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「君、猫かぶってるでしょ。バレバレなんだけど」
スッと細目られる二つの瞳。放たれる眼光は、触れたら怪我をしてしまいそうなほどに鋭い。
「何か、色々企んでたりして」
いきなり核心をついてきた蓮。だが、ここでボロを出すわけにもいかず、燐慟もほんの少しだけ反撃に出る。
「猫をかぶる? そんな必要がどこに──」
「いやいや、ありまくりでしょ。何せここは、神咲直轄の超エリート学園。神咲の息のかかった者しかいないんだから」
あいも変わらぬ人当たりの良さそうな笑顔を貼り付けて、蓮は言う。
「言うなれば、君は敵陣にたった一人で迷い込んだ野良犬、ってとこかな?」
子供騙しの嘘などではない。彼は──神咲 蓮は完全に確信している。
これ以上何を言っても、無駄だと判断した燐慟は、長く尾を引く白いため息を吐き出すと、眉根にシワを寄せて窓の外に目をやった。
「お前、めんどくせェな」
すると、途端に目を輝かせた蓮。
「お、敬語やめてくれるんだ」
声を弾ませて、蓮がこちらを見る。やはり、ニコニコと楽しそうに笑っていた。
「うるさい。俺は、めんどくさいヤツ大嫌いなんだよ」
「えぇー、めんどくさいヤツって僕?」
「お前以外にいないだろ」
すると、蓮はまたくすくすと笑い声を洩らす。
「それじゃあ、明日からの実力試験でも本気見せてくれるよね」
リリアラド学園の初めての行事、実力試験。
学年ごとに、それぞれ割り振られた組み合わせ通りに、トーナメント式で戦い、実力を図るというもの。
審判が下した判定は絶対で、相手を殺してしまった場合は、減点となる。
つまり、合法的に人を殺せる、完全なる違法地帯となっている。
「ただ、時雨もいるからなぁ。本気でいかないと死んじゃうかもよ?」
「──ッ!!?」
『時雨』
その一言を聞いた瞬間、自分の身体が反応してしまったのが判った。
「ははっ、何それ、隠そうとしてるつもり?」
「…………」
鋭く目を光らせた蓮に、これ以上探りを入れられないように、なんとか平静を装う燐慟。
「気になるでしょ? "なぜ彼女が生きているのか"」
黙り込んだ燐慟に、さらに蓮は言葉を重ねる。
「教えてあげてもいいよ、彼女のこと」
横目で確認できた蓮の瞳に浮かぶのは、兎を狩る獣のそれ。
ぞわり、と。
背筋に悪寒が走る。
何か、嫌な予感がする。
そして、蓮の唇が動いた。
「──ただし、トーナメント戦で僕に勝ったらね」
普通の女子がそれを見たならば、頬を赤らめて顔を逸らすであろうその笑顔が。
獲物を追い詰めた猛獣のようなその双眸が、燐慟を捉えていた。
「無理に決まってるだろ。俺は榊なんだぞ」
「ふぅん………」
スッと細められた碧眼が、燐慟を見る。
ピリピリとした沈黙が、両者の間に腰を落ち着かせる。
「ま、いいけどね。それはそうと、時雨、入学式で新入生代表あいさつをするらしいよ。首席だったらしいからさ──」
そんな蓮の言葉が燐慟の鼓膜を叩くも、すでにこのとき、蓮の声は燐慟には届いていなかった。




