、話しかけんな」


「えー、いいのかなぁ、神咲に逆らっても。 父上に報告してもいいの?」


「………何が目的だ」




その言葉を待ってたと言わんばかりに、嬉しそうに顔を輝かせ、息を弾ませる。




「友達になろう」



唖然として、まじまじと蓮の顔を見つめてしまう。



「…………………は?」


「だから、僕と友達になろう」


「………てめェ、ふざけてんのか」




自分でも驚くくらいの低い声が、口から発せられた。

声が怒りに震えるのを、抑えきれない。抑えられるはずがない。



「ははっ、そんなにキレるなって。お前の内のノアが穢れるぜ?」




隠しきれていたはずだった。

いや、隠せている。

何せ、無理矢理封じ込めているのだから。

だから、周りのヤツらには悟られることはない。

そう思っていた。

これはハッタリか、それとも本当に──



「………なんのコトだ」



だから結局、燐慟はこう言った。

それに、蓮は笑って言う。



「隠してもムダだって。な、仲良くやろうぜ、リンドウ」



その張り付いている笑顔の下で何を考えているのか、皆目見当がつかない。

が、注意しておくに越したことはないだろう。




「俺に話しかけんな」


「ははっ、素直じゃないなぁ」



そこで女教師が、



「ではみなさん、講堂に行きましょう」




どうやら、これから入学式が始まるらしい。

その新入生代表のあいさつをするのが、神咲 時雨だと蓮は言う。

本当に、あの時雨なのだろうかと心の中で疑問が渦巻くが、とにかく、自分自身の目で確かめるしかない。


イスが床と接触し音を立てながら、生徒たちは腰をあげる。

机に手をついて立ち上がった蓮が、




「さ、行こうぜリンドウ」



右手を燐慟に伸ばす。

燐慟はその手を見上げ、顔をしかめ、払う。




「だから、俺に話しかけんなって言──」


「ははっ、素直になれって」



それでも懲りず、蓮は燐慟の手を無理矢理掴み引き上げる。




「神咲家には逆らわないんだろ? だったら俺に従えよ」


「……ッ…くそが」



そんな燐慟の悪態をものともせず、蓮はなおも笑みを浮かべる。


それから燐慟たちは、講堂に向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ